著名投資家というとウォーレン・バフェットを頭に思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。
投資ファンド、パークシャー・ハサウェイで圧倒的な成績を継続的に収め、企業業績(ファンダメンタルズ)を重視したバリュー投資家で知られています。バフェットは日本のニュースでも度々報じられるためかなりの認知度ですが、彼と同じ投資手法で「伝説のファンド」を作り上げたピーター・リンチも彼に劣らず実力を持った有名な投資家です。
彼がファンドマネージャーを務めたフィデリティ・マゼラン・ファンドの資産額は2000万ドルから140億ドルへと成長し、日本語訳でも『ピーター・リンチの株で勝つ』『ピーター・リンチの株の法則』『ピーター・リンチの株の教科書』といった書籍を出版しています。
今回の記事ではそういった書籍の内容にも触れながら、ピーター・リンチがどういった人物なのか、そしてこれまでどういった投資手法・投資哲学で大きな資産を築き上げたのかについて見ていきましょう。
1、投資の神様”ピーター・リンチ”はどんな人?
ピーター・リンチは1944年1月アメリカ・マサチューセッツ州に生まれました。
(バフェットが1930年生まれなので、そのおよそ15年後ということになります)
彼の親族は株式を嫌っており、そのせいかピーターも少年期はあまり株式に興味を持たずに、ゴルフのキャディなどのアルバイトをして家族の生計を支える日々だったようです。
ただ、ゴルフを打ちにくる会員たちが株式の話をするのを聞き、徐々にマーケットに関心を持ち始めたそうです。
ボストン大学に入学して初めてフライング・タイガー社という会社の株式を購入、その後同社の株式は10倍近くに値上がりすることになります。
大学入学後もゴルフ場のキャディを続けていたピーターは人づてでフィデリティ証券のアルバイトに募集し合格、1969年にフィデリティに再度入社をします。
1977年には、のちに大成功を収めるマゼラン・ファンドのディレクターに昇進し、晴れて運用の戦略を任せられることになりました。
彼は自らの投資ルールで「ファンダメンタルズが良好なのにも関わらず安く放置されている銘柄」を見つけ大きな結果を残したとして知られています。
バフェットと同じく短期投資・テクニカル投資にはそこまで価値を見出しておらず、あくまでも企業の業績と株価のかい離を狙って投資チャンスを見出していたと言えるでしょう。
また、「よく分からない株は買うな」というのも二人の考えの共通点だと言えます。
書籍『ピーター・リンチの株で勝つ』の中で「アマチュアでもプロに勝てる可能性は十分にある」と書いていますが、そのために必要なことは「自分のよく知った業種・会社の株式を購入すること」と繰り返し述べています。
2、ピーター・リンチの投資法、ファンダメンタルズ重視のバリュ―投資
何度か触れたように、ピーター・リンチの投資法の根幹にあるのはファンダメンタルズ重視のバリュ―投資です。
バリュー投資は「株価が会社の本来の価値に対して安く放置されている銘柄を購入する」という投資法ですが、ピーター・リンチの場合はそれに加えていくつかの投資の視点・投資のルールが設けられています。
その一つが企業の分類で、彼は様々な企業を「低成長株」「優良株」「急成長株」「市況関連株」「業績回復株」「資産株」の6つに分類できるとしています。
それぞれ特徴がありますが、その中でも狙っていくのが年間で20%~25%ほどの株価上昇を遂げる銘柄です。
それぞれの分類で数年のうちに高成長、もしくは復活を遂げる銘柄があるとにらみ、企業調査を行っていくというわけです。
彼はそのような視点からフォードやフィリップモリス、コカ・コーラ、クライスラーといった企業に投資を行い、圧倒的な結果を残してきました。
また、著書の中でピーターは「私が何より避けたいのは、超人気産業のなかの超人気会社である」と述べています。
これを見るとバフェットがAppleに投資しているのとは真逆の考えのようにも見えますが、現在のマゼラン・ファンドの組み込み銘柄を見てみるとApple、Amazonといった業界トップの銘柄が組み込まれており、業績が伴っていればある程度の著名会社でも問題はない、という考え方なのだと言えます。
