重要なのは、印刷・コーティング業界の「PBR1倍割れ」が単なる株価の安さではなく、事業価値と市場評価のズレを示している点です。
本記事は、包装資材や機能性フィルムへの事業シフトと、財務指標を使った評価軸を通じて、ROE×PBRで割安を検証する具体的な方法をわかりやすく解説します。
- ROEとPBRの関係性の評価方法
- 包装資材・機能性フィルムの需要動向
- 中本パックスを含む代表銘柄の財務比較
- 分散投資と具体的なリスク管理ルール
PBR1倍割れが示す印刷・コーティング業界の現在地
PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れるという現象は、単に株価が安いことを意味するだけではありません。
印刷・コーティング業界においては、企業の純資産価値よりも低い株価で取引されている状態が、事業構造の変化と市場評価の間に生じたズレを映し出しています。
このズレを正しく理解することが、投資機会を見極める上で重要です。
以下では、業界が直面する構造変化と、それが株価評価にどう影響しているのかを解説します。
成長と市場評価のズレから生まれる「割安感」
「割安感」とは、企業の実質的な価値と市場が付ける株価の間に生じるギャップを指します。
印刷業界の特定分野では、利益を出し続けて自己資本が厚くなっているにもかかわらず、株価がそれに伴って上昇しないケースが見受けられます。
例えば、ある企業の純利益が過去数年で2倍以上に成長し、株主資本も1.8倍に増加した一方、時価総額の伸びは1.3倍に留まる、といった業績の成長に市場評価が追いつかない現象が起こるのです。
このズレは、市場がその企業の将来性を見過ごしているか、あるいは成熟産業というイメージから過小評価している場合に発生します。
このギャップが将来的に解消される(リレーティング)可能性を秘めている点が、割安株投資の魅力の一つと言えます。
紙から包装・高機能性フィルムへの事業構造シフト
かつての印刷業界は紙媒体が中心でしたが、現在はその構造が大きく変化しています。
多くの企業が、商業印刷から食品包装や工業用の高機能性フィルムへと収益の柱を移しているのです。
中食や個食化といったライフスタイルの変化を背景に、食品包装資材の需要は底堅く推移しています。
さらに、スマートフォンや電気自動車に不可欠な光学フィルムや粘着フィルムなど、付加価値の高い機能性フィルムの分野は今後も成長が見込まれます。
このような事業ポートフォリオの転換は、企業の収益基盤を安定させ、新たな成長ドライバーとなります。
しかし、この変化が投資家に十分に認知されていない場合、企業価値が株価に正しく反映されない状況が生まれるのです。
ROEとPBRの関係性で企業価値を可視化する視点
企業の価値を測る上で、ROEとPBRの関係性を理解することは欠かせません。
ROE(自己資本利益率)は資本をどれだけ効率的に使って利益を生み出したかを示す指標であり、PBR(株価純資産倍率)は株価が解散価値である純資産の何倍かを示す指標です。
一般的に、ROEが高い企業は資本効率が良く、市場からの成長期待も高まるためPBRも高くなる傾向にあります。
資本コストとされる8%を上回るROEを維持している企業であれば、PBRは1倍を超えるのが自然な状態です。
しかし、印刷・コーティング業界の一部の企業では、ROEが高いにもかかわらずPBRが1倍割れに近い水準で推移するという矛盾した現象が見られます。
このROEとPBRの乖離こそが、企業の「割安感」を分析するための重要な手がかりとなります。
なぜ資本効率が良いのに市場から評価されないのか、その理由を探ることが、投資判断の精度を高める鍵を握っています。
分散投資とリスク管理の重要性
割安に見える銘柄には、必ず何らかのリスクが存在します。
そのため、特定の銘柄に投資を集中させるのではなく、複数の銘柄や資産に分けて投資する「分散」が不可欠です。
印刷・コーティング業界は、景気の動向に業績が左右されやすい特徴を持ちます。
特に、原材料である樹脂フィルムやインキの価格高騰は、企業の利益率を直接圧迫する大きなリスク要因です。
