シリア情勢や北朝鮮の核放棄に向けた協議など、現在でもいつ紛争が起こってもおかしくない緊張した状況が、世界各地で続いています。
紛争が起これば経済にも影響します。
特にグローバル化した現代では、ひとつの地域の紛争が、世界経済にも大きな影響を及ぼすことが多くなっています。
このような「地政学リスク」は、マーケットを不安定にさせる要因となりますが、株価が動くことで利益をあげるチャンスともなります。
この記事では地政学リスクを知り、チャンスに変える方法について解説していきます。
1、地政学リスクとは?
金融用語としての地政学リスクとは、ある地域の政治や軍事、社会的な問題のことであり、その緊張が高まることにより、その周辺地域の経済、さらには世界の経済全体を不安定にする要因となる問題のことを言います。
戦争や紛争のほか、大規模なテロや外交問題、政治的な混乱なども地政学リスクとなります。
これらの問題は、宗教や文化、慣習、あるいは資源の有無といった、その国の地理的な条件なども大きく影響することから、地理と政治の関わりについて研究する学問を指す、地政学という名前が用いられています。
地政学リスクが高まると、政治や国際関係が不安定になるとともに、多くの場合経済にも影響を及ぼします。
長年地政学リスク抱える中東地域は、主要な原油産地であり、地政学リスクの高まりは原油価格、そして為替や株式相場にとって大きなリスクとなってきました。
2、2018年最新版!3つの地政学リスクとは?
(1)朝鮮半島情勢
一度は決まっていた米朝会談を、トランプ大統領がキャンセルするなど、核兵器放棄に向けた北朝鮮との外交交渉は、依然予断を許さない状況が続いています。
北朝鮮は核実験場の放棄など、核兵器放棄を進める姿勢を見せてはいるものの、すでに必要な実験が終わっており、いらなくなった実験場を爆破しただけのパフォーマンスのようにも思えます。
交渉が決裂すれば、北朝鮮は核を維持し続けることになり、アメリカによる軍事制裁により本格的な軍事的衝突へとつながる恐れがあります。
その場合には、経済への影響のほか隣国である日本にも、現実的な被害が及ぶ可能性もゼロではありません。
(2)シリア情勢
シリアでは1970年代から混乱が続き、アサド政権による独裁的専制国家の体裁への反発、宗教対立によって激しい戦闘が繰り返されてきました。
アサド政権を支援するロシアと、反体制派を支援するアメリカなど連合国との対立、代理戦争の様相も呈しています。
2018年4月には、米国が化学兵器使用に対する報復措置としてシリアへの空爆を行い、事態は収束するどころか、ますます深刻化しています。
(3)ヨーロッパ情勢
直近ではスペインやイタリアなどの政局の混乱が続いています。
イタリアでは大統領と政権与党が対立を強めており、イタリア国債やユーロは急落し、そのほかの国の金融市場にも大きなリスクとなっています。
ポピュリズム政党が勢力を拡大しつつある状況で、イタリアのEU離脱の流れが強まることも想定しておかなければなりません。
またイギリスのEU離脱に向けた交渉も進んでおり、イギリスのEU市場からの離脱を含む「ハードブレクジット」となるようなら、金融市場に再び混乱をもたらす可能性があります。
3、株価・金利・為替・原油価格にどのような影響がある?
地政学リスクは、ベトナム戦争や朝鮮戦争などの時代には、軍需産業が潤う戦争特需によって景気がよくなるといったことがありました。
しかし現在ではそのような直接的な需要増によるプラスの影響よりも、政治や経済の混乱が投資家に心理に与える悪影響のほうが大きくなっています。
(1)株価への影響
地政学リスクが高まると、リスク資産である株式は売られやすく、株価は下落する傾向があります。
紛争などの地政学リスクでは、軍事・防衛関連銘柄に買いが集まりやすくなります。
(2)金利への影響
地政学リスクが高まると、安全資産として米国債など先進国の債権が買われ、金利が低下する傾向があります。
ただし地政学リスクの当事国や関係国の国債などは売られる傾向があり、金利が急騰することもあります。
(3)為替への影響
地政学リスクが高まると、米ドルや日本円、スイスフランなど、安全通貨・避難通貨といわれる通貨が買われる傾向があります。
「有事のドル買い」とも言われ、米ドルが安全通貨の代表であることは変わりありませんが、最近では日本円の強さも目立ちます。
そのため、地政学リスクが高まると、米ドルよりも日本円が買われ、ドル円相場でも円高に振れるケースが増えています。
(4)原油価格への影響
中東情勢など、産油国の関係する地政学リスクが高まると、原油供給量の減少懸念から、原油価格が上昇しやすい傾向があります。
ただシェールオイルやシェールガスの生産量増加によって、原油生産地域の地域分散が進むなど、地政学リスクが原油価格に与える影響は以前よりも小さくなってきていると言えます。
4、地政学リスクをチャンスに変えて儲ける方法
地政学リスクが現実になれば相場の先行き不安が広がり、相場の急落といったことが起こります。
地政学リスクには、事前にある程度想定されているものもあり、そのような場合にはリスク資産を減らして備えておくことも必要だと言えるでしょう(みんな同じように考え、すでに下落が始まっている可能性がありますが・・・)。