また後ほど詳しく触れますが、資産額が大きくなってしまったマゼラン・ファンドがApple、Amazon、そしてAlphabet(Google)のような大企業に投資しているのは「そうせざるを得なくなった」理由が存在します。
ファンドの資産額が増えてくると小型株を中心に投資を行うことは難しくなってしまい、大型株を組み込んで資産額・パフォーマンスをキープする必要が出てきてしまうのです。
3、格言から読み取る投資成功にあたってのアドバイス
(1)誰も知らない自分だけの情報が重要
ピーター・リンチに関する様々な情報を顧みると、彼の投資哲学にあるのは「人気株でなく不人気で割安な銘柄を買うことが重要」という考え方です。(先ほども書いたように、これがバリュー投資の本質です)
競争が厳しくかつ複雑な産業で優秀な経営陣を抱えた優良会社と、平凡な経営陣であっても競合が少なくシンプルな事業内容を持つ会社であれば後者に投資を行うという彼の姿勢がそういった哲学をまさに表しているのではないでしょうか。
多くの人が見つけていない、また自分がよく知る情報で優位性を持って投資を行うことがリターンを生むコツであると彼は似た言葉で繰り返し書籍の中でも書いています。
(2)投資をする前に「正確な情報」格言4つ
①株を実際に買う前には、その会社の魅力、成長性、弱点などを、もう一度二分間だけ自問自答してみるとよい。
②アマチュアは地元の企業に関してはプロに優る。
③株式市場では、確かな一銘柄はよくわからない十銘柄にも優る。
④利益見通し、財務状況、競争上の位置、成長計画などについての宿題を済ます前には決して投資をしてはいけないのである。
ピーター・リンチは、調査の重要性、そして投資にあたってどんな銘柄を選定すればよいのかについて、一貫した考えを我々にアドバイスしてくれています。
他人から得た情報ではなく、自分で考え抜いたうえで投資をすること、客観的な視線を持って投資を行うことが大事ということも繰り返し彼が述べるポイントの一つです。
4、ピーター・リンチ関連のおすすめ書籍
ピーター・リンチの名を冠した書籍でおすすめなのは、先にも挙げた3冊です。
『ピーター・リンチの株の法則―90秒で説明できない会社には手を出すな』
同じバリュー投資・ファンダメンタルズ投資の観点からいくと『株を買うなら最低限知っておきたい ファンダメンタル投資の教科書』『投資で一番大切な20の教え―賢い投資家になるための隠れた常識』などもおすすめですが、今回は前述の三冊についてチェックしていきましょう。
(1)『ピーター・リンチの株で勝つ―アマの知恵でプロを出し抜け』
ピーター・リンチの株で勝つ―アマの知恵でプロを出し抜け
とにかくファンダメンタルズ投資・バリュー投資、そして我々アマチュアがプロにも劣らぬパフォーマンスを上げるにはどうしたら良いかについて徹底的に書かれた一冊です。
ですが難しい数字が出てくるわけではなく、根本にある考え方について彼の経験も交え簡単にまとめられているのも特筆すべきポイントです。
企業調査をする前の準備の一冊としても有用ですし、バリュー投資とは何か?結果を出すための投資マインドとはどんなものなのか?について学ぶのにベストの一冊だと言えるでしょう。
(2)『ピーター・リンチの株の法則―90秒で説明できない会社には手を出すな』
ピーター・リンチの株の法則―90秒で説明できない会社には手を出すな
『ピーター・リンチの株で勝つ』のあとに書かれたもので、日本では2015年に出版されています。 『ピーター・リンチの株で勝つ』では先ほども書いたように詳しい財務諸表の読み方や適性株価をどう見出していくかについては述べられていないのですが、『株の法則』ではそういった部分への言及があるのが優れた点です。
被っている部分もあるのでこの本からでも読めますが、まずは『株で勝つ』を読んでおくとすんなりと内容に入っていけると思います。
(3)『ピーター・リンチの株の教科書―儲けるために学ぶべきこと』
ピーター・リンチの株の教科書―儲けるために学ぶべきこと
タイトルに教科書とあるように、かなり入門的な内容になっています。
ピーター・リンチ三部作の中でも若年層向けに書かれているため、初歩的かつ分かりやすい表現でまとめられた一冊となっています。
株式投資のテクニックや考え方を教えるというよりは、その背景にあるストーリーやそもそも株式とは何なのか?ということを学ぶのに適した書籍です。
5、現在のマゼラン・ファンドの運用成績は?