また、主要な取引先への依存度が高い場合、その取引先の業績不振が自社の経営に直結する可能性もあります。
PBRの低さといった指標だけで安易に投資を決定するのは危険です。
こうしたリスク要因を十分に理解した上で、万が一の価格下落にも耐えられるよう、分散投資を徹底することが、長期的に安定した成果を目指す上で極めて大切になります。
印刷から包装・機能性フィルムへ、業界を支える需要の変化
印刷業界と聞くと、多くの人が出版物やチラシといった紙媒体を想像するかもしれません。
しかし、現在の業界を支えているのは、食品包装や電子部品といった、私たちの生活や最先端技術に欠かせない分野です。
特に事業構造そのものが紙からフィルムへと大きく変化している点は、業界の将来性を考える上で最も重要なポイントです。
この需要の変化を理解することが、企業価値を正しく評価する第一歩となります。
中食・個食化ニーズと食品包装資材の底堅さ
中食とは、惣菜や弁当のように調理済みの食品を購入して家庭で食べる食事スタイルを指します。
共働き世帯の増加や単身世帯の拡大を背景に、こうした手軽に食事を済ませたいというニーズは年々高まっています。
スーパーマーケットやコンビニエンスストアの店頭に並ぶ多彩な食品は、その鮮度や品質を保つために高度な包装資材を必要とします。
この社会構造の変化に伴う底堅い需要が、印刷・コーティング業界にとって安定した収益基盤となっています。
景気の波に左右されにくい食品分野の需要は、事業の安定性を高める重要な要素です。
光学・電子分野を牽引する高機能フィルムの価値
高機能フィルムとは、特定の機能を持つように設計・加工されたフィルムのことです。
スマートフォンや液晶テレビのディスプレイ、自動車の電子部品、半導体の製造工程など、幅広いハイテク分野で利用されています。
例えば、スマートフォンの画面を鮮明に表示するための偏光板や、リチウムイオン電池の性能を左右する部材など、日本のメーカーが世界トップクラスのシェアを誇る製品は少なくありません。
これらの付加価値が高いフィルムを供給できる技術力こそが、企業の収益性を大きく向上させる源泉です。
最先端技術の進化を支える重要な役割を担っています。
競争力の源泉となるコーティングとラミネート技術
コーティングは材料の表面に機能的な薄膜を形成する技術、ラミネートは性質の異なる複数のフィルムを精密に貼り合わせる技術を指します。
これらは包装資材や高機能フィルムに、様々な性能を付与するための基盤技術です。
食品の長期保存を可能にするガスバリア性、電子部品を保護する絶縁性、あるいは医療用途で求められる衛生性など、顧客の要求は多岐にわたります。
長年の研究開発で培われたノウハウに基づき、0.001ミリ単位の精度でこれらの要求に応える技術力が、他社には真似のできない参入障壁を築きます。
この技術的な深みが、企業の持続的な競争力を支えるのです。
利益変動要因としての原材料価格と為替の動向
企業の収益は、製品の需要だけでなく、製造コストによっても大きく変動します。
特に包装資材や機能性フィルムの主原料であるポリエチレンやポリプロピレンといった樹脂は、原油価格の動向に直接影響を受けるため、原材料価格の変動が利益を圧迫するリスクを常に抱えています。
2021年以降の原油価格上昇局面では、多くの企業がコスト増に直面しました。
こうした外部環境の変化に対して、製品価格への転嫁交渉を進められるかが収益確保の鍵となります。
また、海外との取引が多い企業にとっては、為替の変動も無視できない要素であり、これらの外部要因を注視することが必要です。
環境対応がもたらす製品ポートフォリオの再編
近年、世界中で高まるESG(環境・社会・ガバナンス)への意識は、印刷・コーティング業界にも大きな変革を求めています。
特に脱炭素やプラスチックごみ問題への対応は、企業の製品開発戦略そのものに影響を与えています。
リサイクルしやすい単一素材(モノマテリアル)の包装材や、植物由来のバイオマスプラスチックを使用したフィルム、プラスチックから紙への素材転換など、環境負荷を低減する製品への需要が急速に拡大しています。
