金融庁では、老後資金が不足しないための対策として、現役期はもちろんのこと退職後も資産運用をするようにと勧めています。※
しかし、投資にはリスクが付き物ですので、安易に手を出してしまうと保有している資産さえ失いかねません。
そもそも老後資金のために資産運用をする必要があるのでしょうか。
そこでみなさんが気になっている、「資産運用をするときの注意点や知っておきたいリスク」、「リスクを軽減する方法」、「おすすめの資産運用方法」についてまとめました。
老後資金が不安な方、また、すでに退職してこれからの生活に不安を感じている方はぜひご覧ください。
※金融庁 金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」p.25-26(外部リンク)
老後資金は大丈夫?資産運用の必要性が高い人とは?
国民生活基礎調査によりますと、世帯あたりの平均貯蓄額は1,031.5万円で、老後に不足するだろうと言われる2,000万円を貯蓄している家庭はそう多くはありません。
そろそろ退職後の生活が見えてくる世帯主が50代の世帯でも、平均貯蓄額は1049.6万円と1,000万円ほど不足しています。
また、平均借入額が世帯あたり430.1万円あることも考慮に入れるなら、不足する額はさらに増えることでしょう。
平均貯蓄額 | 平均借入額 | |
---|---|---|
世帯主が40代 | 652.0万円 | 862.1万円 |
世帯主が50代 | 1049.6万円 | 581.6万円 |
全世帯 | 1031.5万円 | 430.1万円 |
参考:厚生労働省「平成28年度 国民生活基礎調査の概況」p.13-14(外部リンク)
実は、すべての方が老後に向けて資産運用をする必要はありません。
2,000万円の老後資金を保有していなくても、公的年金や私的年金、その他の方法で無理なく生活していける方も多いのです。
しかし、資産運用をするほうが良い人がいることも事実であり、とりわけ次のいずれかに該当する方は、老後に向けた資産運用を検討していく必要があるでしょう。
- 老後に受け取れる公的年金が少額の人
- 退職するまでにまだまだ時間がある人
- 元々投資をおこなっている人
1.老後に受け取れる公的年金が少額の人
公的年金をいくらくらい受け取れるかご存知ですか?
いくらか分からない方は、日本年金機構から送付される「ねんきん定期便」や日本年金機構のサイト「ねんきんネット」で調べてみましょう。
予想よりも少額しか受け取れない方は、資産運用をして老後資金を準備しておく必要があります。
特に自営業の方や厚生年金加入期間が短い方などは、公的年金だけで生活していくのは容易ではありません。
年金だけでなんとかなると甘く考えるのではなく、将来受け取れる金額と必要な金額の差額を準備していきましょう。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
厚生年金受給者(65歳以上) | 172,742円 | 108,756円 |
国民年金受給者(65歳以上) | 受給資格期間25年以上:55,809円 受給資格期間25年未満:19,064円 |
参考:厚生労働省「平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」p.12、13、2(外部リンク)
※国民年金の受給金額については、男女別に記載されていません
2.退職するまでにまだまだ時間がある20代~50代前半の人
資産運用をしても、かならずしも利益が得られるとは限りません。
退職が目の前に迫っているときに資産運用を始めると、「早く利益を上げたい」と気持ちが焦ってしまい、ハイリスクな金融商品や不動産に手を出してしまう恐れがあります。
できれば、20代~50代前半ごろの退職までにまだまだ時間があって気持ちにも余裕があるときに、資産運用を始めたいものです。
「投資期間が長い」ということは、時間をかけてリスクの低い投資をおこなえるということを意味します。
資産運用をすることで老後資金を減らしてしまうことがないよう、慎重に行動していきましょう。
3.元々投資をおこなっている人
すでに投資をおこなって慣れている方なら、老後資金も投資で増やしやすくなります。
今までは無目的にお金を殖やしていた方は、「老後のために○○万円貯めたい」と目標を決めて資産運用を続けていきましょう。
資産運用で老後資金を失う場合も!投資する前に知っておきたい3つのリスク
資産運用は「お金を殖やす魔法の手段」ではありませんので、うまく資産が増えることもあれば、反対に資産を失うこともあります。
資産運用で老後資金を準備する前に、「投資」が持つ3つのリスクについて知っておくようにしましょう。
- 元本が保証されていない投資商品も多い
- 途中解約すると損をする商品もある
- 為替変動や倒産のリスクもある
1.元本が保証されていない投資商品も多い
投資というものは、そもそも元本が保証されていない行為です。
資本が増えることもあれば減ることもありますので、充分にリスクを把握してから取り組むようにしたいものです。