さて、ピーター・リンチが大きく成長させたマゼラン・ファンドは現在どうなっているのでしょうか?
「2、ピーター・リンチの投資法、ファンダメンタルズ重視のバリュ―投資」でも少し触れましたが、資産額を数百倍にしたかつての頃とはマゼラン・ファンドの様相は変わりつつあります。
また近年のインデックスファンドの人気化により、マゼラン・ファンドのようなアクティブファンド(独自で銘柄を調査しポートフォリオに組み込むファンド)にやや向かい風が吹いてきてしまっているのも事実です。
Bloombergが2018年6月に報じたニュースでは、運用成績が悪くないのにも関わらずマゼラン・ファンドが資金集めに苦労していることがヘッドラインで書かれています。
■伝説のマゼラン・ファンドも資金集めに苦戦-運用成績良好でも
とは言え、どんな金融商品に資金が流入するかはその時々のマーケットの動きや地合いにも依ります。
債券が買われ株式が売られるような場面もあるでしょうし、指数よりも良いパフォーマンスを求めた個人投資家が再びアクティブファンドに目を向けることもあるでしょう。
ただ、現在のマゼラン・ファンドのように、大型株がポートフォリオにおいて高い比率を占めている場合は別のファンドとの差別化が難しいと言えるのかもしれません。
かつてピーター・リンチが作り上げたときのマゼランとは色々な点で違いがあることもあり、伝説のファンドとは言え、苦戦を強いられるのはしょうがない一面もあるのでしょうか。
そう考えると現在でも第一線で高い成績を残し、かつ人気があるバークシャー・ハサウェイ(ウォーレン・バフェットの投資会社)はやはり恐るべき存在と言えるのかもしれません。
6、頭角を現してきているアクティビスト
マゼラン・ファンドがやや苦しい状況にあるのは、相場環境の変化というのもあるでしょう。
日本国内でも国外でも様々な投資信託・ヘッジファンドなどの投資対象が存在しますが、環境が変化し色々な情報を手に入れられるようになった今、人気を集める金融商品も変わってきているのかもしれません。
そういった状況の中でもとりわけ目立ってきているのがアクティビストです。
解散後、鳴りを潜めていた村上ファンドも、元代表の村上世彰氏による投資活動再開や、かつて村上ファンドだったメンバーによりアクティビストファンドが設立され再び存在感を示してきています。
また村上ファンドより知名度では劣るものの、頭角を現してきているのが投資会社Japan Actです。
彼らもピーター・リンチやウォーレン・バフェットと同じくバリュー投資に重きを置いており、かつ投資先の企業に積極的に関与することで株主価値の向上やコーポレートガバナンスの改革を目指しています。
Japan Actは中小型株への投資が多く、そういった点では過去のマゼラン・ファンドと似た点が多くあると言えるでしょう。
違いとしてはアクティビスト(物言う株主)としての活動がマゼランより色濃くあるという点です。日本国内において、アクティビストの数はまだまだ少ないと言えますが、その中でも注目されているのがJapan Actだと言えるでしょう。
まとめ
今回は米著名投資家のピーター・リンチについて詳しく見てきました。
様々なファンダメンタルズ本を読んで分かるのはどの本でも「企業調査・企業選定が重要」ということです。
それに際しては様々な視点があると言えますが、ピーター・リンチの場合はとにかく、我々個人投資家の目線に立って何を考えれば良いのかを本の中で教えてくれています。
彼の書籍に書いてあることを全て実践するのは難しいことでもありますが、一つ一つを身に着けていけば投資の腕が上がることは間違いないでしょう。