ヘッジファンドが「倒産」する原因とは?大きな失敗を避ける方法を解説

ヘッジファンドは投資のプロ集団が運用する商品ですが、運用に失敗するなどして、倒産してしまうことがあります。
ヘッジファンドへの投資を検討している人は、倒産しそうなファンドには絶対投資したくないと思いますよね。

この記事では、ヘッジファンドが倒産する原因や、大きな失敗を避ける方法を解説します。優良なヘッジファンドを選ぶためにも、今回お伝えすることを役立ててください。

倒産したヘッジファンドの実例

リーマンショックやコロナショックなど、度重なる金融危機の影響を免れられず、倒産に追い込まれたヘッジファンドは過去に多数あります。また、詐欺を働いて投資家を騙し、最終的に悪事が明るみに出て倒産した会社もあります。

この章では、過去に倒産したヘッジファンドの実例を紹介します。金融のプロが集うヘッジファンドでも倒産することがあるという事実をご理解いただければ幸いです。

ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)

ロングターム・キャピタル・マネジメント(Long-Term Capital Management)、通称LTCMは、アメリカのコネチカット州を拠点とする有名なヘッジファンド会社です。大手投資銀行「ソロモンブラザーズ」で活躍したジョン・メリウェザーが立ち上げ、元FRB副議長のデビッド・マリンズや、ノーベル経済学賞を受賞したマイロン・ショールズなどが参加していたため、「ドリームチーム」として世界中から注目を集めていました。

発足当初は順調に運用し、1994年の設立から4年間の平均利回りは年率約40%と、驚異的な成果を上げていました。当初は流動性の高い債券の取引が中心でしたが、運用規模が大きくなるに従い、M&Aや金利スワップ、株式、モーゲージ担保証券など、収益事業の幅を広げていきました。

投資会社はこぞってLTCMの手法を真似しましたが、そうなるとLTCMは以前より利益を上げられなくなるため、いたちごっこの競争が起きていました。

 

風向きが変わったのは、1997年のアジア通貨危機と1998年のロシア財政危機です。LTCMは新興国債券の暴落は一時的なものと考え、債券や株式を大量に買い付けました。

ところが、予想に反して新興国の債券や株式はさらに売られ、価格が下落しました。買いたい人は非常に少ないのに売りさばきたい人は大勢おり、流動性が低い状態で価格が暴落してしまったのです。

 

また、米国債券の空売りにも失敗したことや、取引を自動売買で行っていたためポジションの保有と決済に歯止めがかからなかったりして、どんどん損失が積み上がっていきました。LTCMは巨額の損失を抱え、倒産に追い込まれてしまいました。

タイガー・マネジメント

タイガー・マネジメントは、1980年にジュリアン・ロバートソンによって開設されたヘッジファンド会社です。ロバートソンは1990年代におけるヘッジファンド業界のビッグ3の一人と言われるほど、金融業界では有名な人物です。

結果的にタイガー・マネジメントは倒産しましたが、ロバートソンは投資によって資産を築いた億万長者で、現在は引退し、慈善家として余生を送っています。

 

タイガー・マネジメントは、ファンドを設立した1980年から2000年までの20年間、年平均利回り約25%という高い成果を出したとされています。最盛期には約2.2兆円もの運用資産を誇り、一時期は世界で2番目に規模が大きいヘッジファンドになりました。

しかし、1998年に起きたロシア財政危機により日本円が急騰すると、巨額の円売りポジションを持っていたタイガー・マネジメントは、莫大な損失を抱えることになります。

 

世界を代表するヘッジファンドだったはずが、あっという間に転落し、2000年にロバートソンが引退する形で倒産となりました。20年もの長期間にわたって高い運用成績を出してきたヘッジファンドでも、一度の金融危機で倒産に追い込まれてしまうことがあるのです。

アルケゴス・キャピタル・マネジメント

2021年3月、アメリカの投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントが倒産しました。それまではあまり存在が知られていなかった投資会社ですが、資産は1兆円を超えており、倒産の影響は各国の金融機関に広がっています。

アルケゴスは、個人の富裕層一族の資産運用を行っている投資会社(ファミリーオフィス)です。厳密にはヘッジファンドではありませんが、それゆえに起きた悲劇とも言えます。

 

ファミリー・オフィスは運用形態こそヘッジファンドに似ているものの、基本的には他人のお金ではなく自分や家族のお金を運用する会社なので、当局から規制を受けないからです。当局の監視が行き届かないところで、無謀な運用を行って倒産した可能性が考えられます。

アルケゴスは5~8倍のレバレッジをかけた取引を行っており、運用が失敗したため、各国の金融機関が追加の保証金を要求していました。その中には日本の金融機関も含まれ、野村ホールディングスや三菱UFJ証券ホールディングスなどがあります。

倒産したことにより、たとえば野村ホールディングスは約20億ドルの損失を負うとされています。

 

