国が発行する個人向け国債は、極めて元本保全性が高い安全資産として知られています。安全性が高ければ、当然リスクもリターンも低くなります。そのため、個人向け国債に投資する際は、実際に儲けられるのかどうかが気になりますよね。
結論からいうと、個人向け国債で資産が2倍・3倍に膨らむような儲け方はできません。1万円を5年運用しても、得られる利子の合計額は5年間で20円程度です(※)。発行債によっては利率がもう少し高い場合もありますが、現在の日本で大幅な金利上昇を期待することは難しいでしょう。
運用元本と運用できる時間が潤沢になければ、個人向け国債だけで大きく儲けるのは難しいのです。
そこで、この記事では個人向け国債の運用益の実態から、他の債券やリスク資産と組み合わせて利益を増やす方法を案内していきます。
※参考:「個人向け国債受取利子シミュレーション」(財務省ホームページ)より、「固定金利型5年」の第 121 回債を5年運用した際のシミュレーション結果を利用
【結論】個人向け国債だけで儲けるのは難しい
先述のとおり、日本の個人向け国債だけで大きく儲けて資産を作るのは難しいといえます。もちろん、儲けの度合いに対する感じ方は人それぞれ異なりますし、運用元本が大きければ、そのぶん高い運用益を見込めます。一概に儲けられないとはいえません。
では、儲けるのが難しいのはどのようなケースかというと、1万円~1,000万円を運用するようなケースです。
例えば、固定金利型5年の個人向け国債(※)を運用したとします。このとき、運用元本が1万円であれば、1年で得られる利子は最低4円程度です。運用元本が1,000万円でも、1年の利子は5,000円程度です。
しかし、仮に運用元本が1億円あれば、1年で5万円程度の利子を見込めます。
このように、運用で得られる利子・運用益は、運用元本の大きさに比例して大きくなります。
また、運用期間を長く取ればそれだけ利益を積み上げられるため、資金と時間がたっぷりあればいつかは「儲ける」こともできるでしょう。
ただ、実際に数千万円~1億円もの運用資産を簡単に用意できる人は少ないでしょうし、まとまった資金を何年も使わずにおいておくことも難しい話です。このように、個人向け国債だけで大きな利益を出すには相当な資金と時間が必要なのです。
元本保全性が高くリスクが低い商品の場合、リターンも低くなるのは投資のセオリーです。低リスク・ハイリターンの運用方法はないということを、覚えておきましょう。
※参考:「個人向け国債受取利子シミュレーション」(財務省HP)より、「固定金利型5年」の第 121 回債を5年運用した際のシミュレーション結果を利用
国債は儲からないって本当?いくら増えるか運用益を計算
ここでは、本当に個人向け国債は儲からないのか、実際の運用益を解説します。結論からお伝えすると、運用元本100万円の場合は最低年間500円、金利変動によっては2,600円程度、運用元本1,000万円の場合は最低年間5,000円、金利変動によっては2万6,000円程度の運用益を得られる可能性があります(※)。
ここでは、
- 最低限受け取れる利子の合計額
- 過去発行債の受取利子の合計額
について、それぞれ見ていきましょう。
※実際の受取利子は発行債の利率によって変わります。上記はあくまで最低限の利子合計額と、過去の受取利子合計額です。市場情勢によって金利が上昇する場合は、この限りではありません。
運用元本100万円の場合
運用元本100万円で個人向け国債を運用した際、最低限受け取れる受取利子の目安は1,500円~5,000円です。
変動金利型10年満期 | 固定金利型5年満期 | 固定金利型3年満期 | |
---|---|---|---|
金利(年率) | 適用金利:最低保証の0.05%と仮定して計算 | ||
運用期間 | 10年 | 5年 | 3年 |
受取利子合計(税引前) | 5,000円 | 2,500円 | 1,500円 |
※国債の利子は、受取時に20.315%分の税金が差し引かれます。
上記の計算は、個人向け国債で設定されている最低下限の金利を使用しています。個人向け国債の適用金利は発行時期によって変わるため、実際には投資する時期によって利子が変わる点に留意してください。
特に、受取利子の変動があるのが、変動金利型です。変動金利型では半年に一度適用金利が変わるため、上記の利子合計額よりも受け取れる利子が増えることがあります。
そこで、以下の表に過去発行債の適用金利を基にした実際の利子合計額をまとめました。
変動金利型10年満期 | 固定金利型5年満期 | 固定金利型3年満期 | |
---|---|---|---|
発行号 | 第 35 回債(2011年発行) | 第64回債(2016年発行) | 第99回債(2018年発行) |
金利(年率) | 適用金利0.05%~0.77%まで変動 | 適用金利0.05% | 適用金利0.05% |
運用期間 | 10年 | 5年 | 3年 |
受取利子合計(税引前) | 2万6,300円 | 2,500円 | 1,500円 |
