株を購入して株主になると、配当や株価の値上がりによる利益が得られます。
さらに保有する株数に応じ、その会社の経営に対して意見を述べることができ一定の影響力を持つことができます。
この記事では、株式の保有比率に応じて株主が持つ権利と、それを行使するために必要な要件について、実際に株主が権利を行使した事例とともに解説していきます。
1、株主になる権利とは?
株主とは株式会社に資金を提供(出資)し、株主名簿に記名されている個人・法人のことを言い、実質的な株式会社のオーナーです。
株主は出資した金額に比例した数の株を保有し、原則保有する株数に応じてさまざまな権利を有しています。
主なものは、配当金・議決権・株主優待の3つがあります。
株主になることは、お金を出資することで会社を応援する存在になります。
2、株主のもつ権利とは?
(1)株主権利1:会社が稼いだ利益を受け取る(自益権:剰余金配当請求権)
株式会社は、株主などの出資(資本)を使って事業を行い、利益を得るための組織です。
得られた利益は、配当金などの形で株主に対して還元されます。その金額は会社の稼いだ利益額や経営方針などに応じて増減します。
(2)株主権利2:解散したときに会社が保有している財産を受け取る(自益権:残余財産分配請求権)
会社が解散した場合には、まず債権者への負債などが返済され、残った財産は株主のものとなります。
株主は、保有する株数の割合に応じて、その分配を請求することができます。
(3)株主権利3:会社の経営に参加する(共益権:議決権など)
株式会社では、役員や経営に関する重要な事項について、株主総会で決定することになっています。
株主は、その株主総会に参加し、投票する権利(議決権)が与えられます。
議決権は1人1票の政治選挙とは異なり、1株(または1単元)に1票が与えられます。
そのため、会社に対する影響力は保有する株数の多さに比例して大きくなります。
個人投資家は自らの利益に直結する「自益権」、特に剰余金配当請求権ばかりに注目しがちですが、経営を大きく変えることもある議決権など、会社や株主全体に影響する「共益権」も非常に重要な権利です。
3、株主議決権を持たない株主と持ち株比率の計算方法
(1)株主持株比率
持株比率とは、その会社の発行済株式総数に対して、ある人が保有する株式の割合を言います。
持ち株比率=(保有株式数÷総株式数)×100
(2)議決権をもたない株主
株主総会における決議では、会社自身が保有する「自己株式」、定款で単元株制度(100株で1議決権とするなど)を定めている場合の、1単元に満たない株(「単元未満株」)には議決権がありません。
また株式会社は、さまざまな条件のついた種類株式を発行することができ、その中の一つには株主総会での議決権の行使が制限される「議決権制限株式」があります。
そのため実際の株主総会決議では、発行済株式総数から上記のような議決権のない株式を除いた、議決権を有する株式に対しての保有する議決権付株式の割合(「議決権比率」)が重要となります(議決権のない株式がなければ、議決権比率と保有比率は一致)。
4、持ち株比率別「株主権利」と行使要件
会社の経営に参加する権利には、1株でも株を持っていれば行使できる「単独株主権」と、一定数以上の株を保有する株主が行使できる「少数株主権」があります。
(1)単独株主権
保有持株数に関係なく株主であればだれでも行使できる権利を言います。
自益権の「剰余金配当請求権」「残余財産分配請求権」が単独株主権になります。
(2)少数株主権
少数株主権については、その権利の内容によって、以下のように行使に必要な持ち株比率が決まっています。
また、株主総会における決議を単独で可決または否決できる数の株式を保有していれば、実質的に株式会社の経営を握ることができます。
行使可能な権利 | 必要な 持ち株比率 | 権利の内容 |
株主提案権・議案通知請求権 | 1%超 | 一定の事項を株主総会の目的とする請求、株主が提出する議案の内容を株主に通知する請求ができる。 |
株主総会招集請求権 | 3%超 | 株主総会の招集を請求できる。 |
会計帳簿閲覧請求権 | 会計帳簿などの閲覧や謄写を請求できる。 | |
解散請求権 | 10%超 | 訴えにより会社の解散を請求することができる。 |
株主総会特別決議の単独否決 | 33.4%超 (3分の1超) | 定款変更、監査役解任、自己株式の取得、募集株式の募集事項の決定、事業譲渡、合併・会社分割など組織再編の決定を阻止することができる。 |
株主総会普通決議の単独可決 | 50%超 (過半数) | 取締役の選任・解任、監査役の選任、計算書類の承認をはじめ、会社の意思決定の大部分を自ら行える。 |
株主総会特別決議の単独可決 | 66.7%超 (3分の2超) | 定款変更、監査役解任、自己株式の取得、募集株式の募集事項の決定、事業譲渡、合併・会社分割など組織再編の決定を自ら行うことができる。 |
5、経営を安定させるのに必要な持ち株比率は?
