コロナショックのように世界経済を揺るがすことが起こると、「VIX」という指数が注目されます。市場に不安が広がるときに上昇する数値だからです。
この特性を利用すれば、VIXを活かして利益を上げる投資ができます。通称「VIX投資」と呼ばれることがあり、注目している投資家も大勢います。
この記事では、VIXとは何か、VIXを使って儲けるにはどうしたら良いのかについて解説してきます。VIXに投資できる具体的な商品も掲載していくので、コロナショックで相場が荒れている今こそ、この記事の知識を役立てていただけるはずです。
VIX(恐怖指数)とは
VIX(ビックス)は別名「恐怖指数」と呼ばれているもので、VIXはVolatility Index(ボラティリティ・インデックス)の略が由来となっています。
ボラティリティとは金融用語で「変動」を表し、VIXは投資家が「市場の変動が大きくなりそうだ」と考えて行動しているときに数値が大きくなります。すなわち、一般的に投資家が「暴落が近いのではないか」と考えているときにVIXは大きくなるので、恐怖指数と呼ばれているのです。
VIXの計算は複雑なので詳しくは割愛しますが、シカゴオプション取引所がS&P500のオプション取引の値動きを基に算出しています。
S&P500とはアメリカの代表的な大企業500社の株価を平均化した株価指数で、アメリカの株式市場を代表しています。端的に言うと、S&P500のオプション取引の変動が大きくなると、VIXも大きくなります。
言い換えると、アメリカの株式市場の先行きが不透明になるとVIXが大きくなります。大まかにお伝えするとこのような仕組みであるため、「恐怖指数」と呼ばれるのです。
VIXと金融危機・コロナショック
VIXが注目を浴びるのは、市場の大暴落が起こったときです。
2020年だと新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大にともない、世界経済がストップしました。このとき、VIXは一つのピークを迎えました。
その他、2008年のリーマンショックや2001年の同時多発テロのときも高い値を記録し、注目された指数です。VIXは世界経済を揺るがす出来事が起こると上昇するため、注目度も上がるのです。
金融危機が起きたときにVIXが脚光を浴びるのは、合理的だと言えます。VIXに連動する金融商品があるので、いち早く投資することで、暴落が進むほど儲けられる可能性があるからです。
VIXに連動する商品にどのようなものがあるかは後述します。
市場が暴落しているときは、株式や債券などほとんどの銘柄が値下がりするので、非常に儲けにくい環境となります。ところが、VIXは投資家心理が悪化すればするほど上がる指数なので、VIX連動商品も値上がりしていきます。
暴落しているときは、さらなる値下がりリスクを冒して株式や債券を買うよりも、VIX連動商品を買った方が利益を出しやすいと言えます。これが暴落時にVIX連動商品に買いが殺到する理由です。
2020年のコロナショックでも同様であり、VIXは跳ね上がり多くの投資家がVIXに注目しました。VIX連動商品に他の投資家よりも早く飛びつけた人は、大きな利益を得られたことでしょう。
一般的にはどの株式も値下がりしていくので儲けにくい相場でしたが、VIX連動商品では利益が出ていました。
VIXを利用した株式投資の方法
VIXが下がると、株価は上がる傾向があります。VIXが下がっているときは市場が安定しているということで、株価も安定した右肩上がりとなることが多いからです。
先ほどVIXが上がるときは市場が暴落しており株価も下がっているとお伝えしましたが、これとは逆のことが起きているのです。この関係を利用して、VIXが下がっているときは株式を買い、VIXが上がってきたら株式を売却する投資家もいます。
具体的には、VIXが20を下回っているときは株式を買い、40を上回っているときは株式を売るといったスタイルです。上手く機能すれば、負けなしのトレードができるでしょう。
ただし、VIXは万能な指標ではないので、VIXしか見ていない投資家は買い時や売り時を間違えてしまうことがあります。VIXを利用したトレードは理論的には上手く行きますが、「必ず上手く行く」とは異なりますので、理解した上で試してみてください。
