7月11日、米国ヘッジファンドのエリオット・マネジメントは、イタリア・セリエAの名門クラブ・ACミランを買収することを発表しました。
日本でも、ファッション通販サイト『ZOZOTOWN』を運営するスタートトゥデイの前澤社長が、球団経営への意欲を表明しており、今シーズン終了後にも千葉ロッテマリーンズの買収、あるいは新球団の設立に向け準備を進めていることが明らかになっています。
このように国内外のスポーツ界では、企業による買収が増加しています。
このようなスポーツチームの買収には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
1、ヘッジファンド・エリオット・マネジメントがACミランを買収
昨年ACミランを買収した中国投資家の李勇鴻(Li Yonghong)氏は、買収資金としてエリオットから約3億ユーロ(約392億円)の借入を行っていました。
さらに同クラブと欧州サッカー連盟(UEFA)との対立を解消するために3,200万ユーロ(約42億円)を追加提供しているとされています。
その返済期限は今年10月となっていましたが、約10%とされる高い利率と厳しいクラブの収支状況などから、返済は難しいのではないかと、かねてから囁かれていました。
そしてそれは現実となります。
債務のうち、3,200万ユーロ(約42億円)は今月6日までにエリオットへ返済することになっていましたが、それが滞ったのです。
返済できなければACミランの全株式がエリオットの手にわたることになっており、それが今回の買収へとつながりました。
ACミランは、昨年2億ユーロ(約260億円)にも及ぶ大型補強を行っており、これがUEFAの定めるファイナンシャル・フェアプレー(FFP)に抵触したとして、今季のヨーロッパリーグに出場への出場停止処分を課されています。
FFPの規定では、欧州において支出が収益を上回ったいかなるチームも制裁を受ける可能性があると定められており、これに触れたものとみられます。
この決定について、ACミラン側はスポーツ仲裁裁判所(CAS)に異議申し立てを行っていました。
今回の買収後によって、ACミランはエリオットから5000万ユーロ(約65億円)の資金提供を受けたとみられ、その甲斐もあってか処分は取り消されました。
そして、ACミランは今季ヨーロッパリーグへの出場権を獲得しています。
2、投資会社エリオット・マネジメントどんな会社?
今回ACミランのオーナーとなったエリオット・マネジメントは、ポール・シンガー氏が率いる投資会社です。
1977年の設立以来平均して年約13%のリターンをあげていて、米国で最も成功したヘッジファンドともいわれています。
不良債権投資に強く、法廷闘争を得意とするエリオットは、ハゲタカとも呼ばれるヘッジファンドの中でも、狙われたら最後ともいわれるほど恐れられる存在です。
彼らにかかれば、企業にとどまらず国さえターゲットとなります。
財政破綻し暴落した国家債務を二束三文で買い叩き、額面のみならず金利やペナルティまで含めて支払いを求める訴訟を世界中の裁判所に起こしています。
2001年にはアルゼンチンを相手に訴訟を起こし、アメリカ最高裁まで争った末に、勝利を収めています。
この訴訟ではアルゼンチンから22億8000万ドルの支払いを受けており、投資額(債権買収額)の10倍以上の利益をあげたとみられています。
また最近では日立国際電気(6756)や東芝、アルパインなどへ投資しており、日本企業への投資が活発になりつつあり、その動向からは目が離せません。
今回のACミラン買収に対しては、ポール・シンガー氏は以下のように述べています。
“このクラブが持つ最大の可能性を実現させ、ミランを本来いるべきである欧州におけるトップクラブの殿堂に復帰させるというチャレンジを楽しみにしている”
“経済的な支援や安定性、適切な管理は、ピッチ上での成功と世界に通用するファン体験に必要な条件となる”
しかし、ヘッジファンドであるエリオットが長期的なクラブ経営を行うことはあまり考えられず、やはり転売などによって利益をあげることが目的ではないかと想定されます。
その過程でファンや選手を失望させるような結果とならないことを願うばかりです。
3、日本企業にもスポーツチームへの投資・買収がブーム到来?スタートトゥデイはプロ野球界参入に意欲
日本でも、ファッション通販サイト『ZOZOTOWN』を運営するスタートトゥデイの前澤社長が、自身のツイッターで「プロ野球球団を持ちたいです」というツイートをし、プロ野球界への参入に意欲をみせています。
(引用:https://twitter.com/yousuck2020/status/1019054130017341440)
前澤社長は千葉県出身、スタートトゥデイの本社も千葉にあり、買収による参入となれば千葉ロッテマリーンズということになるでしょう。
2016年には本拠地・マリンスタジアムのネーミングライツを取得し、名称を「ZOZOマリンスタジアム」としています。
ロッテへの球団買収の提案は、今回の表明前から行っているとみられますが、受け入れられていないようです。
ロッテ側としても球団を手放すことになれば、企業イメージの悪化などのデメリットはあっても、メリットはないように思われます。
マリーンズの山室晋也球団社長は「ロッテグループの総意として、球団を手放すことはあり得ない」と明言しています。
しかし、ZOZOマリーンズの可能性がないわけではありません。
今年2月、韓国ロッテグループ会長であった重光昭夫氏が贈賄罪で実刑判決を受けて収監され、球団を保有するロッテHDの代表権と、球団オーナー代行職を返上し、その後も混乱は続いています。
また韓国国内では、売り上げの過半を韓国で稼いでいるにも関わらず、日本のロッテHDが持株会社として韓国のロッテグループを支配する構造を疑問視する声もあります。
日本のプロ野球界には、球団所有できるのは日本企業のみがというルールがあり、ロッテが韓国企業となれば、球団を手放さざるを得ないこととなります。
そうなれば、いち早く手をあげていたスタートトゥデイが球団を取得する公算が高いといえます。
また自らプロ野球球団を立ち上げ、日本野球機構(NPB)に現在の12球団体制からの改革を提案する可能性などもあり、個人資産2830億円(Forbesjapan 日本長者番付 2018)の前澤社長であれば、決して絵空事とはいえません。
4、企業がスポーツ界へ投資するメリットは?
