投資と言えば株式を真っ先に思い浮かぶかもしれませんが、実は証券口座を持っている人が必ずと言って良いほど保有している商品があります。それがMRFです。
MRFは低リスクの運用ができる投資信託ですが、あまり有名ではありません。そこで、この記事ではMRFについて、金利を中心に解説していきます。MRFに替わる低リスクの資産運用についても紹介します。
MRFとは
MRFの金利について解説する前に、まずはMRFについて説明しておきましょう。
MRFとは、「マネー・リザーブ・ファンド(Money Reserve Fund)」の略で、リスクの低い公社債やコマーシャルペーパーで運用する投資信託のことです。元本保証の商品ではありませんが、安全性が高く元本を削らないようリスクに配慮した商品です。
2019年現在、銀行の預金は低金利で、普通預金は0.001%ほど、定期預金でも最大0.2%ほどといった利息しかつかないことは、多くの方がご存知でしょう。このような環境の中、かつてはMRFの方が高金利で、しかもリスクが低く抑えられているため、「預金よりもMRF」と考える人が多くいました。ところが、2016年のマイナス金利政策でMRFの金利もほぼゼロになりました。
これから、MRFの金利が低下している理由と、それでも投資するメリットがあることについて解説します。また、MRFに代わる投資先についても紹介しましょう。
MMFとの違い
MRFとよく似た商品に「MMF」というものがあります。MMFは、「マネー・マネジメント・ファンド(Money Management Fund)」の略で、MRFと同様にリスクの低い公社債やコマーシャルペーパーで運用する投資信託のことです。
MRFとMMFの大きな違いは、運用期間と金利です。MRFはいつでも入出金できるのに対し、MMFは期間が決まっています。
中途解約も可能ではありますが、満期まで保有するよりも金利が大きく下がってしまうという特徴があります。また、一般的に金利はMRFの方が低く、MMFの方が高いです。
MRFの金利
かつては銀行預金よりも金利が高かったMRFですが、2016年を境に状況が変わっています。2016年にマイナス金利政策が導入されてからは、MRFを高金利で運用することができなくなりました。
2016年以降は、基本的にMRFの金利は0%という状況が2019年現在まで続いています。
一口にMRFといっても数多くの種類があるため、代表的なMRFについて具体的に金利を比較していきましょう。また、他の金融商品の金利とも比較してみましょう。
金利比較
早速、代表的なMRFについて金利を比較していきましょう。直近の2019年7月の金利は次のようになっています。
それ以前の金利については割愛しますが、2016年半ば頃から同じような水準が続いています。
各週におけるMRFの年換算利回り
年月日 | 国際のMRF | 三菱MRF | 日本MRF | ダイワMRF | MHAM |
2019年7月19日 | 0.0000% | 0.0000% | 0.0003% | 0.0000% | 0.0000% |
2019年7月12日 | 0.0000% | 0.0000% | 0.0003% | 0.0000% | 0.0003% |
2019年7月5日 | 0.0000% | 0.0000% | 0.0003% | 0.0000% | 0.0000% |
岡三証券の「日本MRF」は他のMRFに比べて若干利回りが高いですが、各社ほとんどゼロ金利と言って良い状態です。一方、銀行の普通預金の利息は0.001%ですので、MRFよりも銀行に預けておく方が利回りの観点からは良いと考えられます。
参考までに、マイナス金利政策が導入された2016年以前の金利も引用しました。MRFが人気だった頃の金利もご覧いただけば、当時のメリットを感じてもらえることでしょう。
年月日 | 国際のMRF | 三菱MRF | 日本MRF | ダイワMRF | MHAM |
2016年1月1日 | 0.0278% | 0.0259% | 0.0149% | 0.016% | 0.02% |
2015年1月2日 | 0.0434% | 0.0102% | 0.0182% | 0.017% | 0.025% |
