噂なのか事実なのか!?

村上ファンドの真実とは?その投資スタイルにあった以外な共通点

かつて世間を騒がせた投資グループ「村上ファンド」。

いわゆる「もの言う株主(アクティビスト)」である彼らは、2006年のニッポン放送インサイダー取引事件を大きなきっかけに解散しました。

ですが、その後2018年村上ファンドの代表であった村上世彰氏が再び東栄リーファーライン <9133>、黒田電気 <7517>などの株式を大量保有、再び買収阻止やTOBなどを行い投資家としての存在感を復活させつつあります。

何かと話題になりがちで、邪な目で見られる村上ファンドならびに村上世彰氏ですが、彼らの考え方や投資手法には我々が学ぶべき点も多くあります。

画一的な投資スタイルではないものの、その根幹にあったのは「バリュー投資」であり、どのように投資先を選んでいたのか、そして今後どのような動きをしていくのか学んでいくことは我々個人投資家の目線からでも役に立つことでしょう。

そこで今回の記事では村上ファンドについて詳しく見ていくとともに、マスコミには明かされなかった彼らの考え方の本質的な部分、どんな企業にこれまで投資してきたのか、といった情報についてもチェックしていきましょう。

1、村上ファンドはどんなファンドだったのか

1999年7月、村上世彰氏によって株式会社M&Aコンサルティング、その後株式会社MACアセットマネジメント、株式会社エム・エー・シーなどの設立がなされ投資ファンドとしての事業活動がスタートしました。

設立から早くもおよそ6ヵ月後に昭栄(現ヒューリック <3003>)に対しTOB(株式公開買い付け)を実施ののち失敗したものの、昭栄の株価は当時最大で80%超の上昇。

2002年、東京スタイル(現TSIホールディングス <3608>)に対し増配や自己株式取得などの株主還元の提案が為されたころから村上ファンドの知名度は段々と上がっていき、マスコミにもその名が多く登場するようになりました。

この後も、村上ファンドはニッポン放送や日本フェルト、タカラ、TBS…といった個別企業の株式を大量保有、そして経営権への積極的な関与を行い、「もの言う株主」としてめきめき頭角を現していくことになります。

代表・村上世彰氏の根本的な考えにあったのは「コーポレートガバナンスの改革」すなわち経営改善についての具体的提案を通し、株主価値向上のために会社の統治指針を改善していくということです。

日本でも2015年6月から適用が開始された「コーポレートガバナンスコード(企業統治指針)」ですが、村上ファンドはその約15年前から先立って同規則を重視し、投資スタンスに活かしていたことが分かります。

2、村上世彰氏の略歴

村上ファンドが重視していた「コーポレートガバナンスの改革」の考え方の背景にあったのは、やはり代表の村上世彰氏の存在でしょう

父親から投資を学び、小学校3年から株式投資を始めたという異色の経歴を持つ村上氏は、大学卒業後に通産省に入省。

その後公務員としての人生を15年近く送るも、よりよい日本経済を作っていくためには「コーポレートガバナンス」が大事であること、そして日本の経営者の財務に対する考え方の浅薄さを変えていかなければならないことを強く実感します。

多くの企業が「彼らに投資している株主」に向いた経営をしていないことに危機感を覚え、そのような経営者・企業に株主として提言をしていくことを決断し40歳を前にして株式会社M&Aコンサルティングを立ち上げました。

2017年6月に発売された同氏の著書『生涯投資家』などでも彼の考え方は述べられていますが、一貫してあるのは「コーポレートガバナンスの更なる改善、そしてそれを多くの企業に浸透させること」という哲学です。

2006年のニッポン放送インサイダー取引疑惑、2015年にも相場操縦の疑いで強制調査を受けるなど色々な意味で話題を呼ぶ村上ファンドですが、本質的な考え方は至極真っ当であることが分かります。

ただ、もの言う株主(アクティビスト)は「企業価値の向上」「コーポレートガバナンスの向上」を目的に掲げてはいるものの、同じくらい大事なのが「自らの投資でリターンを得られるか」ということです。

村上ファンドもそれは同じく、強気な投資姿勢、経営に踏み込む在り方が賛否を呼ぶことも多々ありました。

また村上世彰氏の実の娘である村上絢氏も父親、そして祖父の意志を次ぎ立派な投資家になったことも有名な話です。

2015年、C&IHDの代表取締役CEOに就任した後、女性の社会進出の支援、NPO団体などへのサポートに積極的に尽力し、彼女の理念の一つにあるのはやはり「コーポレートガバナンスの実現」であり、黒田電気などの株式大量保有を行い経営権への関与、そして企業価値向上を自らのミッションの一つとして掲げています。

3、村上ファンドの運用額や投資先

2006年時点でおよそ4400億円という運用資産額を持っていたとされる村上ファンドは個別企業の大株主になるには十分な資本と言えます。

その資産を使い、これまでどのような会社に投資を行ってきたのでしょうか?

