キャッシュリッチ企業の安定性と成長に投資する方法

株式投資をしていると「キャッシュリッチ」「キャッシュリッチ企業」という言葉を聞くことがあります。

文字通りのイメージからは「お金を多く持っている、またそういった企業のことなのかな」というイメージはできますが、実際にはどういった企業のことをキャッシュリッチ企業と言うのでしょうか?

それにはまず、証券・金融・企業分析用語における「キャッシュ」や「ネットキャッシュ」といった言葉の意味を知っておく必要があるでしょう。

今回は、キャッシュリッチ企業を知るうえで持っておきたい前提知識をチェックしていきます。

その他、実際にキャッシュリッチ企業を探し、投資・企業分析のスキルを上げることを目的としていきます。

「数字が出てきて難しいのでは?」という懸念を持つ方もいるかもしれませんが、しっかりと基礎知識を理解し、ツールなどを利用していけばキャッシュが潤沢な優良企業を探すことはそう難しくありません。

まずは「キャッシュリッチ企業とは何なのか?」ということについて、次の項目からチェックしていきましょう。

1、キャッシュリッチ企業とは?

さて、そもそも「キャッシュリッチ企業」の具体的な定義とは何なのでしょうか?

野村証券の証券用語解説集では

” 企業において、手元資金が有利子負債を上回り、実質的に無借金で、現金や預金など流動性の高い金融資産を多く保有していること。”

引用:野村証券 証券用語解説集

との説明がありますが、「手元資金」「有利子負債」などの言葉の意味についても簡単に確認しておきましょう。

(1)手元資金(手元流動性)

手元資金は企業の短期の支払い資金としての性質が強いキャッシュのことを指します。

「現金および預金」と、素早く換金を行える「有価証券」を足した金額が手元資金になります。

(2)有利子負債

読んで字のごとく、利子つきの負債です。

企業は融資される、もしくは投資されることによって資金調達を行いますが、前者の場合は借りた分の資金はもちろん、それに付随して利子をつけて返済を行わなければならない場合も存在します。

企業がお金を借りて経営・投資などに活かすことは問題ないのですが、有利子負債の割合が増えすぎると財務の安全性が不安視される場合もあります。

(3)キャッシュ(ネットキャッシュ)

ここでは「ネットキャッシュ」のことをキャッシュと定義します。

ネットキャッシュは、ネットキャッシュ=手元資金ー有利子負債という式で表され、ネットキャッシュが多ければ多いほど手元に流動性が高く換金性のある資金が存在する、ということになります。

(4)キャッシュリッチ

キャッシュリッチ企業とは一般的に、ネットキャッシュがプラスである企業のことを指します。

ネットキャッシュがプラスということは実質的に(ネットでは)無借金経営を行っているということになりますので、安全性の高い経営を行っているということになります。

当然のことですが、企業経営において資金を借りて経営を行うよりは、自社が持つキャッシュで経営を行った方が、一般的には財務的に安全性が高いと言えます。

また、企業が保有するキャッシュが多ければ多いほど稼いだ資金が多く、コスト以上にリターンが返ってきているということになります。

ただ、近年では稼いだキャッシュを投資・設備投資等に使わず内部留保をする企業も多く、それが問題視されているというケースも増えています。

余剰資金をいかに使い、業績を伸ばしていくかということがキャッシュリッチ企業における課題の一つだと言えるでしょう。

2、キャッシュリッチ企業に投資するメリット・デメリット

株式投資において大事なことの一つは、「企業がどういう考えでお金を投資し、経営を行っているのか」ということです。

キャッシュリッチであれば安定した企業経営を行えますし、また会社によってはそのマネーを投資に費やし、更なるキャッシュ増加を狙うところもできます。

投資家目線でのキャッシュリッチ企業は、その潤沢なキャッシュを配当に回しインカムゲインの増加を狙える、などといったメリットがあると言えるでしょう。

ネットキャッシュが豊富であればあるほど、それに越したことはないのですが、やはりそれがただの内部留保になってしまえば企業の成長は停滞しますし、それをどう使っていくかが企業側の一つの課題であることは間違いありません。

「ネットキャッシュが多いということは、上手く持つ資金を投資に使えていないのではないか」という見方をされてしまうこともあり、その懸念が実際に業績に表れ、保守的な経営から業績・株価が伸び悩む、というデメリットも存在します。

株式投資においては、やはり「投資した会社の業績が伸びることが予想され、株価がそれを先に織り込んで上昇、株価が上がった恩恵を受ける」ということが投資家にとっては大事になります。

