現在テレビ朝日系列で放送が始まったドラマ『ハゲタカ』は真山仁氏の小説が原作です。2007年にもNHKでドラマ化されており、今回は満を持してリメイクされました。
NHKで放送された当時は、ニッポン放送の経営権を巡るフジテレビとライブドアとの争いと、それに絡むアクティビスト・村上ファンドの動向が世間をにぎわせていたこともあり注目を集めた作品です。
今回リメイクされた背景には、ドラマで描かれているハゲタカファンドなどを含む、アクティビストに注目が高まっていることにあります。
ドラマでは鷲津(綾野剛)率いる、いわゆるハゲタカファンドと呼ばれる投資会社による買収劇がリアルに描かれています。
そのリアルさゆえ、普段あまりわたし達が使わないようなさまざまな金融用語も登場します。
この記事では、それらの金融用語の意味をその実例とともにご紹介していきます。
用語の意味がわかればドラマをより一層楽しめるはずです。
1、第一話あらすじ
“時は1997年。バブル崩壊後、末期的な危機に陥った日本の金融業界――銀行もまた膨大な不良債権を抱え、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていた。
そんな中、大手銀行のひとつである三葉銀行は、回収困難な不良債権を投資会社に一括でまとめ売りする“バルクセール”を実施。日本初となるこの試みを担うこととなった三葉銀行・資産流動化開発室の室長・芝野健夫(渡部篤郎)は、その席で外資系投資ファンド『ホライズンジャパン・パートナーズ』の代表・鷲津政彦(綾野剛)と対面する。
簿価総額は723億6458万円。芝野は「最低でも300億円で買い取ってほしい」と申し出るも、鷲津は「誠心誠意、丁寧な査定をさせていただきます」と返すに留め、その態度に芝野は一抹の不安を抱くのだった。
芝野を除く三葉銀行の面々は、査定に向け想定以上の手応えを感じている様子。しかし4週間後に迎えた回答期日、芝野たちは鷲津から衝撃の評価額を提示される! ”
2、“バルクセール”とは
『ハゲタカ』第1話では、三葉銀行と鷲津率いる外資系投資ファンド『ホライズンジャパン・パートナーズ』とのバルクセール交渉の様子が描かれています。
このバルクセールとは、金融機関が保有する回収困難な不良債権や不動産などを、投資会社などの第三者に一括でまとめ売りするものです。
売却価格は通常、帳簿上の価格(簿価=債権の額面価格など)から大幅に割り引いた価格で設定されます。
処分に困ったものを定価より安くまとめ売りする、いわば「中身の見える福袋」といったところでしょうか。
売却される不良債権は、回収見込みのない無価値の債権から、担保があり、いくらかの回収が見込まれる債権が玉石混合となっています。
買い手である第三者は、安値で買ったそれらの債権の中から、担保や債権の一部を回収することで利益をあげます。
またその際、売却された債権の債務者に対し第三者から提示される返済条件は、簿価から大きく割り引かれることが多く、債務者にとってもメリットがあります。
【ドラマでは、債権者の一人である老舗料亭『金色庵』の社長・金田(六角精児)に対し、2週間以内に20億円を返済すれば213億円の負債を帳消しにするという提案を鷲津は行っています。】
金融機関が回収の見込みのない不良債権を処分する(バランスシートから消す)には、損金として処理する方法(償却)もあります。
しかし税務署に償却を認めてもらうためには、債権の保証人まで入念に調査した上で、回収見込みのないことを示さなければならず、多くの時間と労力を要します。
バブル崩壊により多額の不良債権を抱えた日本の金融機関は、その削減のため、積極的にバルクセールを行いました。
ドラマでは簿価723億6458万円に対し、三葉銀行側は当初300億円での買取を希望します。しかしホライズンは綿密な実態調査から、査定額を65億円と提示します。
この提示額には驚きと怒りを隠せない三葉銀行側でしたが、最終的にこの条件を飲むこととなります。
このような厳しい条件にもかかわらず銀行が応じたのには、早急な不良債権削減を求める政府からのプレッシャーも背景にあったと考えられます。
