7月19日からスタートした新木曜ドラマ『ハゲタカ』。
ドラマでは、バブル期の放漫経営で積み上がった負の遺産に目を向けようとしない経営者や企業が登場します。
そのような企業を買収、問題を追求し再生を図っていく、綾野剛演じる鷲津が率いる「ハゲタカ」ファンドの模様が描かれています。
このようなハゲタカ・ファンドのほか、企業などに対し積極的に影響力を行使するアクティビスト・ファンドなどは、最近のニュースなどでも注目を集めています。
この記事では、ハゲタカ・ファンドとはどのような組織なのか、ハゲタカ・ファンドとアクティビスト・ファンドとの違いについて見ていきます。
1、ハゲタカ・ファンドとは
ハゲタカは死肉を主なエサとするハゲワシやコンドルなどの総称であり、ときに弱者を利用する悪者のたとえにも使われることもあります。
ハゲタカ・ファンドは、経営破綻しかけている、いわば死に体の企業の債権や株式を買い取り、実質的な経営権を握ることで利益を得ようとします。
その姿は、死肉に群がるハゲタカとも言えます。
そしてハゲタカ同様、このような投資手法を行うハゲタカ・ファンドも、”悪者”としてあまりいい印象を持たない人もいます。
しかし、ハゲタカ・ファンドは必ずしも悪者とは言えない一面もあります。
彼らは利益を得るためとはいえ、ときには強引な再建計画によって企業再生を図り、企業価値を回復させます。
一時的に経営破綻に陥ってしまった企業でも、ハゲタカ・ファンドが適切な措置によって再生され、蘇ることも少なくありません。
短期的に利益を吸い取られ、まさに”食い物”にされてしまう企業もありますが…
2、ハゲタカ・ファンドの実態
ドラマに描かれているようなハゲタカ・ファンドも実在し、企業の実質的な買収などが頻繁に行われています。
(1)エリオット・マネジメント
エリオット・マネジメントは法廷闘争を得意とし、不良債権投資に強いハゲタカ・ファンドとして知られています。
彼らはときに、破綻国家さえターゲットとします。
破綻国家をターゲットとした投資では、みんなが投げ売りしている破綻国家の債務(ソブリン)を、額面から大幅に割り引かれた値段で買い漁ります。
そして世界中の裁判所で訴訟を起こし、金利やペナルティまで含めた全額の支払いを求めます。
それらの裁判で勝訴判決を得ると、その国のタンカー、外貨資産、航空機などあらゆる財産を差し押さえ、投資額の10〜数十倍の利益を獲得します。
【アルゼンチン政府との攻防】
アルゼンチンが2001年デフォルトに陥った際、エリオット・マネジメントは、傘下のNML Capital Limited(以下、NML)を通じて、額面6億1700万ドルのアルゼンチン国債を、額面の3割以下(推定)の価格で買い集めました。
金利やペナルティを含む全額の支払いを求めた訴えは、アメリカ最高裁までもつれこんだものの、最高裁の上訴棄却によってNMLの勝訴が確定します。
しかし、なおもアルゼンチン側は交渉に応じず、2014年まで抵抗は続きました。
その後、米連邦地裁によりアルゼンチン政府のドル建て債券の利払いを禁止する差止め命令が出されたことで、アルゼンチン政府は再びデフォルトに陥ります。
海外での資金調達ができなくなったアルゼンチン政府は、国際金融市場への復帰を最優先し、NMLなど債権者との交渉を始めることを決め、ついに15年にわたる攻防に決着がつくことになりました。
NMLが取得していたアルゼンチン債券(額面6億1700万ドル)に対し、アルゼンチン政府は22億8000万ドルを支払うことで合意します。
もともと額面の3割以下で取得したとされる債権であるため、NMLが獲得した利益は、投資額の10倍以上となりました。
(参考:現代ビジネス 破綻国家にたかる訴訟型「ハイエナ」ファンドのエグすぎる手口)
(2)コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)
コールバーグ・クラビス・ロバーツ(以下、KKR)は、ニューヨークに拠点を置くハゲタカ・ファンド(バイアウト・ファンド)であり、「レバレッジド・バイアウト(LBO)」を得意としています。
レバレッジド・バイアウトでは、買収先の資産・キャッシュフローなどを担保として資金調達を行います。
買収後に、買収企業の資産売却や事業改善などを行うことでキャッシュフローを増加させ、負債を返済していきます。
少ない自己資本で、相対的に大規模な企業買収を行える手法として利用されています。
【RJRナビスコの世紀の買収】