環境性能という新たな価値軸で製品開発を進められる企業が、今後の市場で優位に立つことができます。
この動きは、企業の製品構成を再編し、新たな成長機会を生み出す大きな原動力となるのです。
割安感の正体、PBRとROEで読み解く企業価値
企業の株価が割安かどうかを判断する上で、PBRとROEという2つの財務指標の関係性を理解することが不可欠です。
これらは企業の価値を異なる側面から照らし出す鏡のような役割を果たします。
PBRは企業の純資産に対して株価がどの程度の水準にあるかを示し、ROEは企業が自己資本をいかに効率的に使って利益を生み出しているかを示します。
この2つの指標は本来、連動する傾向にあります。
しかし、印刷・コーティング業界の一部の企業のように、両者の関係性にズレが生じることがあります。
そのズレこそが「割安感」の源泉であり、投資機会を探る上で重要な手がかりとなるのです。
株価と純資産の関係を示すPBR(株価純資産倍率)
PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)とは、現在の株価が企業の1株あたり純資産の何倍かを示す指標であり、企業の解散価値に対する株価の割安度を測る目安となります。
計算式は「PBR = 株価 ÷ 1株あたり純資産」で表されます。
PBRが1倍であれば、株価と企業の純資産価値が等しい状態です。
もしPBRが1倍を割り込んでいる場合、市場はその企業の純資産以下の価値しか評価していないことを意味します。
そのため、PBR1倍割れは一般的に割安さを示すシグナルの一つと見なされます。
ただし、PBRが低いというだけで投資判断を下すのは早計です。
その企業がどれだけ効率良く利益を生み出しているかを示すROEと合わせて分析することが、企業価値を正しく評価する上で重要になります。
資本効率を示すROE(自己資本利益率)
ROE(Return On Equity:自己資本利益率)とは、株主が出資したお金(自己資本)を使って、企業がどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す指標です。
投資家が投じた資本に対して、企業がどれだけのリターンを生み出せるのかを測るための重要な尺度となります。
例えば、自己資本が100億円の企業Aが年間10億円の純利益を上げた場合、ROEは10%です。
一方で、同じ10億円の利益でも自己資本が200億円の企業BのROEは5%となります。
一般的に、日本の上場企業ではROEが8%を超えると、資本効率の良い優良企業の一つの目安とされています。
ROEが高い企業は、株主の資本を有効活用して成長する力があることを示しており、市場からも高く評価される傾向にあります。
本来連動するROEとPBR、その関係性の基本
ROEとPBRには理論的な相関関係があり、ROEが高い企業ほど、市場からの成長期待を反映してPBRも高くなるのが一般的です。
資本効率よく利益を生み出す企業は、将来も成長し続けると期待され、純資産以上の価値(プレミアム)で株価が評価されやすくなります。
この関係は「PBR ≒ ROE × PER」という式で近似的に説明できます。
株主が企業に期待するリターン(株主資本コスト)をROEが上回っている限り、企業は利益を事業に再投資することで1株あたりの価値を高め、結果としてPBRを押し上げる力学が働きます。
この連動性の基本を理解することで、ROEが高いにもかかわらずPBRが低いといった、指標間にギャップが生じている企業を発見し、その背景を分析する視点を持つことができます。
なぜROEが高くてもPBRが低いままなのか
理論的には連動するROEとPBRですが、市場がその企業の将来性に対して懐疑的である場合、高いROEを達成していてもPBRが低いまま放置されることがあります。
これは、現在の収益力は認めるものの、その持続性や将来の成長に疑問符が付いている状態です。
具体的な要因としては、主力事業が成熟産業で今後の利益成長率が鈍化すると見られていたり、企業のIR活動が不十分で事業内容や成長戦略が投資家に正しく伝わっていなかったりするケースが考えられます。
