株式投資の平均リターンは年5〜7%程度というのが相場ですが、これはあくまで全体の平均的な値です。個別銘柄で見れば、株価が1年で2〜3倍、ときには10倍以上となることもあります。
そのような銘柄の多くは、JASDAQやマザーズといった新興市場の銘柄であり、短期で大きなリターンを狙うのであれば新興市場銘柄は外せません。
この記事では、新興市場の概要から新興市場で注目のテーマ株、さらに短期でリターンをあげるデイトレのコツについて解説していきます。
1、新興市場とは:主な上場基準
日本には、東京・名古屋・福岡・札幌の4カ所に証券取引所があり、それぞれの証券取引所には、一定の上場基準(規模や業績、流動性など)を満たした企業が上場できる市場が設けられています。
各取引所には、メインとなる「一般市場(本則市場)」のほか、一般市場よりの上場基準が緩い新興企業向けの「新興市場」に分かれています。
日本の中心的な証券取引所である東京証券取引所(東証)であれば、市場第一部(東証一部)と市場第二部(東証二部)が一般市場(本則市場)、JASDAQ(スタンダード・グロース)とマザーズが新興市場にあたります。
それぞれの市場の主な上場基準は以下の通りです。
国内株式市場 主な上場基準(2019年4月5日時点) | ||||
株主数 (*1) | 利益・時価総額基準 | |||
東京 証券取引所 (東証) | 本則市場 | 市場第一部 | 2,200人 以上 | 最近2年間の利益総額5億円以上、 または時価総額500億円以上 (*2) |
市場第二部 | 800人 以上 | |||
新興市場 | JASDAQ スタンダード | 200人 以上 | 最近1年間の利益総額1億円以上、 または時価総額50億円以上 | |
JASDAQ グロース | 200人 以上 | ― | ||
マザーズ | 200人 以上 | ― | ||
名古屋 証券取引所 (名証) | 本則市場 | 市場第一部 | 2,200人 以上 | 最近2年間の利益総額5億円以上、 または時価総額500億円以上 (*2) |
市場第二部 | 300人 以上 | 最近1年間の利益総額1億円以上、 または時価総額500億円以上 (*2) | ||
新興市場 | セントレックス | 200人 以上 | ― (成長可能事業の売上高がある) | |
札幌 証券取引所 (札証) | 本則市場 | 300人 以上 | 最近1年間の経常利益が 5,000万円以上 | |
新興市場 | アンビシャス | 100人 以上 | 最近1年間の営業利益の額が「正」(高い収益性が期待できれば正でなくとも可) | |
福岡 証券取引所 (福証) | 本則市場 | 300人 以上 | 最近1年間の経常利益が 5,000万円以上 | |
新興市場 | Q-Board | 200人 以上 | ― (成長可能事業の売上高がある) |
(出所:東京証券取引所・名古屋証券取引所・札幌証券取引所・福岡証券取引所)
(*1)上場時見込み (*2)最近1年間の売上高100億円未満である場合を除く
上記のように、新興市場では将来の成長性が重視され、事業に成長見込みのあり売上があれば、最終的な利益がマイナスの企業であっても上場できる可能性があります(JASDAQスタンダード市場を除く)。
新興市場の銘柄は成長期待の高さに加え、比較的規模が小さいことから値動きが軽く、株価が急騰しやすい条件が揃っています。
2、新興市場へ投資する際の注意点
短期間で大きなリターンが期待できる新興市場ですが、それに伴うリスクも大きくなります。新興市場へ投資するのであれば、まず以下の3点に十分注意しましょう。
(1)新興市場の注意点①:流動性が低い(売れないリスク)
新興市場の銘柄は企業規模が小さい上、創業者などが保有し市場にほとんど出回らない特定株の割合が多く、流動性が低い傾向があります。注目が集まっているときには売買高が多く見えた銘柄も、熱が冷めるにつれ板がスカスカになり、売りたい値段で売れなくなるという事態も想定されます。
特にマイナス材料などが出て株を売りたいと思ったときには、通常はほかの投資家も同じように考えており、売るに売れなくなって損失が拡大してしまうリスクがあります。
そのようなリスクを抑えるためには、注目が集まる前の過去のデータから読み取れる平常時の売買高に対し、大きすぎるポジションを持たないことです。
平常時1日の売買高の100分の1以下が、保有してよいポジションの大きさ(株数)の目安となります。
(2)新興市場の注意点②:見切り(損切り)の判断は即座に行う
流動性が低い新興市場の銘柄は値動きが軽く、株価が大きく動くため、短期間で収益を得られる可能性が高くなります。
しかし下げ足も早く、特に期待で本来の企業価値以上に大きく買われていた銘柄は、数日のうちに半値どころか10分の1以下になってしまうことも少なくありません。
期待で買われた銘柄であれば、その期待が剥落して下落した株価は戻らないか、戻ったとしても長期間を要することが多く、見切り(損切り)の判断が遅れると、損失が大きくなったり、資金が塩漬けになってしまいます。
