重要なのは、AIデータセンターの内部通信が「銅の壁」で制約されており、光技術への転換が不可避であることです。
本記事では、業界で指摘される「銅の壁」とも言える物理的な限界の技術的背景と、NVIDIA・NTTが光インターコネクトを前提に戦略を描き始めている意味合い、NTT・住友電工・浜松ホトニクス・Santecといった日本の注目銘柄を見る際の着眼点、そしてテーマ投資に伴うリスクと実践的な分散戦略かみ砕きながら解説します。
「構造を理解して、ポートフォリオ全体の中で無理のない比率で組み入れることが最重要です」
- 銅の壁の技術的背景
- 光インターコネクトと主要企業の戦略
- 注目日本企業の個別チェックポイント
- ポートフォリオでの分散とリスク管理
銅の壁の技術的背景
AIブームの次に来る「光」テーマが注目される理由
AIの進化が加速する現代において、その頭脳であるデータセンターの性能向上が急務となっています。
中でも最も重要な課題がサーバー間の通信速度であり、ここで「銅の壁」と呼ばれる物理的な限界が顕在化しつつあります。
この技術的な壁を乗り越える鍵として「光」技術に注目が集まっており、その背景には、
- 爆発的に増加するAIデータセンターの通信量という需要側面
- 高速化と省電力を両立できなくなりつつある銅配線(電気信号)の物理的限界という供給・技術側面
の2つの大きな要因があります。
これらの課題を解決する技術こそが、今後のAIインフラ、ひいては株式市場の成長テーマを読み解く上で欠かせない視点となります。
爆発的に増加するAIデータセンターの通信量
AIデータセンターの通信量増加で特に問題となるのが、データセンター内部、すなわちサーバーやラック間を行き来する「東西トラフィック(East-West Traffic)」と呼ばれるデータの流れです。
これは、ユーザーとの通信(North-South)よりも桁違いに大きくなりがちです。
たとえば、NVIDIAの最新GPUを数万基も連携させて大規模言語モデル(LLM)を学習させる場合、GPU同士が常に膨大な情報を交換し続ける必要があります。
その結果、
- データセンター全体のトラフィックが年率20%以上のペースで増加
- 特にAIサーバー群が生成する内部トラフィックが既存インフラに巨大な負荷
といった構造が生まれています。
| AIの進化がもたらす影響 | 具体的な内容 |
|---|---|
| モデルの大規模化 | 学習・推論に必要なパラメータ数が飛躍的に増大 |
| GPUクラスタの巨大化 | 数千〜数万基のGPUが1つのシステムとして稼働 |
| 通信帯域への要求 | GPU間通信がボトルネックとなり性能を左右 |
| トラフィックの性質 | データセンター内部の東西トラフィックが支配的 |
この凄まじいデータ量を遅延なく処理するためには、通信インフラの根本的な見直しが不可欠であり、それが従来の銅配線の限界を浮き彫りにしています。
限界が訪れる銅配線の技術的課題「銅の壁」の顕在化
ここで言う「銅の壁」とは、銅線を使った電気通信において、
- 速度を上げるほど伝送できる距離が極端に短くなる
- その距離を伸ばそうとすると消費電力とコストが急増する
- 信号品質の劣化が激しくなり、補償回路が必須になる
といった物理的な限界が前面に出てくる状態を、比喩的に表現したものです。
現在のデータセンターで主流になりつつある800Gbps(ギガビット毎秒)クラスでは、パッシブな銅ダイレクトアタッチケーブル(DAC)で安定して通信できる実用距離は、おおむね1〜2メートル程度が目安とされます。
それ以上の距離では、
- リタイマIC(信号の再生成用チップ)
- アクティブケーブル(AEC)
といった「電気的な補助」が必要となり、その分だけ
- 消費電力の増加
- 機器コストの上昇
- 熱設計(冷却コスト)の悪化
が避けられません。
| 課題の側面 | 銅配線(電気)の限界 |
|---|---|
| 伝送距離 | 高速化するほど信号減衰が激しく、パッシブDACは1〜2m程度が実用上の上限 |
| 消費電力 | リタイマICやアクティブケーブルが必須になり、システム電力が増大 |