財務諸表の数字だけでは読み取れない、定性的な要因が株価の重しとなっているのです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 成長性への懸念 | 主力事業の市場が成熟・縮小傾向にある |
| 事業の分かりにくさ | 複数の事業を展開し、収益構造が複雑で評価しにくい |
| 株主還元の期待値 | 利益を溜め込む一方で、配当や自社株買いに消極的と見られている |
| 流動性の低さ | 発行済株式数が少なく売買が活発でないため、機関投資家が参入しにくい |
| 説明不足 | IR活動が不十分で、自社の強みや成長戦略が市場に浸透していない |
このように、PBRが低い背景には複数の要因が複雑に絡み合っていることが多く、その理由を解明することが割安株投資の鍵となります。
業績と株主資本の成長に市場評価が追いつかない現象
企業が着実に利益を積み上げ、それによって株主資本が増加しているにもかかわらず、株価の上昇がそのペースに追いつかず、結果としてPBRが低下していく現象が見られます。
これは、企業価値の成長スピードに市場の評価が追随できていない状態を示しています。
例えば、ある企業が過去8年間で純利益を2.4倍、株主資本を1.8倍に成長させたとします。
しかし、同期間の時価総額(株価)の伸びが1.3倍に留まっていれば、企業のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の向上に対して、市場の評価が明らかに遅れていると言えます。
このギャップこそが「割安感」の正体です。
将来的に、市場がその企業の真の価値を再評価する「リレーティング」が起これば、PBRは適正な水準まで回復し、株価の上昇につながる可能性があります。
ケーススタディ、中本パックスの割安仮説を数字で再現
ここでは、具体的な企業として食品包装資材メーカーの中本パックス(証券コード:7811)を取り上げます。
同社の財務数値の推移を追いかけることで、企業の成長と市場評価の間に生じるズレ、すなわち「割安感」がどのように生まれるのかを体感的に理解することが重要です。
実際の数字を用いて、なぜPBRが低下したのか、そして将来的に株価が見直される可能性について、順を追って見ていきましょう。
この一連の分析を通じて、表面的な指標だけでは見えない企業価値の変化を読み解く視点を養います。
中本パックスの事業概要と成長の軌跡
中本パックスは、主に食品向けの包装資材(パッケージ)を製造・販売している企業です。
コンビニエンスストアで目にするお弁当の容器や、お惣菜のフィルム、レトルト食品のパウチなどが主力製品にあたります。
同社は紙の印刷から事業を開始しましたが、時代のニーズに合わせてプラスチックフィルムへの印刷や加工(ラミネート)へと事業を転換し、成長を続けてきました。
特に、中食・個食化といった社会の変化を捉え、顧客である食品メーカーと一体となった製品開発力を強みとしています。
このように、社会の需要変化に柔軟に対応し、事業構造を変化させてきたことが、同社の持続的な成長の土台となっているのです。
純利益・株主資本・時価総額の推移で見る成長性
企業の成長性を測る上で重要なのが、利益を稼ぐ力(純利益)と、その利益を蓄積した結果である株主資本の増加です。
中本パックスの過去8年間の実績を例として見ると、純利益は約2.4倍に、株主資本も約1.8倍に着実に増加しました。
これは、同社が安定して利益を出し、それを内部に留保することで財務基盤を厚くしてきた証拠です。
一方で、株価を反映する時価総額の伸びは同期間で約1.3倍に留まっています。
| 項目 | 過去8年間の伸び率(例) |
|---|---|
| 純利益 | 約2.4倍 |
| 株主資本 | 約1.8倍 |
| 時価総額 | 約1.3倍 |
このように、利益や資本の成長ペースに対して株価の成長が追いついていない状況が、次のテーマである「割安感」の源泉となります。
PBR低下に見る「割安感」の言語化