2014年1月3日 | 0.0456% | 0.0518% | 0.0317% | 0.056% | 0.041% |
金利が低い理由
MRFにマイナス金利が適用されているわけではありませんが、2016年にマイナス金利政策が導入されてから、短期の国債などの利回りが低下した状態になっています。MRFで投資できる商品の利回りが低くなったことに伴い、MRFの利回りも低くなっているのです。
同様の理由で、MMFも運用環境が悪くなっています。存続できず、新規のMMFへの申し込み受付を停止している証券会社が多くあります。
金利が上がる可能性
気になるMRFの金利が上がる可能性ですが、今のところ見通しは明るくはないでしょう。2019年6月の黒田東彦日銀総裁の会見では、マイナス金利の深堀りもあり得る考えが示されました。
米国の利下げ観測が高まる中、日銀が警戒していることは、米国の利下げを背景とした円高の進行です。円高になると日本の経済を支えている輸出企業は海外で製品を売りづらくなり、収益が悪化してしまいます。リーマンショック後も、円高によって日本経済は大きなダメージを受けました。
このような事態を回避するため、マイナス金利を深掘りする考えが示されたのです。したがって、MRFの運用環境が改善する可能性は高くないでしょう。
MRFのメリット
「MRFの利回りは低下している」と聞くと、わざわざMRFに投資するメリットはないように感じるかもしれません。しかし、MRFを使うと株式や投資信託のようにリスクを取らなくても、証券会社にお金を預けることができます。
MRFを利用するにはメリットがあるので、紹介していきましょう。
メリット1:入出金が簡単
証券会社にお金を預けている場合、ただの「預り金」ではなく「MRF」として運用されているケースが多いです。預金とは異なりますが、1円以上・1円単位で取引できることがMRFの特徴です。使い勝手は預金によく似ています。
MRFは、取引に手数料がかからないことが特徴です。これから解説していくように、MRFは預金とよく似ているものの優っている点があるため、ぜひMRFの活用を前向きに検討してみてください。
メリット2:ペイオフ制度の上限を回避できる
預金として銀行にお金を預けておくと、銀行が倒産した場合は基本的に「ペイオフ制度」が適用されます。ペイオフとは、1人に対して1,000万円までの元本と利息が保証される仕組みで、銀行が倒産しても預金のうち1,000万円ほどは返ってくるという制度です。
しかし、1,000万円以上の現金を預けておきたい人は、倒産が怖くて預けられないかもしれません。そこで活用したいのがMRFです。
MRFは投資信託なので、証券会社ではなく信託銀行に財産が保管されます。そのため、証券会社が倒産した場合でも、原則として投資家の財産に影響はありません。
また、信託銀行では銀行の資産と顧客の資産の分別管理が義務付けられています。したがって、信託銀行が倒産した場合でも、投資信託に預けた財産に影響はありません。
メリット3:預り金より安全な資産管理
証券会社にお金を入金する目的は、株式を買ったり、投資信託に投資したりすることが目的の人がほとんどでしょう。投資に使うまで、お金を少しずつ証券口座に入金している人もいます。
このように、株式などを買うための準備として置いているお金を使い、多くの証券会社ではMRFを購入しています。「投資家の資産を勝手にMRFに使うなんて」と思う方もいるかもしれませんが、実は、証券口座に「預り金」として置いておくよりMRFの方が安全なのです。
証券会社は、顧客のお金と会社のお金を別々に管理する「分別管理」が義務付けられていますが、倒産して顧客のお金を返却できない事態に陥ってしまう可能性はゼロではありません。このような場合、「預り金」は日本投資者保護基金から1人あたり1,000万円を限度として返却されます。
先ほどペイオフ制度のところで説明したように、1,000万円以上のお金を証券会社に預けている人にとっては不十分な制度です。そこで、証券会社が顧客の現金をMRFに変えておくことにより、信託銀行に管理してもらった方が安全なケースがあるのです。
MRFに替わる資産運用