ある企業がキャッシュリッチ企業だからそこに投資しよう、というのではなく、なぜキャッシュリッチなのか、またその資金をどのようなことに使っているのか、加えて業績は伸びていく傾向にあるのかを決算短信などで確認することが必要になります。

3、財務分析サイトでキャッシュリッチ企業を探す

財務分析というと難しく聞こえますが、最近はウェブサービスを利用して簡単に、かつ視覚的にキャッシュリッチ企業を検索することが可能です。

またキャッシュリッチ企業かどうか、ということは財務諸表(なかでも貸借対照表)の欄を見れば簡単に確認できますので、気になる企業の決算短信ならびに財務諸表を自分で調べてみるのもよいでしょう。

(1)ValuationMatrix  財務分析サイト

ValuationMatrix  財務分析サイト

こちらのサイトでは、いろいろな企業の財務情報を視覚的に確認ができます。

そのほか、DCFシミュレータを利用し市場価値と業績との乖離をチェックすることが可能です。

企業分析は数字が多く出てきて理解しにくいイメージがあるかもしれませんが、数年分のデータをグラフや表といった視覚的な情報で確認できる、非常に有用なサイトだと言えるでしょう。

無料利用でも十分なデータを確認できますが、有料会員であれば更にスクリーニング機能を絞ってより詳細な企業分析を行うこともできます。

(2)GMO証券 財務分析

GMO証券 財務分析

GMO証券のウェブページで行うことができる財務分析も、視覚的に企業の業績や資産・負債を確認することが可能です。

証券会社の提供するサービスは会社によって違いますが、ここまで詳細にデータを見られるのはGMO証券一択でしょう。

口座開設をすれば無料で利用することができるため、ぜひおすすめしたいサービスです。

(3)財務分析.jp

財務分析.jp

財務分析.jpは安定力・成長力が高い企業をランキング方で見られるほか、自己資本比率や資本回転率といった数値を入力することで、企業を安全性・収益性の面から探すことが可能です。

キャッシュリッチという視点のみでなく、様々な面から優れた会社を検索できるため、使っているうちに視野が広がっていくことでしょう。

ここでは代表的な3つのサイト・サービスを紹介してきましたが、一番良いのはやはり自分で財務諸表を分析できるようになることでしょう。

貸借対照表の項目から自分で計算し、いろいろな企業と比較してみる。

そこから興味を持った点を更に掘り下げていきながら、自分で楽しんで調査することが大事です。

財務諸表を一気に理解するとなると大変ですが、まずは「ネットキャッシュ」ならびに「キャッシュリッチ企業」という切り口から企業分析を行っていくと良いでしょう。

4、「M&A」で注目されるキャッシュリッチ企業をスクリーニング

(1)M&Aとネットキャッシュ

おそらく多くの方が「M&A」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか?

M&A(エムアンドエー)とは Merger and Acquisition(合併と買収)のことで、簡単に言えば企業が他会社を買収することを指します。

M&Aを行うことにより収益基盤を更に拡大させていくこと、買収先とのシナジーを活かし事業を行っていくことなどが主な狙いです。

M&Aにおいては、ネットキャッシュがプラス、かつ多いキャッシュリッチ企業がM&Aの買収先として注目されます。

保有する資金は多いがそれを上手く活かせていない、そういった会社に対しM&Aを行ってその資金を上手く回していく、といった狙いでのM&Aも存在するため、キャッシュリッチ企業はM&A市場においては大きな存在感を示します。

上場企業であればM&Aは基本的にはポジティブ材料として好感されます。

もちろんM&Aが業績の伸びに結び付くかどうかということは分かりませんが、シナジーで業績に貢献することを期待され買収された側の株価が上昇するというケースも少なくありません。

(2)スクリーニングをしてみましょう

やや前置きが長くなっていまいましたが、キャッシュリッチ企業をスクリーニングしている例としてSBI証券での抽出条件を見てみましょう。

  1. 時価総額1,000億円未満の東証上場銘柄であること
  2. 金融(実質的に金融がメインの銘柄も)電力・ガス、その他以外の銘柄であること
  3. 浮動株比率が50%を上回る銘柄であること
  4. PBR(株価純資産倍率)が1倍割れ(いわゆる「解散価値割れ」)銘柄であること
  5. 純利益が前期・今期予想(Bloombergの集計した市場コンセンサス)ともに黒字であること
  6. 予想ROE(Bloombergの集計した市場コンセンサス)が8%未満の銘柄であること