ここで注目したいのが、株価が企業の純資産に対して割安か割高かを示すPBR(株価純資産倍率)の動きです。
PBRは「時価総額 ÷ 株主資本」で計算されます。
前述の通り、中本パックスの例では、分母である株主資本(約1.8倍)の方が、分子である時価総額(約1.3倍)よりも大きなペースで増加しました。
その結果、計算されるPBRは、例えば1.3倍から0.9倍へと低下することになります。
これが、「企業の業績や資産は着実に積み上がっているのに、市場からの評価(株価)がそれに追いついていない」という状態であり、多くの投資家が感じる「割安感」の正体です。
代表銘柄の比較で見る各社の割安感とその理由
各社の株価が割安かどうかを判断するためには、単一の指標で見るのではなく、複数の評価軸を用いて各社を横並びで比較することが重要になります。
同じ印刷・コーティング業界に属していても、事業の柱や収益構造、成長戦略は大きく異なります。
その違いを理解することが、割安感の背景にある理由を探る第一歩となるのです。
ここでは、代表的な企業としてTOPPANホールディングス、大日本印刷、共同印刷、そしてこれまでのケーススタディで取り上げた中本パックスを比較してみましょう。
※数値は、2月10日時点。
| 企業名 | 事業の主戦場 | PBR | ROE | PER | 配当利回り |
|---|---|---|---|---|---|
| TOPPANホールディングス(7911) | 包装、建装材、半導体関連など多角化 | 1.11倍 | 6.59% | 20.46倍 | 1.12% |
| 大日本印刷(7912) | ディスプレイ部材、電池部材、出版 | 1.24倍 | 9.62% | 15.74倍 | 1.26% |
| 共同印刷(7914) | チューブ容器、ICカード、ビジネスフォーム | 0.74倍 | 5.26% | 12.61倍 | 4.41% |
| 中本パックス(7811) | 食品包装資材、クリーン事業 | 0.91倍 | 10.9% | 9.09倍 | 3.31% |
この表を見ると、各社それぞれに特徴があることが分かります。
大手2社はROEが比較的高水準であるにもかかわらずPBRが1倍前後にとどまり、中堅の共同印刷はPBRが低い水準です。
これらの指標の違いが、それぞれの企業が抱える課題や市場からの評価を反映しており、一概に「PBRが低いから割安」と判断できない複雑さを示しています。
比較のための評価軸(PBR・ROE・PER・配当利回り)
企業の価値を多角的に評価するためには、4つの基本的な財務指標を理解することが不可欠です。
- PBR(株価純資産倍率): 株価が企業の純資産(解散価値)の何倍かを示す指標です。1倍を下回ると、株価が解散価値よりも安い状態と見なされます。
- ROE(自己資本利益率): 企業が自己資本をどれだけ効率的に使って利益を生み出しているかを示す指標です。一般的に、8%以上が優良企業の目安とされています。
- PER(株価収益率): 株価が1株あたりの純利益の何倍かを示す指標で、企業の収益力に対して株価が割安か割高かを判断します。数値が低いほど割安とされます。
- 配当利回り: 株価に対して1年間でどれだけの配当を受け取れるかを示す割合です。株主還元の姿勢を測る指標となります。
これらの指標を単体で見るのではなく、PBRとROEの関係性、PERと利益成長率のバランスなどを組み合わせて分析することで、表面的な数字の裏にある企業の実態が見えてきます。
TOPPANホールディングスの多角化戦略と財務状況
TOPPANホールディングスは、従来の印刷事業から大きく舵を切り、「デジタル&サステナブル・トランスフォーメーション」を推進する企業へと変貌を遂げています。
その事業領域は、食品パッケージや建装材といった生活・産業分野から、半導体の製造に不可欠なフォトマスクなどのエレクトロニクス分野まで多岐にわたります。
特にエレクトロニクス事業では、最先端の半導体フォトマスクで世界トップクラスのシェアを誇り、高い収益源となっています。
