投資信託の中でも人気が高いのが、毎月分配型の投資信託です。毎月のお小遣い感覚で収入が得られるので、お得感があって人気なのです。
一見良さそうに見える商品ですが、実は隠れた落とし穴もあるのです。この記事では毎月分配型の投資信託のメリット・デメリットを解説していきますので、自分に合った商品を選ぶための基礎知識として身につけていただければと思います。
投資信託は2種類に分けられる
投資信託は、「分配金がある商品」と「分配金がない商品」の2つに分けられます。一見、分配金がある商品の方が良さそうに見えますが、それぞれメリット・デメリットがあるのです。
2種類の投資信託にどんな違いがあるのか、解説していきましょう。
分配金あり
分配金ありの投資信託は、文字通り定期的に分配金をもらえる商品です。銀行預金の利息のようなイメージで、定期的にお金が振り込まれます。
投資信託の名称に「毎月分配型」や「分配金あり」のような単語が入っているので、見分けられます。
分配金ありの投資信託は、不労所得をもらえるメリットがある反面、複利効果が働かないデメリットがあります。詳しくは、この後の項目で説明していきます。
分配金なし
分配金なしの投資信託は、運用で得られた利益を再投資している商品です。投資家に配るのではなく、再度運用に回され、さらなる利益を生むために使われます。
すなわち、分配金なしの投資信託が分配金型に比べて劣っているわけではないのです。利益を運用会社がもらうわけでなく、投資家の利益を増やすための再投資に使われるからです。
分配金ありの投資信託と比較すると、不労所得を得られないデメリットがある反面、複利効果で資産を大きく成長させられるメリットがあります。分配金がある場合もない場合も、一長一短なのです。
投資信託で分配金がもらえる仕組み
投資信託は、大勢の投資家の資産を運用会社がまとめて運用するものです。分配金型の投資信託では、定期的に投資家に分配金が支払われます。
分配金は、運用の利益から支払われると思っていませんか?実は、「利益」から支払われるものと、運用資産の「元本」から支払われるものの2種類があります。
では、普通分配金と特別分配金(元本払戻金)の2つの分配金について見ていきましょう。
普通分配金
普通分配金は、投資信託の運用で得られた利益を投資家に還元するものです。分配金と聞いて、一般的にイメージするものと一致していると思います。
普通分配金が多い投資信託は、利益を多く出して投資家にきちんと還元できている投資信託です。投資信託を選ぶ際は、過去の分配金の支払い実績を確認し、普通分配金が特別分配金よりも多い商品を選んだ方が良いでしょう。
元本払戻金(特別分配金)
一方、特別分配金は利益ではなく、元本を返還するものです。そのため、特別分配金をもらっても、儲かったことにはなりません。ただ元本の一部が返ってきているだけなのです。
すなわち、特別分配金はゼロでも良いくらいです。運用会社に資産運用を託したのに、分配金という名目で資産が返済されるなんて、ほとんどの投資家にとってはナンセンスでしょう。
投資家にとってメリットの大きい分配型投資信託は、普通分配金が多く、特別分配金が少ない商品と言えます。商品選びの際は、分配金の有無だけでなく、普通分配金と特別分配金のバランスもチェックしたいところです。
毎月分配型の投資信託のメリット
分配金ありの投資信託の中でも、毎月分配型の投資信託はとても人気があります。分配金を毎月もらえるので、給料のようなイメージで利益を受け取れるのが特徴です。
毎月分配型の投資信託のメリットは、主に以下の3点です。詳しく見ていきましょう。
- 不労所得を得られる
- 売却しなくても利益が得られる
- 収入の見通しを立てやすい
メリット1:不労所得を得られる
毎月の分配金はそのまま不労所得となるメリットがあります。
現役世代のサラリーマンの方は、月給が増えるようなイメージです。定年退職した方は、年金にプラスした収入になります。
最近では、定年を迎える前に早期退職をして仕事から解放されたい人にも、毎月分配型の投資信託は人気があります。年金をもらえる年齢になるまで無収入ではやっていけないので、毎月の不労所得が得られる投資信託で資産形成しておくのです。
会社に勤めている間に投資を始めて、年収レベルの分配金がもらえる規模に資産が成長したら、退職して自由を得るというわけです。