発行済株式総数の3分の2以上を保有していれば、会社にとって重要な事項を単独で決定できます。
つまり、持ち株比率が66.7%超(3分の2超)あれば、ほかの株主の賛同を得るための根回しなども必要なく、機動的で安定的な経営ができると言えます。
逆に、創業者や取引先金融機関など、安定株主以外の持ち株比率が66.7%超(3分の2超)、あるいは50%超(過半数)となると、自由な意思決定が難しくなり、経営の安定性が損なわれる可能性が高くなります。
6、株主が権利を行使した例
(1)ホワイトナイト
敵対的買収を仕掛けられた会社を、買収者に対抗して友好的に買収または合併する会社を『ホワイトナイト』(白馬の騎士)と呼びます。
基本的には買収対象となっている会社に友好的な企業であり、より規模の大きな会社がホワイトナイトとなり、敵対的買収を仕掛けてきた企業よりも高い価格でTOBを行う、あるいは買収対象会社から第三者割当増資を受けるといった方法で敵対的買収の阻止を試みます。
ただし、最終的に自社を売却する(他社の支配下に置かれる)ことになります。
【事例:ライブドアによるニッポン放送敵対的買収事件】
2005年に大きな注目を集めた、当時堀江貴文氏の率いていたライブドアによるニッポン放送の敵対的買収事件では、ソフトバンク・インベストメント(以下SBI)がホワイトナイトとして登場します。
当時産経新聞社やフジテレビ、ニッポン放送などが属するフジサンケイグループは、フジテレビが中心となって運営されていました。
しかしフジテレビは、資産規模もはるかに小さな、グループの1企業であるニッポン放送が筆頭株主という、いびつな資本構成となっていました。
そのような状態に対して、フジテレビ、ニッポン放送が上場後に筆頭株主となった村上ファンドの村上世彰氏は、フジテレビとニッポン放送により共同持株会社を設立し、両社がその事業子会社とするよう株主提案を行います。
それに対してニッポン放送の経営陣は、フジテレビに対して第三者割り当てを行い、その後親子関係のねじれを解消することを目的として、フジテレビがニッポン放送株の50%超を保有する筆頭株主となることを目指し、TOBの実施を発表しました。
ここにきて、ニッポン放送を介してフジテレビ、さらにはフジサンケイグループ全体の経営に参画しようとするライブドア側が動きをみせます。
時間外取引によりニッポン放送株を大量に取得し、約35%の株を保有する事実上の筆頭株主となったのです。
それに対して、経営陣はフジテレビに現在の発行済株式総数の1.44倍という大量の新株を発行するという奥の手を出します。
しかし、東京地裁により発行差し止めの仮処分が決定したことで、ニッポン放送は窮地に立つこととなります。
そこでSBIが登場します。
SBIとニッポン放送、フジテレビの3社は共同でメディア・通信分野などのベンチャー企業に投資するファンドを共同出資で設立し、関係強化を名目にニッポン放送が所有するフジテレビ株をSBIに貸し出すことを発表しました。
これによってニッポン放送が所有するフジテレビ株はなくなり、ライブドアがニッポン放送を介してフジテレビへ間接的に支配する道が断たれ、ライブドアとフジテレビは和解、業務提携という形で落ち着きました。
(2)株主提案・プロキシーファイト(委任状争奪戦)
総株主の議決権の1%以上の議決権、または300個以上(いずれも定款で引き下げ可)の議決権を6カ月前(定款で短縮可)から引き続き保有する株主には、一定の事項を株主総会の目的(議題)とするよう請求できる権利(議題提案権)があります。
もの言う株主といわれるアクティビストは、この権利を行使して株主提案を行い、株主利益の最大化を求めます。