出典:SBI証券

正直、「よくわからないな…」と思う方も少なくないかもしれません。

上記ページを見ればなぜこういったスクリーニング条件なのか、ということが書かれていますが、M&Aが先になりやすいキャッシュリッチ企業の共通点として言えることは

  • 比較的時価総額は小さめであること(買収が低い金額で済むため)
  • 割安性があり、また企業業績に伸びる余地がある
  • 成長性のある業種である

などといった点でしょう。

また、株式会社フィスコが提供するアプリ「株~企業情報・おすすめ銘柄(FISCO)」 では、ネットキャッシュほか様々な条件からスクリーニングを行うことが可能です。

スクリーニングに関しては「この条件の絞り方がベスト!」ということはないので、上記のようなアナリストによる絞り込み方法を参考にしたり、自分で色々と数値を動かしてみたりすることが大事だと言えます。

5、日本のお金持ち企業一覧

実際、日本にはどのようなキャッシュリッチ企業が存在しているのでしょうか?

実際の財務諸表を見ながら確認してみましょう。

(1)任天堂<7274>

例として日本で代表的なキャッシュリッチ企業として知られる任天堂 <7974>の2017年度第3四半期の決算短信を見てみましょう。

任天堂
2017年度 第78期(2018年3月期) 第3四半期決算短信 (2018.01.31)(単位:百万円)

資産の部を見ると、現金及び預金が約7827億円、有価証券が約2243億円。

合計額である手元資金はおよそ1兆70億円ということになります。

また任天堂が他の企業と大きく異なるのは、「無借金経営」だということです。

つまり自社で稼いだ資金を回転させ、それで更にキャッシュを稼いでいるという点です。

ネットキャッシュは「手元資金ー有利子負債」という式から成ることは前述しましたが、任天堂の場合は有利子負債がないため、手元資金がそのままネットキャッシュになります。

(2)SUBARU <7270>

次に自動車メーカーで有名なSUBARU <7270>のネットキャッシュもチェックしてみましょう。

SUBARU
2018年3月期 第3四半期決算短信 (2018.02.08)

まず、資産の部における手元資金(現金および預金+有価証券)の額はおよそ9634億円。

そして負債の部における有利子負債の合計額はおよそ917億円となります。

これらから、ネットキャッシュは9634-917で8717億円。

任天堂には劣りますが、それでもかなりのキャッシュリッチ企業だと言うことができるでしょう。

このような方法で、簡単に企業のネットキャッシュは算出することが可能です。

自分の投資先がどのくらいのネットキャッシュを持っているのか、また投資先候補の会社に関してもこれらの計算を行ってみて投資判断材料の一つにしてみるとよいでしょう。

6、企業分析が簡単にできるようになる本

さて、ここまでキャッシュリッチという観点から企業分析を紐解いてきましたが、それでもまだまだ財務の世界は奥が深いです。

数字がやたらと出てきてとっつきにくいイメージもありますが、漫画などで簡単に学ぶことができるコンテンツもあるので、今項目ではそれらを紹介していきます。

(1)マンガで入門!会社の数字が面白いほどわかる本

マンガで入門!会社の数字が面白いほどわかる本

数字に抵抗感のある方や財務諸表が全く分からない方であっても最初の入門として、かつ漫画で読むことのできる良書です。

企業分析に少しでも興味を持った方は、こういった漫画から入口を叩いてみると良いでしょう。

(2)女子高生コンサルタント・レイの キャッシュフロー パーフェクトレッスン

女子高生コンサルタント・レイの キャッシュフロー パーフェクトレッスン

こちらはネットキャッシュ、という観点からは少しずれますが、会社経営において最も重要ともいえる「キャッシュのめぐり」すなわち「キャッシュフロー」という観点から企業分析を学べる漫画です。

さらっと読み通すことができますが、それらの知識をすぐに活かせるかというと難しいところで、何度か読みつつ実際の企業分析に携えたい一冊です。

まとめ

ここでもう一度、ここまで出てきた言葉の定義などについて確認しておきましょう。

  • キャッシュリッチ

基本的にはネットキャッシュがプラスの会社を指す。

ネットキャッシュが多ければ多いほど、余裕資金が多いということになる。

  • キャッシュ(手元資金➖有利子負債)

手元資金は貸借対照表(BS)の資産の部に記載されている「現金および預金」と「有価証券」の合計額。

有利子負債は同じくBSの負債の部に記載されている短期・長期有価証券、リース債務、社債などの合計額。

ここまでこういった言葉の定義からキャッシュリッチ企業のスクリーニングなどを見てきましたが、いかがだったでしょうか。

企業分析は難しいもののように思えますが、「ネットキャッシュ」といったような切り口から見ていけば、意外と抵抗感少なく行うことができるのではないでしょうか。

さまざまなウェブサービス・ツール、そして書籍を活かして企業分析の腕を更に磨いていきましょう!

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