ETF(上場投資信託)の信託報酬とは?ETFの手数料の仕組みと目安を解説

ETF(上場投資信託)にもコストが存在し、その中でもわかりにくいのが「信託報酬」です。信託報酬は投資家が負担する手数料なので、あまりに高額な信託報酬のETFの場合、運用成績が悪くなる原因になってしまうことがあります。

適切なコストで良いパフォーマンスを出す投資信託と出会うためにも、信託報酬への理解は必須です。この記事では、ETFの信託報酬の仕組みや運用成績への影響について解説していきます。

 

信託報酬について詳しい説明に入る前に、まずはETFの2種類のコストについて理解しておきましょう。

ETFとは?

ETFとは、投資信託のうち証券取引所に上場している商品のことを指します。この性質のため、手数料として

  1. 信託報酬
  2. 売買手数料

の2つがかかります。投資信託と比較すると次のようになります。

項目

投資信託

ETF

購入時手数料

必要

不要

信託報酬

高い

低い

売買手数料

不要

必要

価格変動

1日1回

リアルタイム

それでは、「信託報酬」「売買手数料」それぞれの意味について確認していきましょう。

1.信託報酬

ETFは投資信託で、資産運用を運用会社に任せる商品です。資金の管理は信託銀行が担います。そのため、運用会社と信託銀行には手数料を支払う必要があり、これらを「信託報酬」と言います。

信託報酬はETFごとに決まっているものなので、気になる商品がある場合は信託報酬を比べてみましょう。ETFには信託報酬が安いものから高いものまで、さまざまな設定があることに気づくでしょう。

なお、ETFの信託報酬は「エクスペンスレシオ」という名前で呼ばれることがあります。この記事では「信託報酬」で統一しますが、同じ意味の用語です。

2.売買手数料

ETFのもう一つのコストに売買手数料があります。ETFは取引所に上場している商品なので、証券会社を通じて売買します。よって、証券会社に支払う「売買手数料」というコストを負担しなければなりません。

多くの証券会社では、ETFの取引を個別株式の売買と同じ扱いとしており、同一の手数料体系となっています。基本的には、1回の約定ごとに売買手数料が決まるか、1日の約定金額合計に対して売買手数料が決まる場合がほとんどです。いずれの手数料体系となるかは、証券会社や選択する手数料コースによって異なります。

ETFの信託報酬の仕組み

売買手数料は、ETFを購入したり売却したりするときにかかる手数料なので、比較的イメージしやすいです。しかし、信託報酬の方は仕組みがわかりにくいため、あまり理解できていない人もいるでしょう。

少し難しく感じる「信託報酬」について、仕組みを解説していきます。辞書的な解説より、具体的な仕組みを理解していきましょう。

信託報酬の支払い方法

信託報酬とは、ETFで運用される財産から差し引かれ続ける手数料です。信託財産から信託報酬が徴収されて間接的な支払いとなるため、投資家にとっては支払った感覚のないコストでもあります。

加えて、ETFで利益が出ているときも出ていないときも、信託報酬は差し引かれます。利益が出ていなくても信託財産からコストが差し引かれることを覚えておきましょう。

支払うタイミング

信託報酬は、毎日信託財産から差し引かれます。

例えば、信託報酬が1パーセントの場合、1年で純資産額に対する1パーセントの信託報酬となるよう、日割りで差し引かれます。ある日に1年分がまとめて差し引かれるわけではありません。つまり、信託報酬が1パーセントの例で言うと、毎日1/365パーセントずつコストが徴収されているのです。

毎日差し引かれているとはいえ、日割りにすると非常に小さいため、ETFを保有している人も日常的に信託報酬を実感することはあまりないでしょう。

信託報酬の目安

信託報酬は低ければ低いほど投資家にとってありがたいのですが、運用会社や信託銀行としては信託報酬を高くして利益を出したいものです。となると、信託報酬の目安は気になるところです。

日経平均株価やTOPIXに連動した運用成績を目指す「インデックスファンド」のETFの場合、信託報酬は0.5パーセント以下が目安となります。0.1パーセントから0.2パーセントほどの信託報酬のETFも種類が豊富で、日本株に投資するETFだけでなく米国株投資や世界分散投資のETFも選ぶことができます。

 

運用会社のファンドマネジャーが投資先を選定する「アクティブファンド」のETFも、海外の取引所では取り扱われています。ただし、現状の日本の法律では、市場の相場などと連動するように設計されたETFのみ取引所への上場が認められているため割愛します。

信託報酬はどれくらい利益を下げるのか?