| 信号品質 | ノイズの影響を受けやすく、エラー補償が不可欠 |
| 将来性 | 次世代1.6Tクラスでは「中距離以上」での銅の適用が急速に難しくなる |
サーバーラックが高密度に設置されるデータセンターでは、太くて硬い銅ケーブルによって
- 配線の取り回しが悪化
- 気流が阻害され冷却効率が低下
することも無視できない問題です。
性能向上と省電力化を両立させるためには、「どこまでを電気で引き受け、どこからを光に任せるか」という発想への転換が不可欠になりつつあります。
次世代規格1.6Tイーサネットで光が前提となる技術的背景
1.6Tイーサネットとは、1秒間に1.6テラビット(1600ギガビット)ものデータを伝送する次世代の超高速通信規格です。
これは現在普及が進む400Gの4倍、最新鋭の800Gの2倍に相当する速度であり、AIモデルの巨大化に対応するために不可欠とされています。
このレベルの帯域になると、
- ラック間やスイッチ間といった「数メートル〜十数メートル」級の配線は、実質的に光インターコネクトが前提
- 一方で、基板上やパッケージ内の数十センチ以下の超短距離では、依然として電気配線が残る可能性もある
というのが、現時点での業界コンセンサスに近いイメージです。
標準化を進めるIEEE 802.3djの議論でも、
- 200G/laneクラスの超高速信号を光モジュール前提で扱う
- ラック間は光ファイバーで接続し、銅は超短距離に限定
といった方向性が示されています。
つまり、
「1.6Tの世界では、“中距離以上”の接続は光が主役にならざるを得ない」
という構造がほぼ固まりつつある、ということです。
この「銅の壁」を乗り越え、AIデータセンターの進化を支える現実的な解決策として、
光ファイバーを用いた光インターコネクトへの移行が、不可逆的なトレンドになりつつあると考えられます。
光インターコネクトと主要企業の戦略
世界の巨大IT企業が進める「光シフト」という構造変化
「銅の壁」という物理的な制約を乗り越えるため、世界のITインフラを主導する企業は、通信の主役を電気から光へと転換させる「光シフト」を加速させています。
この動きは、AIデータセンターの性能を追求する半導体メーカーのNVIDIAと、次世代通信インフラ構想「IOWN」で世界をリードしようとするNTT、2つの巨人の戦略に象徴的に表れています。
| 項目 | NVIDIA | NTT |
|---|---|---|
| 戦略の焦点 | データセンター内部の超高速接続 | 社会インフラ全体の光ベース化 |
| キーテクノロジー | 光インターコネクト、CPOなど | IOWN構想、光電融合デバイス |
| 目指すゴール | GPU性能を最大化するAIインフラ | 大容量・低遅延・低消費電力な通信基盤 |
これらの企業の動きは、単なる世代交代的な技術更新ではなく、
「AI時代の土木工事」としてのインフラを根本から作り替える長期テーマだと言えます。
NVIDIAが描く光インターコネクト前提のデータセンター戦略
「光インターコネクト」とは、半導体チップ間やサーバー間など、これまで電気配線(銅)が担ってきた比較的短距離の接続を、光ファイバーに置き換える技術を指します。
AI向け半導体で市場を席巻するNVIDIAは、この光インターコネクトを
「GPUの計算性能をフルに引き出すためのボトルネック解消技術」
として極めて重視しています。
- 数百〜数千のGPUをつなぐNVLink/NVSwitchの帯域確保
- スイッチ〜サーバー間の光トランシーバーの高速化
- 半導体パッケージ近傍に光部品を実装するCPO(Co-Packaged Optics)への投資
など、次世代データセンターのロードマップの中で光が前提になっている部分が明らかに増えているのがポイントです。
「GPU単体の性能」だけではなく、「GPU同士をどうつなぎ、どう冷やし、どう電力を抑えるか」まで含めての総合戦略が、投資テーマとしての重要度を高めています。
NTTが推進するオールフォトニクスネットワーク「IOWN構想」