アルケゴスで運用を行っていたビル・フアンは、上述したタイガー・マネジメントで働いていました。2012年にはインサイダー取引の疑いで提訴され、金融機関で働くことを禁止されていた人物です。

2020年に禁止が解けアルケゴスで運用を始めると、巨額の損失を抱えてしまったのです。要注意人物であり、金融機関も審査時に把握していたと考えられますが、倒産という事態になってしまいました。

バーナード・マドフ

バーナード・マドフは投資詐欺の首謀者で、アメリカで禁固150年の刑を受けた人物です。2021年4月、82歳で死去しました。

倒産とは少々異なりますが、「投資したファンドが跡形もなく消えた事件」という意味では倒産に似ており、ヘッジファンドに投資する人の教訓になるため紹介します。

 

詐欺の被害に遭ったのは、日本の金融機関も含む米国内外の投資家で、被害総額は含み損ベースで650億ドル(約7兆円)に上ります。桁外れの事件で、「史上最大のネズミ講詐欺」と言われています。

マドフは「確実に年率10%の利回りを出す」という触れ込みで、投資家を募集していました。

本来、確実に利益の出る投資はなく、利回りの確約などはできません。しかし、マドフが元ナスダック・ストック・マーケット会長と信頼感のある人物であることから、投資の専門家を含む著名な投資家たちも騙されてしまいました。

 

実際に投資家たちは分配金を受け取っていましたが、それは運用による収益ではなく、元本の一部を取り崩したものでした。「マドフのファンドは儲かる」という噂が広まり、新規の資金がどんどん流入したため、自転車操業で元本を取り崩していたのです。

2008年にリーマンショックが起きてファンドの解約申し込みが相次ぐと、元本を取り崩していたマドフのファンドは解約金の支払いができなくなり倒産。マドフは2008年12月に逮捕されました。

ヘッジファンドが倒産する主な原因

ここまでの事例で紹介したように、投資のプロ集団であるヘッジファンドでも、運用に失敗するなどして倒産する場合があります。

ヘッジファンドが倒産する原因として最も多いのが、莫大な損失を抱えることです。他に、違法な取引も運用が終了する理由として挙げられます。

 

また、倒産ではありませんが、積極的な解散によってファンドの運用が終了することもあります。これらの原因について理解を深め、ヘッジファンドで失敗しないための基礎知識を身につけましょう。

莫大な損失が生じる

LTCMやタイガー・マネジメントのように、運用に失敗して莫大な損失を抱えた場合、ヘッジファンドは倒産する可能性が高くなります。大きな損失が生じると投資家から解約の申し込みが殺到し、解約金の払い戻しで運用資産が小さくなり、それがさらなる解約を誘発し……と負のスパイラルに陥り、資金が流出してしまうためです。

ヘッジファンドは投資のプロ集団が運用している商品なので、景気が上向いており相場が堅調な動きをしているときに、バタバタと倒産することは基本的にはありません。しかし、リーマンショック後に倒産したヘッジファンドが多いことからもわかるように、想定外の事態が起こるとヘッジファンドの倒産が相次ぎます。

 

とはいえ、リーマンショックやコロナショックのような危機を乗り越えてきたファンドもあります。まだ発現していないリスクを調査したり予測したりしながら、リスクコントロールを行っているヘッジファンドは、金融危機にも強い傾向があります。

違法な取引や勧誘を行う

インサイダー取引や投資詐欺などの違法な取引や勧誘を行ったことが明るみになった場合も、ヘッジファンドは倒産する可能性が高いです。解約申し込みが殺到して資金が流出して倒産に追い込まれるケースや、運用すらしていない投資詐欺で、倒産どころか投資がスタートしていなかったケースなどがあります。

バーナード・マドフが行ったような投資詐欺は、規模は違えど日本国内でもよく起きています。投資詐欺でよく使われるのは、「ポンジ・スキーム」という手法です。名称は、アメリカで天才詐欺師と呼ばれたチャールズ・ポンジに由来しています。

 

ポンジ・スキームとは、運用益を分配金として支払うことを約束して出資を募るものの、実際には運用せず、新たな投資家の出資金を既存の投資家に分配金として支払う詐欺の仕組みです。

既存の投資家は分配金を得られるので、最初は詐欺に気づきません。新たな投資家が増えれば分配できるお金が増えるので、なおさら発覚が遅れやすいです。

 

しかし、いつかは限界が来て、新たな投資家からの出資金だけでは既存の投資家の分配金をまかなえなくなります。破綻することが前提なのに、それを隠してお金をだまし取るのがポンジ・スキームの悪質である理由です。

日本国内でも、ニュースなどで投資詐欺が度々取り上げられますが、多くがポンジ・スキームです。一定の利益を保証するような勧誘を行っていることが多いです。

積極的な解散が行われる

倒産ではありませんが、積極的な解散についても押さえておきましょう。倒産と同様、ヘッジファンドの運用が終了する一因です。

ヘッジファンドが運用を開始したあと、運用環境が変わったり、法規制が変化したりして、効率的な運用ができなくなるケースがあります。こうした場合に、意図的にファンドの運用を終了するのが積極的な解散です。新たなファンドを組成するなどして、その時の運用環境や法規制に合わせて運用を再開する場合が多いです。

解散の場合、持ち分に応じて運用資産が返還されるため、運用終了時点で利益が生じていれば、投資家は元本返済に加え利益を得ることができます。
さらに、再組成されたファンドで運用しなおすことで、よりパフォーマンスを高められる可能性を秘めています。そのため「倒産」とは異なるのでポジティブに捉えやすいでしょう。

ヘッジファンドが倒産した際の影響は?