ただ地政学リスクがなくなることはないといえ、地政学リスクを過度に心配していると、いつまで経ってもリスク資産には投資できなくなってしまいます。
また地政学リスクは突如勃発することもあるため、事前に備えることができない場合もあります。
そこで地政学リスクが現実化しても致命傷とならないよう、地政学リスクが相場にどのような影響を与えるのかを理解した上で、投資金額や投資対象のリスクを適切に管理することが大切です。
まずは地政学リスクが現実化すると、その後相場はどのように動くことが多いのか、その傾向を知っておきましょう。
(1)地政学リスクが現実化した後の株価の動き
①リスク資産などは売られ相場は下落
地政学リスクが現実化すると、相場の先行き不安から株などのリスク資産が売られ、そのニュースが広がるにつれ、漠然とした不安感から売りが売りを呼び、相場が急落します。
②詳細な情報が伝わるにつれ、リスクの大きさが明らかになる
リスク発生から時間が経つにつれ、詳細な情報が伝わってきます。
これにより漠然とした不安や恐怖から、実際にどのくらいの影響するのか、リスクの大きさが明らかになってきます。
③オーバーシュートした株価に買い戻しが入る
リスクについて見通しが立つようになると、売られすぎた銘柄には買い戻しが入り、株価が持ち直してきます。
また見通しが不透明なままでも「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざもあるように、状況をさらに悪化させるような変化がなくなってくると、時間が経つにつれて恐怖や不安は和らぎ、株価も落ち着いていきます。
(2)株価は比較的早く回復する(だたし銘柄による)
リーマンショックのような金融危機は、景気への影響も大きく、株価を支える企業の業績の悪化を伴うことから、株価が回復するまでに時間を要するケースが多いと言えます。
それに対し、地政学リスクによる株価の下落では、株価の回復が比較的早いと言えます。
これは地政学リスクでは企業の業績自体への影響はあまりなく、投資家の不安や恐怖がその要因となっていることが多いからです。
株価はその企業の価値を示すものであり、その企業の価値が損なわれない限り、いずれ回復するものです。
少しでも有利な投資先を探し求めている投資家にとって、本来の価値に比べてバーゲンセールのような価格で売られている銘柄を見逃す手はありません。
(3)地政学リスクは優良銘柄のバーゲンセール
地政学リスクは相場へのインパクトも大きく、優良銘柄であっても相場全体の下落に押される形で株価が下落しやすくなります。
本来の価値に比べ売り込まれた優良銘柄は、株価の回復も早い傾向があり、株価の下落はバーゲンセール、買いを入れる絶好のチャンスになります。
ただし買い戻されるかどうかは、当然その銘柄にその価値がなければなりません。
企業の価値を見ずに、株価が安いからといって飛びついてしまうと、バーゲンセールではなく、在庫処分の見切品を掴むことにもなりかねません。
チャンスをものにできるよう、普段から銘柄分析を行うなど準備して、買うべき銘柄を見定めておくことが大切です。
5、地政学リスク関連銘柄
地政学リスクが高まれば相場全体は下落する傾向にありますが、逆に買われる銘柄もあります。その代表が防衛関連銘柄です。
(1)細谷火工(4274)
自衛隊向け照明弾や発煙筒などを製造する。地政学リスクが高まるタイミングで防衛関連として注目が集まり急騰することが多い。
(2)豊和工業(6203)
工作機械を主力とする産業用機械の老舗企業。元は紡績会社であったが、小銃などの火器製造を手がける防衛関連銘柄でもある。
(3)石川製作所(6208)
ダンボール製函印刷機を主体とする機械メーカー。防衛機器製造にシフトし、売り上げの約半分を占める防衛関連銘柄である。
(4)コマツ(6301)
建設機械世界2位。防衛省向けの装甲車や砲弾なども製造する防衛関連銘柄である。
(5)重松製作所(7980)
産業用防毒マスクや防塵マスクなどを製造する。防毒マスクは生物兵器などへ備える防衛関連銘柄として注目を集める。
6、地政学リスクで利益を上げている個人投資家のブログ
(1)どにゃるど流米国株ポートフォリオでアーリーリタイア
最適なポートフォリオを模索しながらアーリーリタイアを目指す個人投資家さんのブログです。
(2)バフェット太郎の秘密のポートフォリオ(米国株配当再投資戦略)
地政学リスクの高まりで投資家がすべきことは
優良米国株に長期積立投資する、個人投資家バフェット太郎さんの米国株ブログです。本当に優良な株に投資していれば、地政学リスクによる短期的な調整局面は大したことはないと説いています。
URL:バフェット太郎の秘密のポートフォリオ(米国株配当再投資戦略) 地政学リスクの高まりで投資家がすべきことは
まとめ
いかがでしたでしょうか。
地政学リスクは相場を大きく動かす不安要素ではありますが、その影響は比較的短期的なものであることが多いと言えます。
優良銘柄であれば株価の下落は買いを入れる絶好のチャンスであり、防衛関連銘柄など地政学リスクが追い風となる銘柄もあります。
地政学リスクは本来ないに越したことはないものですが、しっかりと準備をしていた投資家にとってはチャンスをもたらすものでもあるのです。
地政学リスクを恐れる普通の投資家から、地政学リスクをチャンスに儲けることのできる投資家になりましょう。