メリット2:売却しなくても利益が得られる
毎月分配型の投資信託は、分配金としてこまめに利益を確定させることができるメリットがあります。
分配金なしの投資信託だと、商品の値上がりが利益になりますが、売却しなければ利益が換金できません。しかも価格が変動しているので、保有している間にプラスになったりマイナスになったりします。
プラスのときに売れれば利益となりますが、マイナスのときに売ると損失になるので、タイミングを見計らって売却しなければなりません。これは初心者には難しいかもしれません。
また、「利益が出ているから来週売却しよう」と決意できても、運悪くリーマンショックやコロナショックのような経済危機が起こって、プラスからマイナスに暴落してしまうこともあります。投資家と運用会社も悪くないのに、予期せぬ事態に巻き込まれてマイナスになってしまうことがあるのです。
わざわざ売却しなくても利益が得られるのは、分配金ありの投資信託の特徴です。分配金は口座に勝手に振り込まれるので、投資家は手間をかけずに利益を得ることができるのです。
メリット3:収入の見通しを立てやすい
毎月分配型の投資信託は、基本的には1ヶ月ごとに収入を得られると決まっています。分配金は予告なしに増えたり減ったりするので、絶対に決まった金額が振り込まれるとまでは言えないのですが、先の収入の見通しが立てやすいことはメリットと言えるでしょう。
分配金なしの投資信託は売却した時点で利益が確定するので、売ってみるまで投資の収入がわかりません。毎月分配型の投資信託とは異なり、収入の見通しが立ちにくいです。
毎月分配型の投資信託なら、「毎月○円くらい分配金をもらえる」と予想できるので、収入の見通しがつく上に消費の計画も立てやすいです。分配金なしの投資信託にはないメリットです。
毎月分配型の投資信託のデメリット
毎月分配型の投資信託には、不労所得が毎月振り込まれるメリットがある一方で、デメリットもあります。分配金ありの投資信託に特有のデメリットがあるので、これから解説する3点は理解した上で、実際に投資を始めるかどうか考えていただければと思います。
- 分配金が減額される可能性がある
- 複利効果が働かない
- 高利回りに見えるだけの商品がある
デメリット1:分配金が減額される可能性がある
毎月分配型の投資信託であっても、「毎月〇円」という金額まで確定しているわけではありません。予告なしに減額されることもあります。
減額される理由としては、運用がうまく行かなくなった場合が多いです。市場が過熱して割高な商品ばかりになって利益が出ない状況や、リーマンショックやコロナショックのように経済が後退して何に投資しても利益が出ない状況などが想定されます。
過去の分配金実績が今後も続くとは限りません。投資する商品を選ぶときは、過去の実績以外のデータも参照して決めましょう。
デメリット2:複利効果が働かない
分配金をもらうことで利益は投資家のものとなり、再投資はされません。運用は単利となり、複利効果は得られません。
複利効果とは利益が出る度に再投資し続けることで、資産を雪だるま式に成長させることです。利益がさらなる利益を生み、その利益がまた利益を生み……と繰り返すことで資産の急成長が狙えます。
利益を分配してしまうと、このような利益を再投資する運用ができません。今すぐに不労所得が必要でなく、10年から20年後を見据えた将来の資産形成を目標とする方は、複利効果を活かして資産を増やした方が良いと考えられます。そのため、毎月分配型の投資信託はあまりおすすめできません。
デメリット3:高利回りに見えるだけの商品がある
分配金利回りが高い商品は、少ない元本でたくさんの分配金をもらえるため、一見するとお得な商品です。しかし、分配金のほとんどが元本払い戻しの特別分配金で高利回りに見せかけているだけの商品があるのです。
このような商品の場合、投資しても分配金として元本が返済されるだけなので、あまり利益は出ていません。それなのに分配金利回りは高く計算されるので、魅力的な商品に見えてしまいます。
このようなずるい投資信託も中には存在するので、普通分配金と特別分配金の支払い実績も確認してから投資をしましょう。
毎月分配型の投資信託はおすすめ?