ヘッジファンドが倒産した場合、投資したお金は戻ってくるのか気になるところですよね。「損失が大きくなって、投資家が借金を背負うのでは?」といった心配もあると思います。

この章では、ヘッジファンドが倒産した際、投資家にはどのような影響があるのかについて解説します。

投資額以上の損失は被らない

ヘッジファンドへの投資では、投資額以上の損失を被ることはありません。1,000万円を投資したなら、最大の損失額は1,000万円です。

ヘッジファンドが倒産するなど最悪の事態が起こっても、投資家の損失額は投資した金額に収まります。投資したお金が全額戻ってこないリスクはありますが、それ以上の損失を負うことはありません。

資金が戻ってくる可能性は低い

ヘッジファンドが倒産する場合、運用資産が残っていれば、投資家に分配されます。しかし、倒産するほどの大きな損失が出たのであれば、運用資産はほとんど残っていないことが一般的です。したがって、投資家に資金が戻ってくる可能性は低いです。

なお、積極的な解散の場合は事情が異なります。上述のとおり、倒産ではなく運用の終了なので、終了時点で運用資産は投資家に分配されます。損失が出ている場合は元本よりも少ない払い戻しとなりますが、利益が出ていれば元本を上回る払い戻しが期待できます。

ヘッジファンドで大きな失敗を防ぐ対策

ヘッジファンドへの投資を検討している方は、倒産しそうなファンドや詐欺ファンドは避けたいと思っているはずです。残念ながら、倒産はヘッジファンドだけではなく、どんな会社にもあり得ますし、確実に詐欺を見抜く方法も存在しません。

しかし、投資家自身が注意すれば、大きな失敗は避けることができます。この章では、ヘッジファンドで大きな失敗をしないようにするための対策について解説します。

余剰資金で投資する

ヘッジファンドに限らず、投資は余剰資金で行いましょう。投資は利益を得られるチャンスがあるのと同時に、損失が生じるリスクがある取引だからです。

生活費や住宅ローンの頭金など、暮らしに必要なお金は投資せず、貯めておきましょう。投資に使って良いのは、損失が生じて最悪ゼロ円になっても、人生に大きな影響のない余剰資金のみです。

ヘッジファンドの投資方針を理解する

ヘッジファンドは専門的な商品で投資初心者には難しいかもしれませんが、できる限り商品を理解するよう努力しましょう。

失敗を避けるために特に重要なのは、損失が発生する条件やその金額です。運用環境がどうなれば損失が生じるのか、最大損失額を設定しているかなど、損失に関することは申し込み前の面談でよく確認しましょう。

手数料を確認する

倒産とは少し観点が異なりますが、ヘッジファンドで大きな失敗をしないためには、手数料が高すぎないことを確認することも重要です。

ヘッジファンドの手数料は主に成功報酬と管理報酬で、投資家の損失につながりやすいのは管理報酬です。管理報酬は、運用資産に対して3%から10%程度を設定しているヘッジファンドが多いです。

運用による利益よりも管理報酬のほうが大きい場合、投資家の資産はどんどん減っていってしまいます。

解約の条件を把握する

ヘッジファンドの倒産に巻き込まれて大きな損失を食らわないためには、雲行きが怪しいと感じたらすぐに解約することです。自由に解約できないヘッジファンドが多いので、解約できる条件を確認した上で投資を申し込みましょう。

たとえば、「投資を申し込んでから1年は解約できない」とロックアップ期間が設けられているファンドがあったとします。このファンドが1年以内に倒産したら、解約を申し込みすらできず、倒産に巻き込まれてしまいます。

勧誘の方法で見極める

投資詐欺かどうかは、勧誘の方法で見極めることが一般的です。投資は成果が読めないものなので、「元本保証」「月利10%保証」などと確実性をうたうファンドは詐欺の可能性が高いです。

また、「募集定員があと一人だから、今申し込まないと締め切られてしまうかもしれない」といったように、投資家を焦らせる勧誘にも要注意です。投資家から冷静な判断力を奪って契約させる、詐欺の常套手段です。

まとめ

ヘッジファンドは投資のプロが集まった集団ですが、運用に失敗するなどして、倒産してしまうことがあります。
ヘッジファンドへの投資を検討している人は、倒産する原因や大きな失敗を避ける方法を理解し、ファンド選びに役立ててください。

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