株式会社の経営にとって、一番大事なこととは何でしょうか?利益を生みだすこと、投資家の期待に応えること、社会に価値を生み出すことなど多くの視点が考えられますが、会社というのは大きく分けて3つの視点から評価されています。
その3つの視点というのが「財市場」「労働市場」そして「資本市場」です。
我々投資家が大きく絡んでくるのは「資本市場」、つまりその会社を投資家や市場がどう評価するかの視点になります。
株主は投資先が自分たちにしっかりと価値を還元しているかを見て株式を売買するわけですから、事業を運営する会社は利益を継続的に出していくことはもちろん、配当を出したり、株主提案を受け入れたりと、株主含めたステークホルダーと質の高いコミュニケーションをとっていかなければなりません。
「財市場」「労働市場」「資本市場」の3つの視点から高い評価を受ける会社経営を行うことは簡単なことではありません。
そのため、株式を大量保有することで経営権に異を唱え、会社経営を変えようとする投資家――いわゆる「アクティビスト」の存在が市場において注目を集めてきています。
そこで今回の記事ではアクティビストとは何なのか、そして彼らが株主総会で経営陣に反論をするために行う「プロキシ―ファイト」に注目していきましょう。
1、プロキシーファイトで企業価値の向上を目指すアクティビストとは
アクティビストとは株式の大量保有を行うことで、その投資先企業に対し株主としての権利を”積極的に(Activeに)”行使し会社の経営方針を変えていく試みを持った投資家のことを指します。
株式を大量保有するにはそれに応じた資金が必要となりますので、アクティビストと呼ばれる存在の多くは資金を潤沢に持つファンドや投資会社となります。
アクティビストは「物言う株主」とも呼ばれ、日本においてはかつてメディアにも多く登場していた「村上ファンド」がその代表格に挙げられるでしょう。インサイダー取引疑惑で表舞台から姿を消したものの、ここ数年旧村上ファンド出身者によるアクティビストファンドの名が見られたり、村上ファンド代表であった村上世彰氏の大量保有報告書が提出されたりするなど、その動きが再び活発化しつつあります。
アクティビストが企業に対して行う提案や行動でよく名が挙がるのは、「株主価値の向上(利益の株主還元)」「敵対的買収」「取締役の交代」「コーポレートガバナンス向上」などです。
アクティビストが会社に対して提案する策は企業にとってマイナスなイメージを持ちがちですが、先に挙げた「コーポレートガバナンスの向上」は、企業がこれから経営を行うにあたって通らなければならない道であるとも言えるため、例え経営方針とマッチしていなかった場合でも結果的には資本市場・財市場などから見てプラスの提案である場合も多いと考えられます。
もちろん企業経営を根本から覆すような「敵対的買収」「取締役の交代」などといった提案も存在するのは事実です。
株主総会で行われる株主提案において、多くの議決権を有するアクティビストや株式大量保有者は自分たちの経営方針を可決させるために、行使可能な過半数以上の議決権を集めます。これが上手くいくかどうかは他の株主がアクティビストの提案に対しどういった姿勢・考えを持っているかによりますが、「資本市場」の観点、すなわち投資家の視点から見てメリットのある提案であった場合、現経営陣ではなくアクティビスト側につく投資家も少なくありません。
このように、アクティビストや株式大量保有者が現経営陣と議決権・委任状の獲得を争うことを「プロキシ―ファイト」と言います。
これについては次の項目でより詳しくチェックしていきましょう。
2、アクティビストのプロキシーファイトって?