KKRは、1989年に全米の食品・タバコメーカー・RJRナビスコを、約250億ドルで買収しました。
この買収劇は世界の金融市場を巻き込んだ争奪戦となり、LBOを駆使して見事に勝利したKKRの名は世界に広まりました。
この買収の結果、まず経営陣の入れ替えにより旧経営陣が無駄にしていたコストの削減が進みました。
その一例として、10機の社用ジェット機などは、買収後すぐに売却されています。
また新経営陣には、買収費用の負債の返済が必要なことに加え、出資者としても企業価値を高めることへのインセンティブが働きます。
これらによって、買収後のRJRナビスコの市場価値は向上し、KKRだけでなく、旧株主の多くにも利益がもたらされました。
3、ハゲタカとアクティビストの違いとは
ハゲタカ・ファンドと同様に、企業に積極的に働きかけを行い、企業価値や株主利益の向上を目的として投資を行う組織として、アクティビスト・ファンドがあります。
では、どのような違いがあるのでしょうか。
(1)敵対的ハゲタカと友好的アクティビスト
ハゲタカ・ファンド :短期的利益を求め、敵対的な手法も辞さない
アクティビスト・ファンド :対話や企業の中長期的な発展を重視する
一般的には、上記のような傾向があると言われています。
そのため、「ハゲタカ」は、私利私欲のため、”敵対的”な手法を用いる”悪者”としてのイメージが強く、「アクティビスト」は”友好的”というイメージを持たれがちです。
(2)セブン&アイ・ホールディングスとアクティビストファンド「サード・ポイント(Third Point LLC)」
ここで日本でも注目されたアクティビストファンド「サード・ポイント(Third Point LLC)と日本企業との実際に起きた事例をご紹介します。
【セブン&アイ・ホールディングス】
2016年「セブン・アイ・ホールディングスの鈴木会長辞任」のニュースが大きく取り上げられました。
社長交代人事案が思うように進まず、取締役会で否決され鈴木会長は辞任となりました。
サードポイントの主張
- EBITDAと呼ばれる利払い・税金・償却前利益が世界的な同業他社に比べると、極めて低いと指摘
参照:ダイヤモンド・オンライン
- 経営不振のイトーヨーカ堂をグループから切り離す経営分離
- コンビニエンスストア専門会社として運営する
- 伊藤会長の提案した社長交代人事案(世襲人事)批判
→経営改革により年間配当金を77円から2割程度の引き上げを主張しました。
その結果、イトーヨーカ堂の不採算店舗40店程度閉店する方針を打ち出し、鈴木会長の辞任ということになりました。
その後の配当金は、2018年2月期年間配当金は90円、そして2019年2月期の予想配当金は95円になり、確実にアクティビストファンドの主張がプラスに働くことが証明されました。
わたしたちの身近なコンビニにもアクティビストの力が働いていることがわかります。
しかし、それはそれぞれのファンドや事例によっても異なる部分もあり、いずれかが一方的に良い・悪いとも言えません。
企業にとって酷な再建計画を強いるハゲタカ・ファンドであっても、その荒療治が功を奏し、見事に再建を果たした企業も少なくありません。
一方、中長期的な発展を目指すと言いながら、なかなか成果が出なければ短期的な利益を求めるアクティビスト・ファンドも中にはあります。
そのため、そのファンドの要求が、彼らの短期的な利益だけを目的としたものではないか、企業や株主にとってメリットのあるものなのか、その見極めがより大切です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
あまりいいイメージをもたれない「ハゲタカ」ファンドでも、そのままでは”死”を待つだけの企業を生き返らせる、救世主となることもあります。
しかし、保守的な日本人には、その強引な手法はなかなか受け入れられにくいかもしれません。
アクティビスト・ファンドも、ときに企業に厳しい意見や要求を行ないます。
しかし、対話を重ねながら、中長期的なスタンスで企業価値の向上を目指すことを基本とするため、日本人にとっても、より受け入れられやすい存在だと言えるでしょう。
そのため、今後の日本経済の発展には、企業価値の向上を後押しするアクティビストの存在がカギとなり、ますます注目されていくことが予想されます。
投資家としては、彼らアクティビストが注目している銘柄へ投資をしたり、アクティビスト・ファンドに直接出資したりするのもひとつの選択肢だと言えるでしょう。