有名どころでいくと角川グループホールディングス、セゾン情報システムズ、タカラトミー、松屋、そしてニッポン放送、TBSなどが挙げられます。

2006年まででも、それらの会社を含め50社近くに投資しています。

その中にはのちに上場廃止、または経営統合になった東急ホテルチェーン、アライドマテリアル、阪神百貨店などの会社も含まれており、中でもグローバリーと言う会社には上場廃止の直前に投資を行うなど、村上ファンドの考え方とは異なる「リターンにフォーカスをあてた投資」もいちケースとして見られています。

2006年、インサイダー取引で逮捕ののち、2013年には再びC&IHD、黒田電気、エクセル、三信電気などの株式の大量取得が続々判明されるも、2015年11月に再び相場操縦の疑いで世間から身を隠してしまいました。

しかし、その後再び2017年~2018年にかけて東栄リーファーライン、日本郵船といった会社株式の大量保有が報じられています。

気になる村上ファンドの投資パフォーマンスに関しては当時の日経平均株価、TOPIXといった代表株価指数を上回っており、保有していた株式の中には騰落率が+100%を上回るものもあったと言われています。

個人投資家たちの中にも「村上ファンドがアクティビストとしてのはたらきをすることで株主還元が行われる=株価上昇に繋がる」といった考えを持つ人たちが増え、後追いで同社の株式を買う人が増えた、というような背景もあるでしょう。

彼らの投資スタイルは経営改善を促しながら、かつ投資パフォーマンスを着実にあげていくというアクティビストの代表例であると言うことが出来ます。

4、村上ファンドの投資スタイル

2006年までで、50社近くあった村上ファンドの投資先ですが、上場廃止直前のグローバリーのような例外もあるものの、彼らの投資手法にはある程度統一されたルールがありました。

その根本にあるのは「バリュー投資」であり、「財務状況がよい一方、株価が割安で放置されているもの」を選んで投資していくというものです。

財務状況が良いというのは、有利子負債(利子付きの借金)が少ないこと、自社で保有している現金が多い(キャッシュリッチである)ことなどがその細かい要素として挙げられるでしょう。

また、代表的な株価指標であるPBR(株価純資産倍率)は特に重視されていた数値として考えられており、村上ファンドの投資先企業はPBRが市場平均値より低い会社がその多数を占めていました。

PBRが低いことは一方で「これからの利益向上が期待されていない」ということも意味していますから、経営改善といった観点からも投資対象として選ばれていたことが考えられます。

「割安かつ健全経営、かつキャッシュが豊富な企業に株主還元を提案する」というのはアクティビストの典型的な行動ですが、村上ファンドも例に漏れずそのやり方を踏襲していたと言えるでしょう。

とは言えそういった浅い考えのみで投資を行っていたわけではなく、最終的には「企業価値の向上」そして投資先のみならず日本企業全体の「コーポレートガバナンスの向上」を狙っていたことは間違いありません。

彼らはあくまでも企業価値に基づいた「ファンダメンタルズ」に焦点を当て、そのうえでアクティビストとしての活動を行っていたファンドだと言うことが出来るでしょう。

投資ファンドの中には大企業のみに対象を絞った保守的な運用をするところも見られますが、村上ファンドは大企業・新興企業というような投資対象の括りはしておらず、あくまでもここまで挙げてきたような条件で活動を行ってきたことが分かります。

5、バリュー投資の強み

村上ファンドも好んで行ってきた企業のファンダメンタルズを重要視した「バリュー投資」は、我々個人投資家にとっても非常に大事な考え方であることは間違いありません。

投資方法は人によってそれぞれですが、「中長期という長い目で見た投資」に向いているのがこのバリュー投資だと言うことが出来るでしょう。

株価チャートを参考にするテクニカル分析や短期のデイトレード、スキャルピングも一つの投資手法ではあるものの、「最終的に株価は業績に収斂(しゅうれん)される」というのが多くの著名投資家の中でもある考え方です。

ウォーレン・バフェット、ピーター・リンチといった米著名投資家も会社のそのものの価値(バリュー)に重きを置いた投資をしていることからも、その投資法がいかに大事かわかります。

バリュー投資の強みは基本的に「ミドルリスク・ミドルリターン」かつ「中長期投資」であることで、株式投資に日々時間を割けない方であっても行えるという点です。

村上ファンドのようにPBR、PER、ROEといった株価指標も意識することでより確実な投資パフォーマンスの向上が狙えるでしょう。

株式投資において大事なことは「焦らずに自分の投資手法を見つけ、長期にわたって安定したリターンを得ていくこと」です。

どうしても人間は目先の利益に目がくらみがちですが、こつこつ、かつ淡々と利益を積み上げていくことが投資において一番重要であると言っても過言ではありません。

まとめ

ここまで村上ファンドのマスコミでは明かされなかった真実、そして彼らの投資手法から学べることについて見てきましたがいかがでしたでしょうか。

ニッポン放送とライブドア事件で悪者のように扱われていた村上ファンドですが、これまでそういったところでしか彼らを見たことがなかった方はイメージが少し変わったと思います。

村上ファンドの真実、そしてその裏側に関しては村上世彰氏の書籍『生涯投資家』でより詳しく触れられていますので、気になる方はそちらもチェックしてみてください。