元本が保証されている投資といえば、普通預金を挙げることができますが、2019年12月時点のメガバンクの金利で計算すると1億円を預けても年に800円弱(税引き後)しか増えないため、預金利息だけで老後資金を準備することは難しそうです。
お金を殖やすためにはある程度のリスクは抱えなくてはいけないということを、常に心に留めておきましょう。
普通預金(金利年0.001%) | 定期預金(金利年0.01%) | |
---|---|---|
1,000万円を預けた場合 | 80円 | 797円 |
1億円を預けた場合 | 797円 | 7,969円 |
※税金(20.315%)を引いた後、小数点以下を切り上げています
2.途中解約すると損をする商品もある
資産をすべて投資に回してしまうと、急にまとまったお金が必要になったときには、一部の金融商品などの解約が必要になることがあります。
また、いくらか預金を残しておく場合でも、急に大金が必要になったときは、やはり一部の金融商品などの解約を検討することになります。
しかし、金融商品によっては途中解約すると今まで投入してきた資金よりも少ない金額しか受け取れないことがあり、大きな損失につながることも少なくありません。
資産運用期間中に起こり得るさまざまな支出を想定し、投資資金の配分と投資商品の選択についてしっかりと吟味する必要があるのです。
3.為替変動や倒産のリスクもある
先程も紹介しましたが、日本の預金金利は非常に低く、高額な資産を持っている方でも、普通預金や定期預金の利息だけで生活することは困難です。
一方、外貨預金は国内預金と比べると金利が高く、少ない資本でも多額の利息を受け取れるものも少なくありません。
しかしながら、外貨預金は為替変動の影響を受けるため、預金開始日よりも解約時が円高の場合は、利息が目減りすることや元本割れすることもあるのです。
為替変動の影響を強く受ける投資 |
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外貨預金、外貨建て債券、FX、外国株式、外国債券や外国株式を含む投資信託など |
また、滅多にあることではありませんが、金融機関そのものが倒産する可能性もあります。
日本国内の銀行に預けた預金なら、預金保険制度(※)によって1機関あたり1名義1,000万円までの元本と破綻日までの利息が保護されますが、該当しない商品や外国金融機関の商品に関しては保証されません。
もちろん、預金保険制度が適用される金融商品であっても、1,000万円を超えている部分に関しては保護されないため全額を失う恐れもあります。
老後資金のための資産運用!リスクを回避する方法
リスクがあるからといって普通預金や定期預金だけをしていても、充分な老後資金を貯められない可能性があります。
特に老後までに充分な時間がある50代前半までの方なら、リスクを回避しながらでも着実に資産を積み上げていくことができるでしょう。
また、退職までにあまり時間がない方やすでに退職した方も、老後の生活を脅かさない程度に余剰資金を使って資産運用することができます。
次の3つのポイントに留意して、賢く資産運用を始めていきましょう。
- ポートフォリオを作って分散投資を実施する
- 手元に資金を残しておく
- 余剰資金で投資をする
1.ポートフォリオを作って分散投資を実施する
資産運用の基本は、分散投資です。
どんなに良い投資案件があったとしても、資産全額を投入することはおすすめできません。
まずはご自身や家族の資産を書き出し、いくつかの金融商品や不動産、保険などに資産を分散させた組み合わせ、すなわちポートフォリオを作成していきましょう。
2.手元に資金を残しておく
急にお金が必要になったときに金融商品を解約すると、今まで投入した資金よりも少額の現金しか受け取れないことがあります。
不動産を手放してお金を作る場合でも、急いで売却するとなると相場よりも安く売ることになってしまうケースが多いです。
また、金融機関からお金を借りて用意することもできますが、利息が発生しますので、決してお得な方法とは言えません。
万が一のことが起こったときのためにも、ある程度の金額は、いつでも引き出せる普通預金やMRF(公社債)などの形で保有しておくようにしましょう。
3.余剰資金で投資をする
資産運用は、老後の生活を豊かにするためにおこないます。
しかし、「老後は金銭的に豊かに暮らしたい」という気持ちが強すぎて、現在の生活を極端に切り詰めてしまうのではストレスが溜まります。
資産運用に活用する資金は現在の生活を脅かさない程度に抑え、老後のための資産運用をおこなっていくようにしましょう。
とりわけ、50代後半以降に資産運用をおこなうときは、投資による失敗を巻き返す時間がないため、投資結果がダイレクトに老後生活に響いてしまいます。
投資資金に多額を投入することは控え、無理なく資産運用していかなくてはなりません。
たいていの投資はリスクが付き物ですから、運用益が出るどころか損失を被る可能性もあります。