年間の平均運用益(税引前) | 2,630円 | 500円 | 500円 |
※国債の利子は、受取時に20.315%分の税金が差し引かれます。
このように変動金利型は金利変動があり、さらに運用期間も長いことから、固定型と比べて受取利子も増える可能性があります。
ただし、過去発行債の金利は、あくまで過去のものです。市場情勢によっては0.05パーセント以上の金利を見込めないこともあるため、上記の利子合計額はあくまで目安だということを覚えておいてください。
運用元本1000万円の場合
運用元本1,000万円で個人向け国債を運用した際、最低限受け取れる受取利子の目安は1万5,000円~5万円です。
変動金利型10年満期 | 固定金利型5年満期 | 固定金利型3年満期 | |
---|---|---|---|
金利(年率) | 適用金利:最低保証の0.05%と仮定して計算 | ||
運用期間 | 10年 | 5年 | 3年 |
受取利子合計(税引前) | 5万円 | 2万5,000円 | 1万5,000円 |
※国債の利子は、受取時に20.315%分の税金が差し引かれます。
なお過去発行債の適用金利を元にした実際の利子合計額については、以下表にまとめました。
変動金利型10年満期 | 固定金利型5年満期 | 固定金利型3年満期 | |
---|---|---|---|
発行号 | 第 35 回債(2011年発行) | 第64回債(2016年発行) | 第99回債(2018年発行) |
金利(年率) | 適用金利0.05%~0.77%まで変動 | 適用金利0.05% | 適用金利0.05% |
運用期間 | 10年 | 5年 | 3年 |
受取利子合計(税引前) | 26万3,000円 | 2万5,000円 | 1万5,000円 |
年間の平均運用益(税引前) | 2万6,300円 | 5,000円 | 5,000円 |
※国債の利子は、受取時に20.315%分の税金が差し引かれます。
運用元本が1,000万円と大きくなれば、比例して受取利子合計額も大きくなることがわかります。とはいえ、元本が2倍になるようなことはありません。
また、上記の利子を受け取るには、1,000万円もの資金を3年から10年もホールドしておく必要があります。運用元本が1,000万円あっても、個人向け国債で大きく資産を増やすのは難しいことがよくわかるのではないでしょうか?
債券で儲けたいなら社債や米国債という選択肢も
「債券投資で儲けを出したい」という方には、社債や米国債という選択肢もあります。
日本の個人向け国債は国が元本を保証しているため、安全性において個人向け国債にかなう債券はありません。しかし、日本の個人向け国債はリスクが低いぶん、利回りも低いというデメリットがあります。
債券投資でできる限り高い利回りを期待するのであれば、企業が発行する社債や米国が発行する米国債を投資対象にするのも一つの方法です。
社債は、ものによっては年5パーセントを超える高金利が期待できる点が、米国債は世界の中心である米国という高い信用力が魅力です。いずれも個人向け国債より高いリターンを期待できます。社債や米国債について、それぞれ解説していきましょう。
個人向け社債とは
企業によって発行される債券で、個人向けに販売されているものを個人向け社債といいます。国が発行している個人向け国債ほどではないものの、大企業の個人向け社債なら比較的信用力が高く、利回りも高くなっています。
個人向け社債の特徴は次のとおりです。
- 企業が事業資金調達のために発行する
- 国が発行する国債と比べると信用力は劣る
- ソフトバンクなど大企業の社債は非常に人気が高く、発行後すぐに売り切れてしまうこともある
- 発行が不定期で募集期間にも限りがあるため、いつでも投資できるわけではない
- 債券によるが、日本の個人向け国債より高い金利が設定されていることが多い
- 個人向けの場合、最低購入金額は10万円~100万円程度のことが多い
発行元が国である国債ほど高い安全性はありませんが、そのぶん高い利回りを期待できるのが個人向け社債の魅力です。ものによっては年5%以上の金利が発行時に約束されているため、投資時に期待リターンを予測しやすい点もメリットといえるでしょう。
ただし、個人向け社債の場合、購入金額は最低でも10万円以上するものがほとんどです。1万円から購入できる個人向け国債のように、少額で投資をしたいという場合は「複数の社債に投資する投資信託」を購入する方法もあります。
投資信託であれば複数の債券が組み入れられているため、特定の企業の社債一つに投資するよりは、リスクを抑えることができます。
米国債とは
米国政府が発行する債券を米国債といいます。世界を牽引するアメリカが発行体であることから、非常に人気がある米国債。おおまかな特徴は次のとおりです。
-
- 世界の金融市場を牽引する米国が発光体であるため、高い信用力を誇る
- 売買が容易で、高い流動性を誇る
- 日本の個人向け国債より金利が高い
- 証券会社によって円でも外貨建てでも購入できる
- 債券の償還期限により種類が分かれる