一方、日本勢の中核がNTTのIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想です。
IOWNは、ネットワークの末端からデータセンター、さらには半導体チップ内部の処理に至るまで、「できる限り光でやり切る」ことを目指す超長期ビジョンで、
- 現行比電力効率100倍
- 伝送容量125倍
- 遅延1/200
という、かなり野心的な目標値を掲げています。
この中核技術が、NTTグループが開発を進める光電融合デバイスであり、
- ルーターやスイッチ内部の処理の一部を光のまま行う
- 電気⇔光変換を極小・低消費電力で実現
といった方向に進んでいます。
NTTへの投資は、
- 通信インフラ企業としての安定性
- IOWNという光テーマのど真ん中を握るポジション
の両方をどう評価するか、という視点が重要になります。
注目日本企業の個別チェックポイント
ここからは、2026年前後を見据えた日本の光関連株として、
- NTT
- 住友電気工業
- 浜松ホトニクス
- Santec
この4社を取り上げ、それぞれの「どこを見るべきか」を整理します。
| 企業名 | 市場ポジション | 主な強み・事業領域 | 投資の着眼点 |
|---|---|---|---|
| NTT | IOWN構想の主導役 | 光電融合デバイス、次世代通信インフラ | IOWNの商用化進捗、成長性とディフェンシブ性のバランス |
| 住友電気工業 | 光ファイバー世界大手 | 光ファイバー、海底ケーブル | 通信インフラ関連売上、世界の設備投資サイクル |
| 浜松ホトニクス | グローバルニッチトップ | 光センサー、レーザーなどフォトニクス部品 | 高い利益率、R&Dパイプライン、用途の広さ |
| Santec | 光部品・モジュールの中堅 | 可変波長レーザー、光測定器など | 技術ニッチの強さ、業績と株価ボラティリティ |
ポートフォリオでの分散とリスク管理
テーマ株としての魅力と落とし穴
光関連株のような「技術テーマ株」は、
- 構造ストーリーは非常に強い
- その分、期待先行でバリュエーションが跳ねやすい
という特徴があります。
注意すべき主なリスクは、
- 技術トレンド(例えばCPO vs プラガブル)の変化
- クラウド事業者の設備投資サイクルの変動
- PER・PBRの過度な割高化
などです。
テーマが盛り上がっている局面ほど、「これは10年持てる値段なのか?」という逆算思考が重要になります。
コア・サテライトを軸にした分散投資の考え方
光関連株をポートフォリオに組み入れるときは、
コア・サテライト戦略で考えるのがおすすめです。
- コア(70〜80%):TOPIXや全世界株式など、広く分散されたインデックス
- サテライト(10〜20%):光関連株・半導体・AI関連など、成長テーマ枠
- 残り(10%前後):現金や短期債券など流動性枠
光関連株は、このサテライト部分の一部として位置づけるイメージです。
「光だけでサテライトを埋める」のではなく、「光・半導体・データセンターREIT・コモディティなど、いくつかに分散する」というのが、長期投資の観点では現実的です。
まとめ
AIデータセンターの内部通信が業界で「銅の壁」とも呼ばれる物理的制約に近づきつつあり、
中距離以上の領域では光インターコネクトへの転換が避けにくくなっている構造を押さえたうえで、光関連株への投資を考えるべきだと考えています。
- 銅配線の技術的な限界と、1.6T世代で「どこから光が前提になるのか」というポイント
- NVIDIAとNTTに象徴される、世界と日本の「光シフト」戦略
- NTT・住友電工・浜松ホトニクス・Santecといった日本企業のポジションと違い
- そして、コア・サテライト戦略を軸にしたテーマ株の“入れすぎを防ぐ”分散投資のやり方
まずは、ご自身のポートフォリオ全体の中で、
「光関連テーマにどのくらい割いて良いか」という上限比率を決めたうえで、インデックスをコアに据えながら、段階的にサテライト枠として光関連株を組み入れていくのが、現実的で無理のないアプローチだと思います。