「万が一のときにはなくなっても仕方がない」と思える余剰資金で、投資をおこなうようにしてください。
老後資金におすすめ!3つの資産運用方法
老後資金のために資産運用をするなら、手堅いものや受取時期を指定できるものがおすすめです。
現在の状況別におすすめの資産運用方法を紹介します。
現在の状況 | おすすめの資産運用方法 | どんな方におすすめか |
---|---|---|
老後資金が明らかに足りない |
| 現在のポートフォリオの試算では老後資金を退職時まで作れない方 |
老後までに時間的余裕がある |
| 20代~50代前半までの方 |
投資をおこなうことに慣れている |
| 定期的に投資をおこない利益を上げている方 |
上記の表を参考にあなたの状況に合わせてピッタリの運用方法を組み合わせましょう。
老後資金が明らかに足りない方におすすめの資産運用方法
個人年金保険は、加入が義務付けられている公的年金とは異なり、任意で始める年金です。
一定期間のみ保険料を納め、受取時期が来たら受給を開始します。
なお、個人年金保険に支払った保険料は生命保険控除の対象ですので、課税所得を最大40,000円減らすことができます。※
将来に備えるだけでなく現時点での節税にもつながりますので、老後資金が不安な方は個人年金保険も検討してみましょう。
※平成24年1月1日以降に契約した個人年金保険の場合。平成23年12月31日までに契約した個人年金保険は、最大50,000円の所得控除が受けられます
退職から年金支給開始までに収入が大幅に減る方は「指定期間受取型」
個人年金保険には、一定期間だけ年金を受け取る「指定期間受取型」と生涯にわたって年金を受け取る「終身型」があります。
退職から年金支給開始までに期間が空いている場合は、指定期間受取型の個人年金保険で生活費を受け取れるようにしておくことがおすすめです。
指定期間受取型の個人年金保険は終身型よりも保険料が低く、続けやすいというメリットもあります。
また、退職後は年金支給開始まで再就職する予定がある方も、再就職がスムーズに決まらない可能性もありますし、再就職しても現役ほどの給料を受け取れない可能性も充分にあります。
年金支給開始までに老後資金を切り崩したくないと考えているのなら、指定期間受取型の個人年金保険で備えておきましょう。
年金受給額を増やすために指定期間受取型の個人年金保険を活用することもできます。
老齢基礎年金の受給は満65歳からですが、受給開始年齢を5年繰り下げて満70歳から受け取ることにすると、受給額を42%増やすことができるのです。
たとえば平成31年度の老齢基礎年金は満額で780,100円ですが、満70歳から受け取ることにすると年間1,107,742円にもなります。
また、老齢厚生年金も通常の受給開始年齢は満65歳です。
満70歳から受け取ることにすれば、本来月200,000円の方なら1ヶ月あたり284,000円も受け取れることになります。
指定期間受取型の個人年金保険のメリットをまとめると次の通りです。
- 必要な期間だけ年金を受け取れる
- 終身型と比べると保険料が安い
- 退職後の再就職がうまく行かなかったときにも備えられる
- 公的年金の繰り下げ受給を活用して、年金受給額を増やすことができる
- 生命保険控除が適用されて節税できる
公的年金の金額が少ない方は「終身型」
公的年金の金額が少ない場合は、終身型の個人年金保険の利用を検討しましょう。
指定期間受取型の個人年金保険と比べると保険料は高額ですが、一生涯年金を受け取れることは大きなメリットです。
保険料は高額とはいえ、長生きすればするほど受け取れる年金の額が増えるわけですから、老後の金銭的な負担が不安な方にはとりわけおすすめの保険と言えます。
ただし、遺族年金と障害年金をのぞいた公的年金だけでなく、個人年金保険で受け取る保険金にも税金がかかりますので、公的年金だけを受け取るときと比べると税額が高くなることを忘れてはいけません。
終身型の個人年金保険に加入するときは毎月の保険金の金額だけに注目するのではなく、おおよその税額を差し引いた実際に使える金額を計算しておくようにしましょう。
終身型の個人年金保険のメリットは次の2点です。
- 一生涯、年金を受給することができる
- 生命保険控除が適用されて節税できる
老後までに時間的余裕のある20代~50代前半におすすめの資産運用方法
老後までに時間的余裕がある20代~40代、そして50代になったばかりの方なら、ローリスクローリターンの投資で、手堅く資産運用をしていきましょう。
ローリスクの投資と言えば投資信託が人気ですが、投資信託は元本が保証されていないため、投入した資金よりも少額しか受け取れない可能性があります。
元本割れを避けたい方は、元本保証型の国債や地方債に投資することを検討してみましょう。
国債・地方債
- 基本的に元本割れはしない
- 普通預金よりは金利が高い
ただし、国債も地方債も利回りが高いわけではないため、大きく増やすことは困難です。