- 利付債、割引債(別名:ゼロクーポン債、ストリップス債)など複数の種類がある
- 外国の債券なので、為替手数料がかかる
- 最低購入金額は1,000米ドル
米国債のメリットは、高い信用力と高い流動性です。米国再建市場は世界の債券市場の中心であるため、いつでも気軽に売買できる点は大きな魅力でしょう。
米国債の最低購入金額は1,000米ドルであるため、10万円程度の資金が必要です。個人向け国債のように「1万円程度の少額で購入したい」方には、米国債の値動きに連動するETF(上場投資信託)や投資信託を購入するという方法があります。
ETFであれば、より機動的な取引ができるため、手軽に試してみたい方におすすめです。
国債は安全資産!リスク性資産と組み合わせるのがおすすめ
日本の個人向け国債は国が発行元であるため、高い元本保全性を誇っています。発行される時期によって適用金利は変わりますが、どの発行債も年0.05パーセントの最低下限金利が設定されています。変動金利型の商品であっても、適用金利が0.05パーセントを下回ることはありません。
1,000万円以上の定期預金の平均年利率(預入期間10年)が年0.002パーセントであることを考えると、元本確保型商品を手堅く運用したい方に適した運用方法といえるでしょう。
ただし、先述したように、個人向け国債はあくまで安全資産です。運用途中でも換金で、元本保全性が高い点は大きなメリットですが、リターンの期待値はそれほど高くないということを念頭に運用しなければなりません。
しかも、債券投資で得た利子・運用益には税金がかかります。1,000万円を元に運用して5,000円の利子を受け取っても、そこから約20パーセントの税金が差し引かれれば、実質的な利益は4,000円程度です。
したがって、元手資金が数千万円~1億円以上あるようなケースを除き、個人向け国債だけで資産を増やすことは困難です。
そこで、個人向け国債はあくまで安全資産として、他のリスク商品と組み合わせてポートフォリオの一つとして持つことをおすすめします。組み合わせるリスク商品の選択肢として、債券にこだわるのであれば個人向け社債や、米国債といった外国債券があります。
まとまった資金がなく、少額で運用を始めたいのであれば、債券に連動するETFや投資信託を購入する方法が良いでしょう。逆に、まとまった資金があり、ある程度リスクを取っても良いという方には、債券よりも期待リターンの高い株式投資やヘッジファンド投資といった選択肢があります。
株式投資は債券と並ぶポピュラーな投資方法であり、国内外で多種多様の取引ができます。デイトレードといった短期的取引から、長期保有による配当利益を目指したバイ&ホールドといった取引方法まで、自身のスタイルに合わせた取引を楽しめる点が魅力です。
株式投資については、こちらの記事でもご紹介しているため、参考にしてみてください。
ヘッジファンドとは、投資のプロであるファンドマネージャーに運用を託す投資方法です。まとまった運用資金がなければ利用できない方法ですが、プロに運用を任せられるため、本業が忙しいビジネスマンでも運用できる点が魅力です。
資金に余裕はあるが時間に余裕がないという方は、ヘッジファンドも考えてみると良いでしょう。
ヘッジファンド選びについては、こちらの記事でもご紹介しています。
投資で資産を2倍・3倍にしたり、数年の運用で数十万円以上の利益を手にしたりしたいのであれば、ある程度リスクを取らなければなりません。繰り返しますが、運用元本が限られている場合、債券投資ではまとまった資産を手にすることは困難です。
「運用資産が5,000万円以上あるような資産家ではない。それでも、運用で資産を増やしたい」このような場合は、債券を持ちつつ、株式投資やヘッジファンド投資といった方法でリスクを取り、まとまったリターンを得られるようにしましょう。
まとめ
国が発行し、最低金利を保証している個人向け国債。高い信用力と元本保全性があり、定期預金よりも高い金利を期待できることから、個人向け資産は安全資産としての運用に適した方法といえます。
ただし、安全性が高くリスクが低いということは、リターンも低いということです。発行債によって金利は異なりますが、1,000万円を10年運用した際の期待リターンは、数万円~数千円程度。1,000万円を10年運用しても、資産が2倍になったり、運用益が何十万円になったりすることはないのです。
今はまだ数十万円~1,000万円程度の資産しかないけれど、これから投資で資産を増やしていきたいという方は、個人向け国債だけで儲けようとせず、他のリスク商品と組み合わせることをおすすめします。債券投資であれば、個人向け社債や米国債、あるいは債券に連動する投資信託やETFを選ぶと良いでしょう。
まとまった資金があり、ある程度リスクを取れる方には、株式投資やヘッジファンド投資といった選択肢があります。特に期待リターンを高めたいのであれば、株式投資やヘッジファンド投資がおすすめです。
どのような金融商品でも、リスクとリターンは比例します。個人向け国債はあくまで守りの資産として持ち、他のリスク商品でリターンの期待値をあげていきましょう。