このような多角化戦略によって、特定の市場の変動に左右されにくい安定した収益基盤を構築しているのが強みです。
しかし、企業規模が巨大であるため、一部の成長事業だけでは会社全体の成長率を大きく押し上げるのが難しく、市場からは巨大で安定しているが故に成長性が評価されにくい側面があり、結果としてPBRは1倍を割り込む水準で推移しています。
大日本印刷の高機能材・電子材料事業の強み
大日本印刷(DNP)もTOPPANホールディングスと並ぶ業界の代表格ですが、その強みはディスプレイ関連部材やリチウムイオン電池用部材などの高機能材料分野にあります。
長年培ってきた印刷技術を応用した微細加工技術やコーティング技術が、これらの先端分野で競争力の源泉となっているのです。
例えば、テレビやスマートフォンの液晶ディスプレイに使われる光学フィルムや、電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオン電池の外装材であるバッテリーパウチでは、世界でも有数のシェアを獲得しています。
高い技術力に裏打ちされた事業は高い利益率を確保していますが、その一方で出版関連などの成熟事業も抱えているため、企業全体の成長イメージが描きにくく、株価の評価が伸び悩む一因となっています。
共同印刷など中堅企業の事業ポートフォリオ
大手2社とは異なり、共同印刷は特定のニッチ市場で高い競争力を持つ中堅企業です。
特に、歯磨き粉や化粧品に使われるラミネートチューブの分野では国内トップシェアを誇り、安定した収益基盤を築いています。
他にもICカードやビジネスフォーム(帳票)など、特定の顧客や用途に向けた製品を数多く手掛けています。
このように特定の分野に経営資源を集中させる戦略は、安定した収益をもたらす一方で、事業ポートフォリオが特定の市場動向に依存しやすいという側面も持ち合わせています。
「割安放置」の背景にある事業の分かりにくさと成熟産業イメージ
ここまで見てきた企業はそれぞれ独自の強みを持っていますが、株価が割安な水準で放置される根本的な理由は、多くの投資家にとって事業内容が「分かりにくい」ことにあります。
社名に「印刷」という言葉が入っているため、どうしても紙媒体の縮小という斜陽産業のイメージが先行してしまうのです。
実際には、各社とも事業の主戦場を包装資材や高機能フィルム、電子部材へとシフトさせ、高い収益を上げています。
しかし、その事業ポートフォリオの変革が、株式市場にいる多くの参加者に十分に伝わっていないのが現状です。
「成熟産業」という先入観と、多角化によって複雑化した事業内容がもたらす説明の難しさが、優れた業績を上げていても市場の評価が追いつかない「割安放置」という現象を生み出す構造的な原因となっています。
投資判断に必須の分散投資とリスク管理の考え方
PBRが低いという理由だけで投資するのは危険です。
企業の価値が見直されるのを待つ間には、さまざまなリスクが顕在化します。
そのため、想定外の事態にも対応できる分散投資とリスク管理の仕組みをあらかじめ作っておくことが、資産を守る上で何よりも重要になります。
ここでは、具体的な分散の方法と、投資前に確認すべきリスク要因、そして自分だけの投資ルールを作るための考え方を解説します。
銘柄分散・資産分散・時間分散によるリスク低減
分散投資とは、投資対象を一つに集中させず、複数の異なる対象に分けて投資することで、特定の値動きによる影響を和らげる手法です。
大きく分けて3つの方法があります。
例えば、印刷・コーティング業界内でも、TOPPANホールディングスのような大型安定株と、中本パックスのような中小型成長株を組み合わせることで、異なる値動きの特性を活かしたポートフォリオを構築できます。
| 分散の種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 銘柄分散 | 複数の企業や事業領域に分けて投資 | 大手(TOPPAN)と中堅(共同印刷)、食品包装向けと工業材向けの企業を組み合わせる |
| 資産分散 | 株式だけでなく現金や債券など異なる資産クラスに投資 | 投資資金のうち日本株は50%までとし、残りは現金で保有 |