「国債や地方債よりはリターンを見込みたい」という方は、元本保証型ではないものの比較的ローリスクで資産運用できる社債を検討してみましょう。
投資中に会社が破綻したときは元本が返還されない恐れがありますが、国債や地方債よりは効率よく老後資金を増やすことも可能です。
社債
- 元本保証型ではないが比較的ローリスク
- 普通預金よりは金利が国債や地方債よりは高金利
社債は国債や地方債と比べると金利が高く、ハイリターンが見込めます。
しかし、上限額を決めて販売しているため、人気の社債は一瞬で売り切れてしまうことも少なくありません。
こまめに情報をチェックし、高利回りの社債を購入できるようにしておきましょう。
また、社債によっては購入できる金融機関が限られていることがあります。
販売されたときにすぐに対応できるように、予め社債を扱っている口座を開設しておくようにしましょう。
投資に慣れている方におすすめの資産運用方法
投資に慣れている方は、ローリスクな投資の中でも運用次第では大きく資産を増やすこともできる投資信託を検討してみましょう。
投資信託はさまざまな株式や債券を組み合わせているため、1つのファンドだけに絞って投資しても分散投資をおこなうことができるというメリットもあります。
また、投資信託の中には分配金が設定されているファンドもあり、売却によるキャピタルゲイン(売却益)だけでなく、定期的にインカムゲイン(利子や配当などの保有したまま得られる利益)も受け取ることが可能です。
投資信託
- 金融商品の中では比較的ローリスク
- 1つのファンドの中に複数の株式や債券が含まれているため、分散投資ができる
- 分配金を受け取れるファンドもある
自分にあった資産運用方法を見つけた後は、取引を上手く活かせる方法を見ていきましょう。
資産運用で失敗しないための取引のコツ
資産運用は、資産を増やすためにおこなうものです。
しかし、定期預金や普通預金、国債などの一部の金融商品を除けば、「絶対に儲かる」と断言できる投資方法はほとんどなく、常に失敗(=損失)と隣り合わせの状態にあります。
資産運用で少しでも失敗をしないためにも、次の3つのコツを覚えておきましょう。
- 定期的にポートフォリオを見直す
- 必要な保険やお金の情報について定期的に相談する
- 退職金を全額投資に回さない
1.定期的にポートフォリオを見直す
たとえば投資信託は、定期預金とは異なり、長期間預ければ預けるほど増えるというものではありません。
定期的に基準価額をチェックし、実績が出ているときは投資資金を増やしたり、値上がりが見込めないときには売却したりするなどのアクションを起こすことが必要です。
また、資金配分もかならずしも現状維持がベストとは限りません。
不動産投資が好調な時期もありますし、円安が続いているときには海外預金や外貨建て債券に取り組むことも検討したいものです。
定期的にポートフォリオを見直し、時期に合わせた投資をおこなっていくようにしましょう。
2.必要な保険やお金の情報について定期的に相談する
たとえば医療保険に加入している場合でも、年齢によって必要な保障が変わってきます。
年齢が上がるにつれてがんに罹患するリスクも高くなりますので※、先進医療特約なども検討しておく必要が生じるでしょう。
また、基本的に医療保険は契約時に決められた治療法のみに保険が適用されるため、古い契約の医療保険に加入している場合は、病院で受けた治療に保険が適用されない恐れがあります。
「手術を受けたのに保険金が下りなかった」ということにならないためにも、定期的に保険を見直し、最新の治療にも保険が適用される状態を作っておきたいものです。
少なくとも3~5年に1度はFPや保険会社の窓口などで相談し、ライフマネープランを立て直すようにしましょう。
※国立がん研究センター がん情報サービス「がん罹患率~年齢による変化 年齢階級別罹患率 全部位2014年」(外部リンク)
3.退職金を全額投資するのはNG
退職時にはまとまった資金を受け取ることが多いため、つい気持ちが大きくなって全額投資資金として活用したり、レジャーなどに多額を使ってしまったりすることがあります。
退職金は老後資金の重要な部分を占める大切なお金なので、投資資金や手元資金、定期預金に預ける資金などに分散させて賢く管理するようにしてください。
また、退職前後は金融機関や不動産会社などから投資の勧誘が増える時期です。
安易に契約してしまうのではなく、メリットやデメリットを冷静に判断するように心がけましょう。
過度の心配は不要!資産運用で老後資金のプランを立てよう
世の中には老後資金について不安をあおる情報があふれていますが、いずれも「試算」であって「現状」ではないため過度に心配する必要はありません。
やみくもに老後を不安視するのではなく、ねんきん定期便等で将来の年金受給額をできるだけ正確に把握し、不足する分を補うように賢く資産運用していきましょう。
また、投資はかならずしもプラスの成果が出るとは限りません。
マイナスの結果が出たときに老後の生活を圧迫しないためにも、ハイリスクな金融商品は避け、手堅さ重視で運用していくようにしましょう。