VIXが上昇する主な要因
VIXが上昇する理由はさまざまで、新型コロナウイルスの他にも考えられます。この項目では、どんなリスクが発現するとVIXが上昇するのかお伝えしていきましょう。次の5つのリスクが、代表的な上昇要因となります。
- パンデミックリスク
- 地政学リスク
- 経済リスク
- 災害リスク
- 政治リスク
要因1:パンデミックリスク
感染症が世界的に大流行することを「パンデミック」と言い、2020年に新型コロナウイルスが世界的に広まったことは、パンデミックリスクの発現と言えます。ご存知のとおり、パンデミックによってVIXは大いに上昇することがわかりました。
実は、1993年から公表されたVIXが過去最高記録を出したのが、2020年3月16日のことです。VIXはリーマンショック時の記録を超える82.69をつけ、COVID-19の感染拡大が経済に与える打撃の不透明さにおびえる投資家の心理が反映される形となりました。
いつ終息するのか誰も予想できないことや、しばらく世界的な感染症が流行していなかったことがあったため、先行きの不透明さが際立ったのです。
感染症といえば、これまでにもSARS(サーズ)やMARS(マーズ)といった局所的な流行がありましたが、VIXへの影響は限定的でした。これらの感染症は欧米や日本のような先進国にはひどく拡大しなかったことから、パンデミックにはならずVIXへの影響も小さかったのでしょう。
そもそも、VIXはアメリカの株式の値動きを前提としているため、感染症がアメリカ経済に大きな影響を及ぼさない場合、VIXの動きは軽微になるのではないかと考えられます。
過去にも人類はペストやスペイン風邪の広い地域での流行を経験してきましたが、グローバル化した世界にCOVID-19のようなウイルスが生まれると、瞬く間に市場が暴落してVIXが跳ね上がることがわかりました。今後も感染症が生まれないとは言い切れず、パンデミックリスクは常に存在するので、今回の二の舞のような出来事も起こるかもしれません。
要因2:地政学リスク
地政学リスクとは、ある地域の政治的・軍事的な緊張の高まりによって起こるリスクのことです。具体的には、紛争やテロが挙げられます。
2001年9月にアメリカ同時多発テロ事件が起きたとき、VIXは49.35まで高まりました。アメリカが攻撃されたことや、その後の戦争を懸念して投資家心理が悪化し、VIXの上昇につながりました。
同時に、アメリカ株式は約12パーセント下落しています。
要因3:経済リスク
経済リスクとは、主に金融市場の暴落のことです。2008年のリーマンショックが代表的で、そのときのVIXは89.53まで上昇し、コロナショックが起こるまでは過去最大の記録となっていました。
VIXが公表されるようになったのが1993年からなのでそれ以前の数値の記録はありませんが、経済ショックはこれまでにも何度かありました。1987年に起こった世界的な株価暴落であるブラックマンデーや、1970年代のオイルショックなどが挙げられます。
これらが起きた時代にVIXが算出されていれば、大きな数値になっていたと考えられます。
経済リスクは、パンデミックリスクと異なり比較的頻繁に発現するリスクです。近年を振り返ると10年くらいのスパンで大なり小なり経済ショックが起きています。
- 2018年の仮想通貨バブル崩壊
- 2008年のリーマンショック
- 2001年のITバブル崩壊
- 1991年のバブル崩壊
世界的な規模の暴落でないとVIXは上昇しにくいのですが、経済リスクは頻繁に発生するリスクなので、VIX投資のチャンスを狙う人にとっては好都合かもしれません。
要因4:災害リスク
大きな自然災害が起きたときも、VIXが上昇することがあります。例えば、米国に巨大ハリケーンが襲来して風災や水災によって甚大な被害が出たときが考えられるでしょう。
災害と金融市場は間接的に関わっています。災害によってオフィスや機材がダメージを受け、操業できなくなってしまう可能性があります。
災害による不動産損害への賠償のため、保険会社は巨額の支払いをしなければなりません。損害保険に加入していなかった人は家や仕事を失い、貧困に陥ってしまうかもしれません。