プロキシ―(proxy)とは日本語で「委任状」という意味です。
株主提案を行った株主(ここではアクティビストが主たる存在と言えるでしょう)が他の株主に委任状を送付し、株主提案の可決票を集める一方、会社の経営陣は株主提案の否決票を持つ委任状を集めます。
これがプロキシーファイト(委任状争奪戦)と呼ばれる語源です。
直近のプロキシ―ファイトの事例として大きくメディアにも取り上げられたのは、大塚家具の創業者・父の大塚勝久会長と長女の久美子社長によるプロキシーファイトです。
このケースは経営陣vsアクティビストという構図ではありませんが、お互いが同社の株式を大量保有しており、他の株主からの賛成を集めることで相手方の退任を狙い、経営権を自分が掌握するという狙いのもと発生しました。
大塚家具のお家騒動はこのプロキシーファイトが起こる大分前から話題になっており、これまでの経営路線を貫こうとする父の大塚勝久会長と、顧客ターゲット・価格帯を変えるなどして経営スタイルの転換を狙う娘の久美子社長の方針の違いがぶつかりあっていました。
結果、娘の久美子社長の提案が議決権の60%近くを得たことより大塚勝久会長は退任し、2015年、大塚家具は新たに大塚久美子社長が経営に大きな権力を持つ会社として生まれ変わることになります。
その後数年経ち、大塚家具の業績は当時よりも悪化し、厳しい状況に追い込まれており、自立再建が困難なため会社の売却を進めているという話も出てきています。
このようにプロキシ―ファイトが行われた後可決された株主提案が各ステークホルダーにとって必ずいいものになるとは言えないだけに、提案側・そして議決権を持つ側もその提案には非常に慎重になる必要があると言えます。
よくアクティビストの株主提案としてある「株主価値の向上=配当金の引き上げ」は資本市場にとっては株価にもプラスになりうると言えるため株主の味方であると言えます。
中長期的な視点で見たときにその提案はどうなのか、といった考察もしておく必要があると言えるでしょう。
3、アクティビスト:プロキシーファイトのメリット・デメリット
この項では、プロキシ―ファイトのメリットとデメリットについてみていきましょう。
(1)プロキシーファイトのメリット3つ
①アクティビストが大量保有を行うことによって買い圧力が強くなることが考えられる
何度か触れてきたように、プロキシ―ファイトで株主提案を通すには一定の議決権の保有、すなわち株式を一定数持っている必要があります。
そのためにアクティビストや株主提案を行いたい投資家は、その会社の株式を大量保有するために大きく買い付けを行わなければなりません。
大きな買い需要があるということは、大量保有されるまでに同社の株式において買い圧力が強まるということでもあります。
それにより株価が上昇するという構図が考えられるため、アクティビストの売買動向自体が株価の上昇に寄与することがあります。
②提案が通るか否かということが株価にとって上昇の思惑となりうる
例えば先ほどの大塚家具の場合のように、トップに立つ経営者が変わるかどうかというのはその会社の今後を占うにあたって非常に大きな分岐点です。
どちらに転ぶか分からない、またどちらの提案が通ったとしてもその会社の経営方針はこれまでと変わることが予想されるため、それが思惑を呼び株価の上昇に寄与するというパターンも考えられます。
ただこういった思惑による株価上昇というのは得てして化けの皮もはがれやすく、あくまでも投機的な動きであることは頭に置いておきましょう。
③提案が通ることにより、株主価値の向上や敵対的買収を防止できる
前述したような配当金の引き上げは明らかに株主価値の向上であり、投資家においてはメリットであると言えます。
また、アクティビストの提案の中には他社からの敵対的買収を阻止する、といった提案もあり、会社を守る意味合いで行われるものも存在します。(もちろん、アクティビストが敵対的買収を行うために株主提案を行うという逆のケースもあるのですが)
(2)プロキシーファイトのデメリット2つ
①従来の経営方針が変えられてしまうことによるリスク
プロキシ―ファイトは「資本市場」の視点、つまり株主にとってはプラスに働く場合も多いのですが、「財市場」「労働市場」の視点からはマイナスに働いてしまう場合もあります。
キャッシュリッチな企業に対し、その現金を使わないのであれば株主への配当に回せ、というアクティビストの提案は多いですが、余剰資金は別の用途のために残している場合もありますから、企業にとってはうま味が少ないと言えます。さらなる利益を生みだすために現金は必要ですから、そういった観点から財市場においてはデメリットとなりうるかもしれないのです。