日本球界への参入は、直近では2011年に横浜ベイスターズを買収したディー・エヌ・エー(2432)によるものです。
買収後には地域に密着した戦略で観客動員数を増加させ、17年3月期には営業損益を黒字転換し、18年3月期には66%の増益と、見事球団経営を立て直しました。
買収を発表した2011年、ディー・エヌ・エーの株価は年間で21.7%上昇(高値では39.4%上昇)しています。
このように、買収する企業にとっても、プロ野球への参入は知名度や信頼感の向上につながり、企業価値や株価を引き上げる効果が期待できるメリットがあるといえます。
(1)2000年以降スポーツ界へ投資した主な企業
①ソフトバンクグループ
(9984)ソフトバンクグループ | 株価 (2018/7/27 終値) | 9,385円 |
通信大手。傘下にヤフーや英ARM、持分に中国アリババを持つ。孫社長が指導する10兆円ファンドでは、これからの世界をリードすると予想されるトップ企業に幅広く出資する「郡戦略」を掲げ、投資会社としての色を強めている。 2005年から球団経営に参入し、福岡ソフトバンクホークスを保有・運営している。球団買収を発表した2004年には株価が52.1%(一時は75%高)上昇した。 | ||
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②楽天
(4755)楽天 | 株価 (2018/7/27 終値) | 776.6円 |
ネット通販『楽天市場』のほか、銀行・証券・保険・旅行など多くの業種でサービスを展開している。2019年には携帯電話事業参入予定。 ソフトバンク同じく2005年から球団経営に参入し、東北楽天ゴールデンイーグルスを保有・運営している。球団買収を発表した2004年には株価が140%上昇した。 | ||
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③ディー・エヌ・エー
(2432)ディー・エヌ・エー | 株価 (2018/7/27 終値) | 2,120円 |
スマホゲームなど開発する大手ゲーム会社。 2011年プロ野球人気が低迷する中、球団経営に参入。横浜DeNAベイスターズを保有・運営している。地域に密着した戦略などで観客動員数を増やし、プロ野球人気の復活にも大きく貢献した。球団経営も黒字化を達成し、ディー・エヌ・エーの重要な事業のひとつとなっている。 | ||
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④RIZAPグループ
(2928)RIZAPグループ | 株価 (2018/7/27 終値) | 819円 |
美容・健康通販や減量ジム『RIZAP』などを全国で展開。メディアでも話題となり一躍注目を集める。合弁会社を通じてJ1・湘南ベルマーレ経営権を獲得し、サッカー界への参入が決まった。 | ||
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(2)プロ野球界参入に意欲 【スタートトゥデイ】
(3092)スタートトゥデイ | 株価 (2018/7/27 終値) | 4,550円 |
ファッション通販サイト『ZOZOTOWN』を運営。最高益を更新し、時価総額は1兆円を突破するなど、勢いに乗る。プライベートブランド『ZOZO』の拡大を図り、ZOZOSUITを無料で配布したり、10月1日付には社名を「ZOZO(ゾゾ)」に変更する。プロ野球への参入は、認知度を高める狙いもあるとみられる。 | ||
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まとめ
いかがでしたでしょか。
スポーツは多くの人々の注目を集め、スポーツチームを保有することは、企業に様々なメリットをもたし、市場からも評価されることが多いようです。
今回ACミランを買収したエリオット・マネジメントのように、アクティビストと呼ばれる投資会社がスポーツチームの買収において主導的な立場をとることもあります。
日本でも今後スポーツチームの買収が活発に行われるようになることも想定されるため、勢いのある企業のほか、アクティビストの動向にも注目していきたいですね。