一旦このような事態になると復興まで時間を要するので、経済不安が広がるのです。
自然災害は経済活動へのあらゆる悪影響をもたらすため、あまりにも巨大な災害のときはVIXも上昇します。ただし、アメリカ以外の国で災害が起きても、今のところVIXは反応しにくいです。
基本的には局所的なリスクで、規模によってはVIXが動くと思っておくのが良いでしょう。
要因5:政治リスク
世界で大きな政治イベントや政策があると、VIXが上昇します。2016年の英国EU離脱を問う国民投票や、トランプ大統領が就任したアメリカ大統領選挙のときも大きく上昇しています。
さまざまな要因が含まれますが、この2大政治イベントがあった2016年は、VIXは32.09まで上昇しました。
最近であれば、アメリカと中国の摩擦やアメリカと北朝鮮の摩擦などが政治リスクとして挙げられます。即座に戦争に至るとは考えにくいのですが、国際間の摩擦が投資家心理を悪い方に導くとVIXが上昇しやすくなります。
VIXに投資するメリット
VIXがどのような指標なのか理解したところで、なぜVIXに投資をする人がいるのかについて考えてみましょう。
VIXは恐怖指数なので、先行きが不透明なときに上昇する指標です。恐ろしくもあるVIXに連動する商品に投資するメリットは何なのか、2つのメリットをお伝えします。
メリット1:暴落局面で利益が得られる
VIXは市場が暴落しているときに上がるため、暴落時に利益を得られる大きなメリットがあります。他の商品が軒並み下落しているのにVIXは上がるのですから、誰だって投資したいと思うでしょう。
VIXの特性を踏まえれば、明らかなメリットです。
メリット2:リスクヘッジに使える
VIXは普段の投資でリスクヘッジに使うことができます。一般的な株式投資のリスクヘッジとして、VIX連動商品が使えるというわけです。
株式とVIXの両方に投資した場合を具体的に考えてみましょう。
まず、平常時で市場が安定しているときは、株価が上がるため株式から利益が生まれます。VIX連動商品は塩漬けになります。
そこで突然市場が暴落するショックが起きたとします。このとき、株価は暴落するので株式の利益は減るか、マイナスになってしまいます。
一方で、VIXは上昇するのでVIX連動商品からは利益が出ます。
このように、VIXは株式と逆の値動きになるので、リスクヘッジができます。シーソーのように、片方がダメなときはもう片方の商品から利益を出せるのです。
VIX連動商品に投資するデメリット
VIXにも、メリットがある一方でデメリットもあります。この項目では、VIX連動商品に投資する前に理解しておきたい短所をお伝えしていきます。
次の2つのデメリットを踏まえて投資を始めていただければと思います。
デメリット1:上昇相場では利益が出にくい
メリットの裏返しになりますが、上昇相場だとVIXの利益は出にくいです。上昇相場だとVIXは下がっていくので、素直に株式のみに投資をした方が、利益は大きくなります。
上昇相場でもVIX連動商品への投資を続けるかどうかは、投資家のスタンスによります。利益を最大化したいなら株式のみで投資する考え方になるでしょう。
一方で、いつ起こるかわからないショックに普段から備えておきたい投資家は、上昇相場でもVIXを買い持ちする考え方になります。自分に合ったスタイルでVIXを活用していただければと思います。
デメリット2:買い時の頻度が少ない
VIXは買い時が難しいデメリットがあります。コロナショックのときもそうだったように、「VIXが上昇しているから買いましょう」とメディアがあおる頃にはVIXは最高値をつけており、買い時を逃しているからです。
VIXで利益を出したいならVIXが低いときに買っておかないといけないので、ショックが起きてからだと手遅れになってしまうのです。
しかも、平時の安定した相場では株式の方が、パフォーマンスが良いのでVIXは魅力的に見えません。このような特徴から、買い時が難しいデメリットがあります。
VIX連動商品に投資する方法
ここからは、VIX指数に投資する方法について解説していきます。方法としては、ETFやCFDを買って投資していくことになります。