また、取締役の交代などは更なるリスクが発生しやすいと言えます。
これまでの経営陣とは異なった考え方を持つ人が入り込んできて口出しをするようになるわけですから、従来の経営陣にとっては非常にやりにくい環境になると言えます。
②プロキシーファイトに際し、大きなコストが必要となる
プロキシーファイトに勝利するためには既存株主の票をいかに集めるかが重要となります。
基本的にプロキシーファイトを仕掛ける側、アクティビストのような存在は自分たちの利益のためにいきなり外から提案を行うわけですから、それに簡単に他の株主が同調しない場合も多いのです。プロキシーファイトに勝つために広告費などを使っていく必要もあり、仮に勝利したとしてもそれを上回るコストがかかってしまう場合は本末転倒と言えるかもしれません。
4、プロキシーファイトで活動する、日本で注目を集めるアクティビストファンド
海外ファンドが日本の株式に目をつける事例も多く存在しますが、日本国内でも積極的に活動を続けているアクティビストは存在します。
(1)エフィッシモ・キャピタル・マネージメント
村上ファンド出身者によって作られたアクティビストファンドであるエフィッシモ。メディアへの露出も多く、東芝の筆頭株主として名が挙がったことで知名度も比較的高いファンドだと言えるでしょう。
リコー、富士紡ホールディングスなどの大量保有が2018年に入って報じられていますが、彼らが大量保有を行ったことで同社の株価が上がるといったような動きも発生しています。
アクティビストの行動は株主にとってはプラスのことが多いので、彼らの動向に期待して株式を購入する投資家も一定数いるということです。
(2)ストラテジックキャピタル
こちらも村上ファンド出身である丸木強氏によって設立されたアクティビストファンドです。
保有銘柄としては京阪神ビルディング、極東貿易、内田洋行などがあります。2017年の年間収益は20%と非常に高くなっています。
アクティビストは投資パフォーマンスを追い求めつつ投資先企業の積極的なアプローチを仕掛けていく必要があるわけですが、そういったことを踏まえると年利20%というのはかなり素晴らしい投資収益であると言えるでしょう。
(3)Japan Act
サンエー化研<4234>などを主要投資先とし、コーポレートガバナンスの向上を理念に掲げている投資会社です。Japan Actに限らず、アクティビストの多くはコーポレートガバナンスの向上を投資理念の一つとして持っていることが多いですね。
彼らはアクティビストとしての活動を通し、その会社、ならびに、より多くの日本企業が社会の中で価値を高められるようにしていくビジョンを持っているのです。
また、Japan Actは、サンエー化研の大株主として2019年6月開催の株主総会で、株主提案を行っており、今後の動向にも注目が集まっています
5、進化を続けるアクティビストの活動
「4、今、日本で注目を集めるアクティビストファンド」では日本のアクティビストについて触れてきましたが、やはり資金量で言うと海外のアクティビストは日本のそれよりも群を抜いています。
米アクティビストのバリューアクト・キャピタルは約1兆6500億円の資産を持つとされており、2018年6月には日本のオリンパスの大量保有報告書も提出しています。
日本において近年導入された「コーポレートガバナンスコード」「スチュワードシップコード」、これら2つのコード(指針)は、それぞれ企業の経営をより透明化・公正化すること、機関投資家が投資行動を明確化・公正化するために用いられているものです。
これらにより企業・機関投資家はそれぞれに対する向き合い方を見直し、双方にとってメリットのある行動をとっていく必要が出てきています。
こういった新たな制度の導入もアクティビストの活動に追い風を吹かせているということが出来るでしょう。
まとめ
今回の記事ではアクティビストの活動、そしてプロキシ―ファイトについて詳しく見てきました。
今後日本においても企業経営をめぐってこういった活動が活発化していくことが考えられるため、過去の事例を振り返っておくことは非常に有用だと言えます。「3、プロキシーファイトのメリット・デメリット」でも触れたように、株価に対してのインパクトとなる場合もあるので、そういった意味でもアクティビストの行動に注目しておきたいです。