MRFは低リスクの運用ですが、利回りはかなり低い状態です。儲けを狙って資産運用したい人にとっては、MRFは物足りない商品でしょう。
そこで、MRF以外にリスクを抑えて資産運用する方法について紹介していきます。
リスクを回避するなら「銀行預金」
MRFと同じくらい低リスクな商品は銀行預金です。普通預金でも定期預金でもリスクの程度はあまり変わらないので、すぐに必要のないまとまったお金を置いておくなら定期預金がおすすめです。
メガバンクや地方銀行の定期預金の金利は普通預金と大差ない水準ですが、インターネット銀行なら最大で0.2%ほどの金利がつく定期預金があります。
また、SBI証券と住信SBIネット銀行の「SBIハイブリッド預金」、楽天証券と楽天銀行の「マネーブリッジ」といった高金利の預金もあるので、活用してみてはいかがでしょうか?いずれも普通預金と似たような感覚で、いつでも入出金することができます。銀行口座と証券口座を結びつけることで利用できるサービスです。
2019年7月現在、SBIハイブリッド証券は0.01%、楽天のマネーブリッジは0.1%と、普通預金よりも高金利です。場合によっては、定期預金よりも高金利なケースもあります。
年金資産を作るなら「iDeCo」
低リスクな運用先を探している人にとって、一番心配なことは元本割れでしょう。利息が付かなくても良いから、老後に使う予定のお金などを貯めておきたいというニーズも多いです。
リスクを抑えて老後の資産を形成したい人におすすめなのが「iDeCo(イデコ)」です。iDeCoとは「個人型確定拠出年金」のことで、自分で年金を準備する制度です。節税のメリットもあるので、利回りよりも節税のために加入する人も多くいます。
iDeCoはほとんどの証券会社で加入することができ、投資家の手間といえばその証券会社が指定する商品の中から自分が運用したい商品を選ぶだけです。実際の運用自体は運用会社にお任せできます。
選べる商品はリスクが低いものから高いものまでさまざまですが、定期預金を選ぶこともできます。「利息が付かなくても良いから安全に老後資金を貯めたい」と考えている人は、iDeCoで節税しながら定期預金での運用がとてもお得です。
投資信託ならつみたて「NISA」
iDeCoの次によくおすすめされるのが、「つみたてNISA」です。
つみたてNISAは、金融庁が厳選した比較的リスクの低い投資信託の中から選んで投資をする商品です。投資信託にはさまざまな商品がありますが、MRFのように債券で運用する投資信託もあり、低リスクの商品も多いです。
一般的な投資では、運用で得られた利益には税金がかかります。投資信託を使って資産形成している人も同じですが、利益の2割ほどが所得税や住民税として徴収されます。
一方、つみたてNISAを使って投資信託を買うと、利益は非課税になります。利益の2割の課税の有無は、運用成果に大きな影響を及ぼします。
つみたてNISAは年間40万円までの投資額で、最大20年という上限があります。年間40万円ということは、12ヶ月で割れば毎月3万円ほどです。投資を始めてみたいという方におすすめです。
定期預金と比較してどちらがお得か
定期預金とMRFを比較すると、2019年7月現在では定期預金の方が利回りが高く、お得な商品と言えます。マイナス金利を背景にMRFの運用環境が悪く、金利がほとんどゼロとなっているためです。
また、MRFの利回りが向上する見通しは現時点では不透明です。MRFの利回り回復を願うより、定期預金や普通預金を活用したり、iDeCoやつみたてNISAに挑戦してみた方が良いかもしれません。
まとめ
MRFの金利について解説しました。マイナス金利政策を背景に、各社のMRFの利回りはほとんどゼロの状態となっています。
MRFは安全性の高い投資信託でいつでも入出金できるといったメリットがありますが、定期預金の方が利回りが良く、積極的にMRFへの投資をおすすめできる環境ではなくなっています。
意外と知られていませんが、証券口座に置きっぱなしにしている現金は、証券会社が自動的にMRFを買い付けして運用しているケースが多いです。証券口座を持っている人にとっては実は身近な商品なので、この機会にMRFについて理解を深めてみてください。