毎月分配型の投資信託のメリット・デメリットを紹介してきました。毎月の不労所得を得られるのでお得感がある一方で、分配金が減額されるリスクや魅力的に見えるだけで実態はそうでもない商品が混ざっているなどのデメリットがあるのです。
これらを踏まえると、すべての人に毎月分配型の投資信託がおすすめできるとは言えません。向いている人もいるのですが、専門家やプロの投資家ほど分配金ありの投資信託を嫌う傾向にあります。
この項目では、毎月分配型の投資信託はどんな人に向いているのか、あるいは向いていないのか解説していきましょう。
専門家・プロには不人気
投資に詳しい専門家やプロには分配型の投資信託は不人気で、「分配金のない投資信託に投資した方が良い」とアドバイスする傾向があります。これには3つの理由があります。
- 手数料を節約するため
- 特別分配金で元本が払い戻されることを嫌うため
- 複利効果を利用するため
1.手数料を節約するため
手数料の節約については、専門家ならではの視点です。投資信託はプロに運用を任せる商品なので、投資の知識が無い初心者でも始めやすい反面、手数料がかかります。
さらに、分配金ありの投資信託は分配金の支払いという作業が必要なので、手数料も割高になる傾向があります。専門家は自力で銘柄分析したり運用したりできるので、投資信託に頼る必要がなく、「手数料を支払うくらいなら自力で運用する」という発想になるのです。
2. 特別分配金で元本が払い戻されることを嫌うため
特別分配金については、ほとんどの投資家にとって好ましくないでしょう。
特別分配金は元本の払い戻しであって、利益の分配ではありません。投資をしようと思って投資信託を購入したのに、勝手に元本を払い戻しされるのでは利益が出ず、投資した意味が無いと捉えられても仕方ないでしょう。
3. 複利効果を利用するため
専門家ほど複利効果の威力を知っているので、利益を再投資したいと考える人が多いのです。投資で出た利益をまた投資することでさらなる利益を生めるので、分配金ありとなしの投資信託では、利益の合計額は分配金なしの投資信託の方に軍配が上がります。
以上の理由から、専門家ほど分配金なしの投資信託をすすめる傾向にあります。今すぐに不労所得が欲しいと考えていない方は、分配金なしの投資信託で手数料を節約したり利益を再投資したりしながら、資産形成していくのが良いと考えられます。
手数料狙いの担当者にごまかして売られる場合がある
同じ専門家・プロでも、銀行や証券会社の窓口の担当者は異なる意見を持っているかもしれません。手数料を稼ぐために、毎月分配型の投資信託を売ろうとする担当者もいるからです。
毎月分配型の投資信託は「給料のように毎月お金が振り込まれる」というお得に見える特徴のため、顧客に売りやすい商品です。それに伴って販売手数料も高く設定されていることが多く、売れば売るほど販売する金融機関が儲かるようになっています。
販売会社にとって利益率が高いので、担当者によっては顧客のニーズを考慮せず、とりあえず毎月分配型の投資信託をすすめていることがあります。このような環境であるため、毎月分配型の投資信託のメリットばかりを強調して販促されることがあります。
言い方は悪いですが、デメリットを説明されないのであれば騙されている感覚にもなるでしょう。「窓口の人が言うなら良い商品なのだろう」と流されないように気をつけてください。
年金世代にはおすすめ
毎月分配型の投資信託は専門家には不人気ですが、特に定年退職後の年金世代にはおすすめできる商品です。特別分配金で元本が払い戻しされるだけのような投資信託を買ってしまったとしても、年金世代にはメリットがあるのです。
60歳か65歳くらいで定年退職した方は、95歳まで生きるとしたら30年から35年ほどは年金と貯金の取り崩しで生活していくことになります。60代のうちに貯金を使いまくってしまうと、80代を迎えてから貧乏になってしまうかもしれないので、計画的に使っていきたいですよね。
ですが、人は手元にお金があると使ってしまうものです。退職金で1,000万円から2,000万円のお金を手にすると、使い込んでしまうかもしれません。そのような方には、毎月分配型の投資信託がおすすめです。
分配金として毎月お金が振り込まれるため、年金と分配金で毎月の収支が釣り合うように生活すれば良いからです。お金を使いこんでしまう心配は激減するでしょう。
もちろん、普通分配金として利益がもらえれば嬉しいですが、年金世代の方には元本の払い戻しである特別分配金も生活費に使って問題ないでしょう。特別分配金は「預けた資産を定期的に取り崩して自動で振り込んでくれるお金」とも言い換えられるからです。
自分で貯金を取り崩そうとすると使い込んでしまう人も、これならその心配は少ないでしょう。
現役世代でガンガン資産運用してお金を増やしたいという人にとっては厄介な特別分配金も、年金世代の方にとってはメリットになり得るのです。退職後の30年から35年を計画的に暮らすためにも、毎月分配型の投資信託を活用してみてはいかがでしょうか?
