人工知能(AI)の進歩によって存在感を増すクオンツ・ファンドですが、「クオンツ運用」とは?どのような運用をするのか?
ビックデータの高速分析や機械的な高速トレードで日本の株式市場も振り回されることが多くなってきています。
これからの資産運用で知っていると必ず役に立つクオンツ・ファンドについて紹介していきます。
クオンツ・ファンドとはどのようなものなのか、そのメリット・デメリットと今後のゆくえについて考えていきましょう。
1、クオンツ・ファンドとは?
金融工学に基づいて大量のデータを数量的に分析、処理し、あらかじめ決められたプログラムに従って運用を「クオンツ運用」といい、このクオンツ運用により運営されるファンドが「クオンツ・ファンド」です。
大量のデータを正確かつ高速に分析、処理することは、まさにコンピュータが得意とする分野になります。
近年めざましいペースで進歩を続ける人工知能(AI)を活用したクオンツ・ファンドが登場し、人間のファンドマネージャーが運用するヘッジファンドが苦戦する中、好成績をあげていることで注目されています。
アメリカ・ウォールストリートジャーナル紙の記事によると、株取引における投資タイプ別の割合では、2017年にクオンツ・ファンド(QUANT HEDGE FUNDS)が27.1%を占め、人が投資判断を行う従来型のヘッジファンド(OTHER HEDGE FUNDS)の22.0%を逆転しました。
2、クオンツ・ファンドのメリット
(1)テクニカル分析による短期投資では圧倒的有利
テクニカル分析によってチャートのパターンなどから値動きを予測し、短期間で値幅をとっていくトレードは、いわば機械的なトレードであり、それこそ機械が圧倒的有利に働きます。
世界中ビッグデータを高速で分析、処理し、それを瞬時に反映しながら、1000分の1秒単位という、人間では太刀打ちできないスピードでトレードする、そんなAIが相手では、短期勝負で人間のトレーダーが勝つのはかなり難しくなっています。
人間のトレーダーがまともに勝負できるのは、これまでにない突発的な動きが起こりやすい流動性の低い市場や個別銘柄への投資、あるいはファンダメンタルズ分析や将来性といった長期的なスタンスでの投資などに限られてきています。
(2)人間のトレーダーが不要となる(運用コストが下がる)
AIによるトレードが拡大することで、トレーダーは次々にAIに置き換えられています。
たとえばゴールドマン・サックスでは、2000年に約600人いたトレーダーが、2017年1月時点では2人にまで削減され、通常のトレードはAIと200人のITエンジニアが行っています。
ゴールドマンの全従業員数の3分の1にあたる、約9,000人がITエンジニアとなっており、もはやIT企業のようです。
ゴールドマンをはじめとする、トップクラスの投資銀行や運用会社のトレーダーの年俸は、平均で50万ドルとも言われ、AIに置き換わることで大きなコスト削減となります。
コストが下がれば手数料の引き下げなど投資家にとってもメリットが期待でき、人間と同等あるいはそれ以上の運用成果を上げてくれるのであれば、文句はありません。
3、クオンツ・ファンドのデメリット
(1)前例のない突発的な動きへの対応
クオンツ運用では、過去のデータに基づいて最適な判断を導き出すため、これまでに前例のない突発的な動きや市場環境が変化すると、判断を誤りやすくなる点が弱みと言えます。
それは人間でも同じことですが、株価の急落や突発的なニュースなどに対し、プログラム(アルゴリズム)が連鎖的に反応し、売りが売りを呼んで株価を瞬時に急落させる、フラッシュクラッシュの要因ともなっています。
2010年5月6日に米国市場で起きたフラッシュクラッシュでは、数分間のうちにNYダウ平均が1000ドル近く下落する事態となりました。
現在では値幅制限の導入などの対策は講じられていますが、2018年2月の「VIXショック」をはじめ、突発的な変化が瞬時に相場を動かすことが増え、ボラティリティの上昇につながっているように感じます。
(2)ボラティリティの高い相場に弱い