3、バルクセールの実例
日本における最初のバルクセールは、1997年3月に東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)による約50億円の不良債権の一括売却です。
これをきっかけとして、日本でもバルクセールによる不良債権処理が一気に進むこととなりました。
バルクセールの事例 | |||
時期 | 売り手 | 買い手 | 売却規模 |
97/3期 | 東京三菱 | カーギル | 50億円 |
東京三菱 | ゴールドマンサックス | 125億円 | |
98/3期 | 住友 | ゴールドマンサックス | 400億円 |
クラウンリーシング | バンカーストラスト他 | 2,800億円 | |
東京三菱 | ローンスターオポチュニティファンド | 200億円 | |
三和 | メリルリンチ他 | 1,500億円 | |
さくら | メリルリンチ他 | N.A | |
三井信託 | セキュアードキャピタル | 1,300億円 | |
住友銀行 | N.A | 1,000億円 |
(出典:『貸付債権流動化・証券化と不良債権処理について』野村資本市場研究所)
4、“飛ばし”とは
ドラマの中で三葉銀行が希望した300億円を大きく下回る65億円の提示に応じる決定的な要因となったといえるのが、銀行が隠していた“飛ばし”の存在です。
飛ばしとは、保有する有価証券などが値下がりした際、社外のファンドや子会社などの第三者に含み損の状態のまま簿価に近い価格で一時的に売却することで、会社本体に損失が出ないようにすることをいいます。
決算書などには損失が計上されなくなり、その行為は法律で禁止される粉飾決算や損失補填に該当する恐れがあります。
バブル崩壊後の1990年代前半には、この飛ばしが相次いで表面化し、大きな問題となりました。
5、飛ばしの実例 山一證券
当時、野村證券、大和証券、日興証券と並び日本四大証券会社の一角であった山一證券が自主廃業により、実質的に経営破綻したのは1997年のことでした。
その要因となったのが“飛ばし”でした。
山一證券では、顧客を獲得するために利回りを保証する行為が常態化していました。
利回りを保証するということは、約束した運用益をあげなければ、不足する部分を証券会社が負担(=損失を補てん)しなければなりません。
バブル期には株価は右肩上がりで上昇し、問題は起こりませんでした。
しかしバブル崩壊によって状況は一転し、山一證券は大きな含み損を抱えてしまいます。
この損失をすべて負担することになれば、経営状態は悪化し、四大証券会社の一角としてのブランドや信用が損なわれてしまうことも想定されます。
そこで山一證券は損失を先送りする方法として飛ばしに手を出すこととなります。
次第に飛ばし先が限られてきた山一證券は海外にペーパーカンパニーを作り、そこに決算の度に損失を移すことで、2648億円の帳簿上の損失の隠蔽が行われていました。
これは完全な粉飾決算であり違法行為です。
それに追い打ちをかけるように再び業績は悪化、総会屋への利益供与事件の発覚、大蔵省からは経営改善報告書の提出を求められます。
この時に提出した報告書には飛ばしによる簿外債務は記載されませんでした。
それは後日明るみとなり、自主廃業へと追い込まれていきました。
自主廃業を発表した会見では、当時の野澤社長が「すべて私ら(経営陣)が悪いんです。社員は悪くありません。」と社員の支援を涙ながらに訴え、この会見はバブル崩壊を象徴するものとして、いまでも度々取り上げられています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ドラマ『ハゲタカ』ではハゲタカファンドの姿がリアルに描かれていることもあり、金融用語が多く登場してやや難しい印象を持たれるかもしれません。
しかし、ドラマがきっかけとなり用語の意味やアクティビストについて興味を持ち物語の進展とともに知識を深めていっていただければ幸いです。