株主提案を可決させるため、会社経営陣など反対派との間で他の株主の議決権行使の委任状を奪い合う、プロキシーファイト(委任状争奪戦)が繰り広げられることもあります。
【事例:東京スタイルに対する村上ファンドの株主提案】
日本において最初の株主提案にからむプロキシーファイトは、2002年東京スタイルに対する村上ファンドの株主提案におけるものです。
東京スタイルは、現金や有価証券など1280億円の多額の内部留保を保有しており、その資金を使いファッションビル建設を計画していました。
それに対し、東京スタイル株を買い集め発行済み株式の9.3%を保有する筆頭株主となった村上ファンドは、ファッションビル建設中止および、大幅増配(年間配当500円)と500億円を上限とする自社株買いの実施を求めました。
村上ファンドに対し東京スタイルは、増配(年間配当20円)と約123億円を上限とする自社株買いを提案、多数派工作などを行うことで対抗し、両者によるプロキシーファイトとなりました。
結果的には、個人投資家の過半数が会社側を支持し、好意的であった外国人投資家の委任状が得られないなどの理由により、村上ファンド側が敗北しています。
しかしこれを契機に、会社は誰のものかという視点から株主利益が再考されるきっかけとなりました。
(3)株主代表訴訟
株主代表訴訟とは、違法行為や重大な過失によって会社に損害を与えた取締役に対して、株主が会社に変わって取締役を相手に損害賠償を求める訴訟を言います。
会社が取締役に対してその責任を追及しなかった場合、(公開会社の場合)6カ月以上株式を保有する株主であれば保有株数に関わらず、誰でも訴訟を提起できます。
【事例:大和銀行事件】
1995年、トレードによる損失を繕うため、大和銀行ニューヨーク支店の従業員が長年にわたり不正な取引を続け、銀行に約11億ドルの損害を与えていることが発覚しました。
不正は従業員本人が大和銀行上層部へ自ら報告して発覚しました。
その際アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)への報告が遅れたことで、隠蔽と認定され、司法取引に応じて罰金3億5000万ドルの支払いと米国から完全撤退を余儀なくされる事態となりました。
同行の株主は当時の取締役ら49人に対し、損失額(11億ドル)と罰金(3億5,000万ドル)を合わせた14億5,000万ドルの賠償を求める株主代表訴訟を提起しました。
裁判所は請求を一部認容し、当時のニューヨーク支店長に単独で5億3,000万ドル、役員11人にあわせて約2億4,500万ドルという、前例のない巨額の賠償請求が命じられました。
この判決によって取締役の経営責任の重さ、リスク管理・法令遵守の重要性が改めて認識されました。
また、雇われ役員に生涯賃金をはるかに上回る賠償を命じる判決が出たことで、企業からは制度の見直しを求める声が上がり、その後取締役の損害賠償責任額を一定額以下に限定できるよう、商法(現在の会社法)が改正されました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
株主は配当や値上がり益など、経済的な利益を受け取れる権利だけでなく、会社の経営に対して行動を起こせるという重要な権利を持っています。
もの言う株主として知られる村上ファンドが世間を賑わせた2000年代、日本では積極的に会社に働きかけを行い、株主の利益を追求するということに馴染みがなく、批判的な見方をされることも多くありました。
しかし、そのような時期を経て、現在では積極的に会社に働きアクティビストなどに注目が集まっています。
彼らの持ち株比率は、会社に対する影響力の大きさを図る目安となるものです。
しっかり押さえておきましょう。