ボラティリティの低いパターン通りの相場では、圧倒的な強さをみせるクオンツ・ファンドですが、最近のボラティリティの高い相場で運用は苦戦しており、想定外の動きをみせる相場に対する弱さを露呈した形となっています。
4、代表的なクオンツ・ファンド
(1)Renaissance Technologies(ルネサンス)
ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学で数学教授を歴任し、大数学者でもあるジェームズ・シモンズ氏が1988年に設立した、アメリカの老舗クオンツ・ファンドです。
2008年には年率80%(手数料控除後)のリターンを記録しています。
(2)Two Sigma Investments(ツーシグマ)
デービッド・シーゲル氏とジョン・オーバーデック氏が2001年に設立。AIによる投資マネジメントを行うアメリカのクオンツ・ファンドです。
機械学習などを用い、さまざまな手法で値動きの兆候を読み取ることで、売買における最終的な意思決定をもAIに任せていると言われます。
(3)Aidyia(アイデア)
香港に拠点を置き、米国株を取引するヘッジファンドです。
AIの世界的権威であり、米オープンコグ(=人工知能のオープンソースフレームワークを構築するプロジェクト)の会長を務める、ベン・ゲーツェル氏が中心となり、人間が全く介入せずAIがすべての取引を行うファンドを2016年に立ち上げています。
(4)Rebellion Research(リベリオン・リサーチ)
2000年に設立され、2007年にスペンサー・グリーンバーグ氏がリベリオンのAIシステム「スター」を開発し、クオンツ・ファンドとしてのスタートを切りました。
ファンドは小規模ながら、数学とコンピュータのプロフェッショナルで運営され、リーマン・ショック直後の2009年にも年41%リターンを記録しています。
短期投資に強みを持つクオンツ・ファンドが多い中で、ベイジアンネットワーク方式を活用してトレンドを予測する長期投資が試みられているのが特徴です。
5、クオンツ・ファンドの今後のゆくえは?
ヘッジファンド業界では、苦戦する従来型のヘッジファンドに代わり、人間の勘や経験によらない数理・統計的なアプローチにより、高いパフォーマンスを上げるクオンツ・ファンドが台頭しています。
技術の進歩により、AIやAIを活用したクオンツ・ファンドは、今後ますます株式市場における存在感を増していくことでしょう。
完全にAI化されたファンドも登場し、従来型のヘッジファンドにおいても投資判断にAIを活用する動きが広がるなど、ファンドマネージャーはその地位を奪われつつあります。
ただ相場(特に個別株や流動性の低い市場)には、投資家の心理や駆け引きが大きく影響し、いくらAIが進化しても100%の予測はできません。
また優れたアルゴリズムが開発されても、いずれ他の投資家に真似されて利益が出にくくなるという、イタチごっこになる可能性も十分にあります。
そのような中ではクオンツ・ファンドも淘汰されていくことになります。
ファンドマネージャー、クオンツ・ファンドのいずれにせよ、相場で生き残り高いパフォーマンスを上げるためには、他の投資家とは違ったアプローチで利益を生み出すことができるかがポイントと言えます。
クオンツ・ファンドAidyiaを率いるゲーツェル氏は、広範囲にわたるテクノロジーを取り入れ、他の会社に真似されれば違う種類の機械学習を採用することで、他の投資家とは違ったアプローチで利益を生み出すことを目指しています。
またファンドマネージャーについては、AIの得意とする分野で正面から戦うのではなく、投資先に対してアクティビスト(物言う投資家)として働きかけ、自ら企業価値(株価)を向上させるといった、AIには真似できないアプローチを取れるかが、生き残りの鍵と言えるでしょう。
まとめ
これからの投資にAIは欠かせないものになってきました。
クオンツ・ファンドのメリット・デメリットを理解しておくと、さらに幅広い投資先を見つけることができるかもしれません。
日々変化する投資環境に遅れないよう勉強していきましょう。