毎月分配型の投資信託とNISA・つみたてNISA
投資の利益には税金がかかり、利益の約20パーセントは所得税や住民税として徴収されます。ですが、NISAやつみたてNISAという仕組みを利用すると、利益が非課税になります。20パーセントの税金はかからず、利益をすべて自分のものにできるのです。
毎月分配型の投資信託を購入するときは、NISAやつみたてNISAを利用することで、利益を最大化することができます。お得な制度であるこの2つについて、理解を深めていきましょう。
NISA・つみたてNISAとは?
NISAは年間120万円までの投資額に対して、利益が非課税となる仕組みです。期間は最長で5年間利用できます。
つみたてNISAは年間40万円までの投資額に対して利益が非課税となる仕組みでNISAよりも少額なのですが、最長で20年間利用でき、NISAよりも長く使える仕組みです。NISA、つみたてNISAについてはこちらの記事で詳しく解説しています。各制度の基礎知識はこちらでご覧ください。
結論としては、毎月分配型の投資信託は必ずしもNISA・つみたてNISAを使う必要が無いので、NISAやつみたてNISAがわからなくてもこの記事は読み進めていただけます。
投資信託の利益といえば、分配金です。分配金には普通分配金と特別分配金の2種類があることは解説したとおりですが、NISA・つみたてNISAを使った場合、非課税になるのは普通分配金のみです。これについて詳しく見ていきましょう。
普通分配金は非課税になる
まず、NISA・つみたてNISAを利用すると、普通分配金は非課税になります。
普通分配金は投資信託を運用して得られた利益から成るため、普通は課税されて約20パーセントが源泉徴収されてから、投資家に振り込まれることになります。NISAやつみたてNISAを使って毎月分配型の投資信託を買うと、普通分配金が非課税になるメリットがあります。
特別分配金はもともと非課税
一方、特別分配金はNISA・つみたてNISAと関係なく非課税です。特別分配金は元本の払い戻しであって運用の利益ではないので、課税されないのです。
したがって、NISAやつみたてNISAを利用したからといって、特別分配金を多くもらうことはできません。これを踏まえると、毎月分配型の投資信託ではわざわざNISA・つみたてNISAを使うメリットが薄れます。
毎月分配型の投資信託は特定口座がおすすめ
NISAやつみたてNISAを利用すると普通分配金は非課税になってお得ですが、特別分配金はもともと非課税なので影響はありません。したがって、毎月分配型の投資信託をNISAやつみたてNISAで投資するメリットは、そこまで大きくないと考えられます。
もし、投資信託以外の株式やETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)といった商品も投資してみたい場合、これらの商品にNISAを使った方が断然お得です。
そのため、毎月分配型の投資信託は特定口座(いわゆる普通の投資用の口座)を使うことをおすすめします。
まとめ
毎月分配型の投資信託の基礎知識やメリット・デメリットを解説してきました。不労所得を毎月得られる長所がある一方、特別分配金で分配金利回りをごまかすような商品も存在するので、商品選びには注意が必要です。
とはいえ、自分で貯金を切り崩すと使い込んでしまう年金世代の方には、とてもおすすめの商品です。利益と預けた資産を取り崩し、毎月ある程度振り込んでくれるので、それと年金の範囲で生活していけば良いわけです。
毎月分配型の投資信託は売りやすいので、どんな人にもすすめられがちです。しかし、自分に合っている商品かどうかよく考え、冷静に投資の判断をしましょう。