実際にETFを調べてみると、信託報酬は高くても数パーセントです。1パーセント未満の場合もあり、あまり深く考える必要を感じられない方もいるかもしれません。

確かに、「○%」と表示されていると、あまり大きく感じられないですよね。しかし、実際にシミュレーションをしてみると、信託報酬が運用成績に及ぼす大きな影響を実感することができます。

 

ETFの信託財産が100万円で、その後追加されない場合を例に考えます。運用期間を20年間とし、この間は年率5パーセントの利益が出て、信託財産が成長していると考えます。この仮定で信託報酬を「1パーセント」または「2パーセント」とすると、どれほどの差が出るのでしょうか?シミュレーションしてみましょう。

信託報酬1%の場合の利回り

実際に計算してみると、100万円だった信託財産は20年後に約217万円まで成長することがわかります。

まず、1年目が終わった段階の信託財産を計算します。元手が100万円で、1年間で5パーセント成長するので、次のとおり計算して信託財産が105万円に成長します。

100万円×1.05=105万円

信託報酬が1パーセント差し引かれるので、信託財産は103万9,500円となります。計算を簡潔にするため、毎日ではなく年に1回差し引かれるものとしました。

105万円×(1-0.01)=103万9,500円

同様に計算を繰り返すと、20年後の信託財産は約217万0,151円となります。

信託報酬2%の場合の利回り

1パーセントの場合と同様に、信託報酬が2パーセントの場合も計算してみると、100万円だった信託財産は20年後に約177万円までしか成長しません。

まず、1年目が終わった段階の信託財産を計算します。元手が100万円で、1年間で5パーセント成長するので、次のとおり計算して信託財産が105万円に成長します。

100万円×1.05=105万円

信託報酬が2パーセント差し引かれるので、信託財産は102万9,000円となります。計算を簡潔にするため、毎日ではなく年に1回差し引かれるものとしました。

105万円×(1-0.02)=102万9,000円

同様に計算を繰り返すと、20年後の信託財産は約177万1,363円となります。

信託報酬が利回りに与える影響

元手となる信託財産が100万円と共通で、運用成果を表す利回りが同じ条件であっても、信託報酬によって信託財産の成長速度が大きく異なることがわかりました。信託報酬が1パーセントの場合は約217万円、2パーセントの場合は約177万円です。金額ベースで考えると、約40万円もの差異が出ました。

言い換えれば、信託報酬2パーセントのETFを選んだ人は、1パーセントのETFを選んだ人に比べて40万円を得る機会を失ったことになります。

1パーセントと2パーセントはどちらも微々たる手数料に感じられますし、その差異はたったの1パーセントでしかありません。「○%」と表示されるので小さく些末な問題に感じられますが、この小さな差は運用成果に大きな影響を与えるのです。

ETFの信託報酬の未来

米国(アメリカ)では、一般の個人投資家にもETFが浸透しているため、信託報酬の引き下げによって投資家を惹きつける運用会社が多く存在します。価格競争のような状態で、信託報酬の引き下げが加熱しているのです。

一方、日本では信託報酬の引き下げが加熱しているようには感じられませんが、米国ETFの信託報酬引き下げに連動することがあります。どちらかというと、信託報酬は引き下がっていく方向にあるのです。