具体的な商品を紹介する前に、専門用語の「ETF」と「CFD」の意味を解説していきます。これらの用語を使って商品を紹介するので、予備知識として身につけていただければと思います。
方法1:ETF(上場投資信託)
ETFは「Exchange Traded Fund」の略で、日本語訳は「上場投資信託」です。投資信託という名前のとおり、投資会社にお金を預け、代わりに運用してもらう商品です。
VIXに連動するETFの場合、投資会社の方でVIXへの投資をやってもらう仕組みになります。ETFはプロに任せられるメリットがある反面、投資会社に支払う手数料を負担するデメリットがあるので、中級以上のトレーダーはCFDを好む人が多いでしょう。
方法2:CFD(差金決済取引)
CFDは「Contract For Difference」の略で、日本語訳は「差金決済取引」です。トレード対象が外貨のみであるFXをもっと広範囲に広げたようなイメージで、指数や株式、金などさまざまな対象に投資することができます。
もちろん、VIXにも投資することができます。VIXへの投資はCFDが一般的です。
VIXに投資できる銘柄
VIXに投資できる銘柄の中で、一般の個人投資家が購入できるものは非常に少ないです。これから紹介する4つの銘柄は、日本にいる個人投資家でも買える商品なので、商品選びの参考にしてください。
銘柄1:米国VI
米国VIは、VIX投資で最もわかりやすいCFDなので、初心者におすすめです。
VIX指数に連動した値動きをするシンプルな商品です。後述する「ブルETF・ベアETF」のように複雑な設計はありません。
「VIXが上がっているから買ってみたい」と思う方には、米国VIが良いでしょう。国内ではGMOクリック証券CFDのみで取り扱われています。
銘柄2:米国VIブルETF
米国VIブルETFは、値動きがVIXに連動するCFDです(商品名はETFですがCFDです)。
ただし、VIXの1.5倍の値動きとなるよう設計されています。VIXが値上がりしているときは米国VIより高い利益を狙える仕組みです。
一方で、VIXが下がっているときは損失も大きくなるので、ハイリスク・ハイリターンの投資方法と言えます。米国VIよりも大きく値動きする商品で取引したいなら、米国VIブルETFを試してみても良いかもしれません。
国内ではGMOクリック証券CFDのみで取り扱われています。
銘柄3:米国VIベアETF
米国VIベアETFは、値動きがVIXの反対になる逆連動を目指すCFDです(商品名はETFですがCFDです)。
VIXが上がると米国VIベアETFは値下がりし、VIXが下がると米国VIベアETFは値下がりするというイメージです。値動きの幅は0.5となることを目指しているので、VIXの値動きよりもマイルドになると考えられます。
コロナショックなどでピークを迎えたVIXは、徐々に下がっていくと考えられるので、米国VIベアETFの出番と言えます。VIXが下がっている相場でも利益を出せるCFDなので、重宝する方もいるでしょう。
国内ではGMOクリック証券CFDのみで取り扱われています。
銘柄4:VIX短期先物指数(1552)
VIX短期先物指数(1552)は、VIXではなくVIX先物価格という別のものに投資するETFです。そのため、VIXとは特に連動しておらず、初心者には値動きが読みづらいでしょう。
基本的には米国VIなど上述した商品の方がおすすめです。
ここで1552を解説したのは、「1552もVIXに連動するからおすすめ」と誤った説明をしているウェブサイトが散見されるからです。1552はVIXとは連動しないので、1552に投資する明確な理由がある場合以外、投資はおすすめできません。
1552は国内の証券会社で口座を持っていれば取引できます。上述した3つのCFDはGMOクリック証券CFDでしか取引できないので、1552の方が間口が広いと言えるでしょう。
まとめ
VIXの基礎知識からVIXに投資できる商品まで、幅広く解説してきました。ショックが起きると注目される指数なので、コロナショックで存在を知って投資を始めようと考えている方も多いでしょう。
基礎知識はこの記事に詰まっているので、ぜひ投資の役に立てていただけたらと思います。