異変を感じた場合には、見切り(損切り)の判断を即座に行う、それができないのであれば、株価が急上昇している銘柄には手を出さないのが賢明です。
(3)新興市場の注意点③:集中投資を避ける
新興市場には、単一事業に大きく依存している企業が多く、その事業の成否次第で業績は大きく変動し、事業が振るわなければ大幅な赤字となることも少なくありません。
成功を見込んだ業績予想が反映されて株価が上昇していた銘柄が、予想を下回る結果となれば、株価の下落も大きくなります。
直近では、サインバイオ(4592)は記憶に新しいところです。
1月21日に上場来高値12,730円をつけたのも束の間、新薬の臨床試験結果が不調に終わったとの発表を受け、4日連続のストップ安となり、2月5日には2,401円まで下落。2週間足らずのうちに株価は高値から5分の1に下落しました。
(チャート:SBI証券)
サンバイオのケースでは株価が急騰しており、急落前から割高感はありましたが、ほとんどのアナリストは直前まで強気で推奨を続けていたため、見切りの判断が難しい部分もありました。
また、ストップ安となってしまえば、損切りしようにも売れず、資産が減っていくのをただ見ていることしかできません。
期待の高さゆえに資産の大部分を投資し、投資資金を失い退場に追い込まれ、信用取引によって借金を抱えることになった個人投資家もいました。
いくら優れた投資家でも、株価の急落を完全に予想することはできません。予想できないのであれば、急落による影響が資産全体に及ばないよう、特定の銘柄への集中投資を避けることが、資産を守る術です。
リスクの分散には、1つ銘柄への投資額は投資資金全体の10%以内とすることが有効といわれますが、リスクの高い新興市場の銘柄であれば、5%以内とすることをおすすめします。
3、新興市場の銘柄を選ぶポイント
1年で株価が数倍になることも期待できる新興市場銘柄ですが、当然銘柄は選ばなければなりません。
新興市場の銘柄を選ぶ際には、以下のポイントを確認しましょう。
(1)良い新興市場①:社会に貢献する、生活を変える事業・ビジョンがあるか
かつてはベンチャー企業であったアップルやアマゾン、グーグルが、世界的な巨大企業に成長した理由は、社会に貢献し、人々の生活を大きく変えたからです。
社会に貢献する、生活を変える事業・ビジョンがあるかは、その企業が今後伸びていくかを左右する重要なポイントとなります。
(2)良い新興市場②企業の実力と将来の成長見込みがある
新興市場には、研究開発や初期投資などの先行投資によって利益がほとんど出ていない、赤字決算の銘柄もあります。
先行投資は将来の利益の源泉であり、今が赤字だからといってその事業が悪いとはいえません。
むしろ赤字でも上場審査をクリアしたということは、それだけ高い成長が見込めると判断されたと考えることができます。
一方、より有利に資金調達を行うため、粉飾とまではいかなくとも決算数字を大きく見せ、実力以上に強気の業績予想を出している銘柄もあり、表面的な数字だけでは実力は判断できません。
会社が出す数字は参考としながら、企業のビジョンや企業の実力や将来の成長を見極めること、応援したいと思える銘柄を選ぶことがポイントです。
(3)良い新興市場:株価が割高すぎない銘柄
いくらいい銘柄でも投資するタイミングが悪ければ儲かりません。いい銘柄には当然ほかの投資家も注目するため、目をつけたときには実力以上に株が買われており、高値掴みや株価急落のリスクが高くなります。ごく短期で値幅を狙うデイトレードであれば影響はそれほどありませんが、投資期間が長くなるほどそのリスクは増します。
なるべくリスクを抑えるためには、注目が集まってすでに株価が割高な銘柄の後追い買いは極力避け、実力に比べて株価が割安な銘柄を選ぶことがポイントとなります。
4、新興市場テーマ株12銘柄
新興市場の銘柄は単一事業に特化した銘柄が多く、手がける事業に注目が集まった際には、株価が急騰しやすい傾向があります。
テーマに関連する銘柄は、一斉に物色されることも多いため、チャンスを逃さないためには、各テーマにどのような銘柄があるかを把握しておくことも大切です。
(1)新興市場:フィンテック関連
フィンテック関連 | ||
株価(2019/2/19終値) | ||
アイリッジ(3917・マザーズ) | 819円 | |
集客・販促『OtoO』施策支援を展開。クレディセゾン(8253)、デジタルガレージ(4819)との連携により、OtoOとブロックチェーンを活用したフィンテックソリューションを共同開発している。 | ||
フィスコ(3807・JASDAQグロース) | 201円 | |
金融関連情報ネット配信サービスを展開。ビットコイン取引所の運営事業等を行うフィスコ・コインを設立。将来的には仮想通貨を活用した金融仲介機能の全般を担うことをめざす。カイカ(2315)、ネクスG(6634)も資本参加。 | ||