米国では信託報酬の引き下げが加速

特に、米国では信託報酬の引き下げが加速しています。ETFを運用している会社は複数社あるので、競争優位に立つため、コストの引き下げ競争になっているのです。

ETFへの投資が個人投資家にも浸透している米国では、より低い信託報酬のETFが投資家に選ばれているからです。

もともと0.14パーセントと低い信託報酬で知られるETFが0.12パーセントに引き下げるといった非常に小さな引き下げではありますが、数十年とETFを保有する投資家にとっては大きな違いとなって現れます。

他社より0.01パーセントでも信託報酬を引き下げることで、投資家の資金が一気に流れ込むので、運用会社にとっても多少の引き下げは信託財産の増加となって返ってくるのです。

 

ちなみに、日本に居住している人も、米国のETFを直接買い付けることは可能です。証券会社で口座を持っている人は、外国株式を取引できる口座を開設すれば、ドル建ての資産を購入する準備は完了です。

信託報酬ゼロETFの出現

米国では、信託報酬を引き下げるだけでなく、ゼロにしてしまう運用会社も現れました。このETFを保有する投資家が負担するコストは、売買手数料のみとなります。

ただし、信託報酬が無料なのは1年目のみで、購入してから2年目以降は信託報酬が発生するといった設計になっています。

信託報酬が永久にゼロとなるETFは今のところ存在しませんが、1年目の信託報酬がゼロになるだけでも十分に画期的です。1年間は運用会社が無料で運用することになりますからね。

米国ETFの信託報酬引き下げ競争は加熱しており、現在では0.03パーセント程度が信託報酬の最安値となっています。

国内でも信託報酬引き下げ競争が起こる?

日本では、ETFより投資信託の人気が高いこともあり、ETFの信託報酬の引き下げ競争とまではいっていません。一般的に、ETFより投資信託の方が信託報酬が高いため、投資信託の信託報酬がETFの信託報酬と近づくような改定はよく起こっています。

とはいえ、国内のETFも信託報酬を引き下げる方向に向かっています。例えば、米国のETFを運用会社が買い付ける国内ETFの場合、米国のETFの信託報酬が下がれば国内ETFの信託報酬も連動して引き下がります。

信託報酬の大小とETFの良し悪し

ここまでで、信託報酬の違いが運用成績に大きな影響を与えることや、信託報酬の引き下げ競争が起こっていることについて解説してきました。「小さな差異であっても、信託報酬は安い方が良い」とご理解いただけたかと思います。

基本的にはその考え方で良いのですが、信託報酬が高いETFが良くないかと言うと、必ずしもそうとは言い切れないことは、頭の片隅に置いておいてください。手数料の設定には理由があるため、単純に高い信託報酬を悪いと割り切ることはできないのです。

手数料が高くなる背景としては、投資先が海外のマイナーな市場であるため、運用会社が苦労して証券を購入しているといったことが挙げられます。個人や法人で投資をするのが難しい投資先の場合、手数料が割高になってしまってもやむを得ないでしょう。

 

一方で、運用会社が他社のETFを購入しているだけといった場合もあります。この場合、運用会社が保有しているETFの信託報酬も投資家の信託財産から間接的に差し引かれることとなります。

ETFの信託報酬の大小は、ETFのパフォーマンスを評価できる要素ではありません。あくまでも、投資先や運用方針でETFを選び、候補が絞れたら信託報酬もフィルターにして購入するETFを決めることがおすすめです。

まとめ

ETFの信託報酬について、意味と仕組みについて解説しました。売買手数料とは異なり、信託報酬は毎日差し引かれるコストですが、投資家が意識しにくいという盲点があります。運用成績に大きな影響を与えるので、ETFを購入する前に信託報酬がいくらなのかも確認しましょう。

ETFが一般の個人投資家にも浸透している米国では信託報酬の引き下げ競争が過熱していますが、日本国内ではそこまでの大きな流れは今のところありません。ただし、米国に連動して国内ETFも信託報酬が引き下げられる可能性はあります。

ETFのパフォーマンスは信託報酬で決められませんが、判断材料の一つとして認識しておきましょう。