| 時間分散 | 一度に全額を投資せず、複数回に分けて購入 | 毎月5万円ずつ積立投資する、株価が10%下落するごとに買い増す |
これらの分散を組み合わせることで、特定の銘柄や市場全体の急落に対する耐性を高め、精神的な余裕を持って投資を続けることが可能になります。
投資前に確認すべきリスク要因のチェックリスト
リスク要因のチェックリストとは、投資判断を下す前に、その企業の弱点や事業を取り巻く脅威を体系的に確認するための道具です。
特に印刷・コーティング業界では、売上の約70%を原材料費が占めることもあるため、原材料価格の動向は利益に直接的な影響を与えます。
| 確認項目 | チェック内容 |
|---|---|
| 原材料・エネルギー | 樹脂フィルムやインキ、電力価格の動向と価格転嫁の進捗 |
| 顧客・需要 | 特定の顧客への売上集中度、景気後退時の工業材需要の落ち込み |
| 設備・生産 | 設備稼働率の推移、大規模な設備投資計画の採算性 |
| M&A(合併・買収) | 買収による「のれん」の規模、統合後のシナジー効果の発現状況 |
| 財務 | 営業キャッシュフローの安定性、借入金の水準 |
このチェックリストを使って投資候補の企業を評価することで、見落としがちなリスクに気づき、より客観的な判断ができるようになります。
原材料高や景気後退局面への備え
原材料高とは、製品を作るために必要な素材の価格が上昇し、企業の利益を圧迫する状況を指します。
印刷・コーティング業界は、原油価格に連動する樹脂フィルムなどを多用するため、この影響を受けやすい体質です。
例えば、原油価格が10ドル上昇すると、包装資材メーカーの営業利益が数億円単位で変動するケースもあります。
このような状況に備えるには、企業の価格転嫁力を見極めることが重要です。
景気後退局面では、広告宣伝費の削減により商業印刷の需要が落ち込むほか、自動車や電子部品向けの機能性フィルムの受注も減少します。
一方で、食品包装のような生活必需品関連の需要は比較的底堅いため、どの事業セグメントに強みを持つ企業なのかを分析することが、下落局面に強い銘柄を選ぶ上で役立ちます。
過去の決算説明資料などを確認し、原材料高の局面で製品価格への転嫁ができていたか、景気後退期でも安定した利益を出せていたセグメントは何か、を分析することで企業の本当の体力がわかります。
PBRだけで判断しないための投資ルール設定例
投資ルールとは、感情的な判断を排し、一貫した行動をとるためにあらかじめ自分で定めておく「売買の基準」です。
特に「PBRが1倍を割れているから割安だ」といった単純な判断は失敗のもとになります。
投資ルールには、例えば「PBRが0.8倍以下」という条件に加えて、「ROEが8%以上で、かつ3期連続で増収増益」といった複数の条件を組み合わせることで、判断の精度を高めることが可能です。
| ルール種別 | 設定例 |
|---|---|
| 購入の基準 | PBR0.8倍以下、ROE8%以上、営業キャッシュフローが3期連続黒字 |
| 買い増しの基準 | 購入時の株価から20%下落し、かつ購入基準を引き続き満たしている場合 |
| 売却(利益確定)の基準 | 株価が購入時の2倍に達した場合、またはPBRが1.5倍を超えた場合 |
| 売却(損切り)の基準 | 購入時の投資仮説が崩れた場合(例: 赤字転落、ROEが5%を下回る) |
このように具体的な数値を設定し、文章として書き出しておくことで、市場の雰囲気に流されることなく、冷静で論理的な投資判断を実行できます。
まとめ
本記事では、印刷・コーティング業界の割安性を財務指標で検証し、印刷業界 割安株を探る観点から、特にPBR1倍割れは事業価値と市場評価のズレを示す重要なサインです。
- ROEとPBRの乖離観察
- 包装資材・機能性フィルムの需要動向
- 中本パックス等の財務比較
- 分散投資とリスク管理ルール
まずは最新の決算短信でROE、BPS、営業キャッシュフローを確認し、PBRが示すズレに対する自分なりの買い基準と損切りルールを文章化してください。