ミナトHD(6862・JASDAQスタンダード) | 354円 | |
産業用メモリ、デバイスプログラマ、ATM用タッチパネルなどを製造。スマホ認証技術を活用したフィンテック事業に参画。 |
(2)新興市場:人口知能(AI)関連
人工知能(AI)関連 | ||
株価(2019/2/19終値) | ||
レカム(3323・JASDAQスタンダード) | 177円 | |
中小企業向けにIP電話などを販売。人工知能を活用したOCRによるクラウドサービスを提供するAI insideと業務提携。 | ||
FRONTEO(2158・マザーズ) | 624円 | |
法的訴訟時の証拠保全等に関するデータ収集。分析等のコンピュータ解析事業をメインに手がける。金融。知財調査向けにAI技術か活用しているほか、直近ではAIを活用した医薬品開発の効率化技術を発表し、ヘルスケア事業を育成している。 | ||
ブロードバンドタワー(3776・JASDAQスタンダード) | 283円 | |
都市型データセンターを運用。AIを活用したさまざまな分野での自動化、自律化を支援するサービスの開発・提供を開始。 |
(3)新興市場:バイオ関連
バイオ関連 | ||
株価(2019/2/19終値) | ||
SOSEI(4565・マザーズ) | 1,133円 | |
創薬ベンチャー。 | ||
サンバイオ(4592・マザーズ) | 2,800円 | |
中枢神経系疾患領域の再生細胞薬を開発。 | ||
ナノキャリア(4571・マザーズ) | 410円 | |
がん領域に特化した創薬ベンチャー。超微細『ミセル化ナノ粒子』を用いて副作用の少ない新薬開発をめざしている。 |
(4)新興市場:IOT関連
IoT関連 | ||
株価(2019/2/19終値) | ||
JIG-SAW(3914・マザーズ) | 2,750円 | |
クライドやサーバーを対象とした自動監視するテムを展開。新規投入した機器の遠隔操作サービスは生産ラインの不具合検知などに活用が見込まれており注目。 | ||
アプリックス(3727・マザーズ) | 191円 | |
IoTに関する受託開発、各種製品・サービスを提供。 | ||
テックファームHD(3625・JASDAQグロース) | 1,004円 | |
アプリや各種システムの受託開発を手がける。IoT関連の受注が好調。 |
(チャート:ヤフーファイナンス)
5、新興市場株でデイトレするコツと注意点3つ
短期で利益を狙いやすい反面、急落リスクも高いハイリスク・ハイリターンな新興市場株への投資は、ポジションを翌日に持ち越さない短期決戦のデイトレードとの相性が良い方法です。
それは急落の原因となる材料は引け後に出ることが多く、ポジションを翌日に持ち越さなければ、致命的な急落に巻き込まれるリスクを大きく下げることができるためです。
先ほどのサンバイオのケースでも、臨床試験結果不調の公表が行われたのは1月29日の引け後でした(翌日以降寄り付かず4日連続のストップ安)。
ただし、思った値段で売買できないのはデイトレにとっては致命的な問題であり、新興市場株の中でも、比較的出来高の大きな銘柄を選ぶ必要があります。
新興市場株でデイトレする際のコツ
- 値動きの大きい銘柄でトレードする(1日に2%以上は変動することが目安)
- 取引の活発になる「寄り付き(午前9時)〜10時頃」で勝負する(流動性を確保)
- ポジションを翌日に持ち越さない(見切り・損切りを躊躇しない)
6、2019年の新興市場の見通し
NYダウ平均株価は今年に入って約4,000ドル上昇し、2018年12月の急落前の水準を回復するなど、相場は落ち着きを取り戻しています。日経平均株価も戻りは鈍いものの、一旦底打ちした状態です。
しかし、米中通商交渉やブレグジットなどの問題は依然解決しておらず、今後の進展によって再び急落するリスクをはらんでいます。
(2016年初を100としたマザーズ指数、日経平均株価の推移 チャート:SBI証券)
新興市場に関しては2018年初頭をピークに、市場全体では下落基調が続いています。
新興市場にも資金が戻ってくるには、米中通商交渉やブレグジット問題の進展が必要といえ、もうしばらく時間がかかりそうです。業績相場が主体である新興市場では、当面注目テーマに関連する銘柄や好業績銘柄を選別する動きが続きそうです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
新興市場は機関投資家や外国人投資家の参加が少なく、個人投資家にも大きなチャンスがある市場です。しかし、流動性の低さや値動きは荒く、大型株に比べハイリスク・ハイリターンな投資でもあります。新興市場株の大きなリスクである株価の急落を避けるには、ポジションを持ち越さないデイトレが有効な方法のひとつです。新興市場株のデイトレを行う場合には、今回ご紹介したコツをふまえつつ、銘柄の見極めやポジションの大きさに十分注意して投資することが大切です。