株式投資をしているとよく聞く言葉の一つに「ステークホルダー」があります。
普段のビジネスの場や、本を読んでいるときに耳や目にしたことがあるかもしれません。
ですが、その意味をこと細かく知っている方は意外と少ないのではないでしょうか?
ステークホルダーは株式投資をしていくうえでは勿論、我々が行っているビジネス、ひいては企業活動において非常に重要な存在であり、ステークホルダーをどう扱っていくかが企業課題の一つでもあると言えるでしょう。
そこで今回は「ステークホルダー」について、その意味を確認しながら関連ワード「コーポレートガバナンス」「CSR」等も抑え、これらを意識した経営がいかに大事かといったことを詳しく見ていきます。
1、ステークホルダーの意味は?
ステークホルダーの意味とは、直訳すると「利害関係者」になります。
もう少しかみ砕くと「(自社)企業と金銭的な利害が発生する関係を持つ人・組織・社会」と言い換えられるでしょう。
ここには自社に対し9つのステークホルダーしか示していませんが、このほかにも行政機関や政府といった組織が企業経営に絡んでくる場合もあるでしょう。
また、我々としては「企業と顧客」の関係性は非常に理解しやすいかもしれません。
私たちが何か店で商品を買えば、それがその会社の利益として生み出される、まさにこれが「金銭的な利害関係」だと言えます。
投資家目線で考えるならば、投資家は企業に資本を与える一方で、企業は株主還元でその関係性をより密で強いものにしているといったイメージでしょう。
利害関係というよりも「影響を与え合うもの」と考えればよりかわりやすいと思います。
2、背景にあるものは?コーポレートガバナンスとCSR(企業の社会的責任)に注目
さて、ここ数年でこのステークホルダーという概念や存在はその重要性を増しつつあります。
その理由として挙げられるのが2015年3月より適用が開始された「コーポレートガバナンスコード」、そして「CSR(企業の社会的責任)」といった制度や責任が企業目線からも、そして機関投資家目線からも大きな注目を集めるようになったからだと言えるでしょう。
ここまで出てきたステークホルダー、コーポレートガバナンスコード、CSR、この3つ全てが企業経営、およびそれに必要な資本を出資する投資家から見た重要な概念と考えられます。
カタカナや英語を見ると何のこと?という感じもするかもしれませんが、一つ一つ見ていきましょう。
(1)コーポレートガバナンス
まず、「コーポレートガバナンス」というのは「企業統治」ということを表しています。
コーポレートガバナンスは各ステークホルダーがそれぞれの利益を最大化、および損失や悪影響を最小限にとどめる(保護する)ために導入されている考え方です。
また、コードは「指針」、これら2つの言葉をあわせ「企業統治指針」というのがコーポレートガバナンスコードです。
もともと企業統治という概念は日本にも存在していたものの、コーポレートガバナンスコードの導入でそれがより明確化され、また徹底強化されるようになったと言えるでしょう。
言葉や制度としてはそれなりに名が知られていたコーポレートガバナンスですが、2015年の東芝の不正会計に見られるように、 それが形骸化・機能不全になってしまっている会社もあったため、コードの導入により「社外取締役」「社外監査役」といった客観的な視点を持つ役職が各社で設置され、適切な情報開示が各企業に求められるようになりました。
(2)CSR
また、CSRもステークホルダーおよびコーポレートガバナンスを考えていくうえで忘れてはならない要素です
CSRとはCorporate Social Responsibility、すなわち「企業の社会的責任」を指しています。
企業というものは(上場企業であればなおさら)自社の利益を追求するのみならず、社会や環境など、先に挙げたステークホルダーにとっても健全かつメリットのあるものでなければなりません。
大きな資金を動かし株式を売買する機関投資家も、単純な企業の利益のみを見ているわけではなく、環境に配慮しているか、従業員に配慮しているか、などといった視点を持つ機会が多くなってきており、大企業・中小企業関係なく「客観的・社会的に見た企業の在り方」が注目されるようになってきていると言えるでしょう。
3、ステークホルダーマネジメントとは?企業価値の向上を目指す
この項のタイトルになっている「ステークホルダーマネジメント」ですが、意味は読んで字の如く、自社に関係するステークホルダーとどうやって良好な関係を築いていくか、またステークホルダーの要求をくみ取りつつも、どう経営・利益創出とバランスをとっていくかという経営のかじ取りは非常に重要なところと言えるでしょう。
ステークホルダーマネジメントと言ってもイメージしづらいかもしれませんので、具体例を考えてみましょう。
(1)顧客
具体的なステークホルダーとしてまず挙げられるのは「顧客」です。
企業は利益を上げるためにはサービス・プロダクトの価格を上げるのがシンプルな方法ですが、それを行うと顧客側で買い控えが起こったり、売上量減少などの懸念が生じたりしてきます。
あくまでもこれは極端な一例ですが、どういった価格設定を行っていくか、顧客に対しどのような接客待遇を行っていくか、なども大事な要素となってくるでしょう。
(2)従業員
また、顧客と同じように自社の従業員のマネジメントも企業経営において忘れてはならない点の一つだと言えます。
分かりやすいところで言うと評価体制や給与制度、加えて福利厚生なども企業活動を支える従業員にとっては一番大事だと言っても過言ではありません。
従業員がベア(賃上げ)運動を行うといったようなニュースも見られますが、経営者は一人ひとりが納得するようなマネジメントを行わなければなりません。
(3)投資家
投資家に対するマネジメントも同じように重要です。
上場企業であれば非上場企業より情報の開示をより積極的に行っていき、今現在企業がどういった状況なのか、また将来に向けどのような計画で企業運営を行っていくのかといったことをIRなどで発信していく必要があります。
この投資家というステークホルダーと企業の関係性に関しては、次の項目で更に詳しく見ていくことにしましょう。
4、株価上昇のためのアクティビストの役割とコーポレートガバナンスの対応
企業運営に際しては、「資金調達」「資金の借り入れ」がほぼ必須と言ってもいいほど大事になってきます。
企業側としては自社の信用を上げ資金調達をして事業拡大、そして利益拡大を狙う一方、資金を与える側の投資家は「投資した以上のリターン」を出せるような株価上昇、業績良化を目的としています。
株主は経営陣に対し質疑応答、および株式保有率によっては経営方針の策定レベルまで口出しできるわけですが、こういった経営に密接に携わる投資家として知られるのが「アクティビスト」です。
彼らは投資家、というよりは巨大資金を持ったファンドで、多額の資金を会社に投資し、企業に対し株主還元策や自社株買いなどを熱心に提案しています。
またそこで出てくるのがコーポレートガバナンスで、アクティビスト含めた投資ファンド、投資家は高い質でのガバナンスを会社に求め、それを踏まえた上での業績良化、株価上昇、株主還元策を会社側に期待しているわけです。
日本株の最大の買い手は海外投資家であり、彼らの投資機会を逃さないためにも日本企業はコーポレートガバナンスにより積極的に取り組んでいく必要性があるということになります。
5、ステークホルダーと企業との関わり方を勉強するためのオススメ本3冊
ここからは、ステークホルダーと企業の関係性、およびコーポレートガバナンスを学習することのできる書籍三冊を紹介します。
(1)ステークホルダーの経営学
ややページ数が多くお堅い本ではありますが、体系だってステークホルダーと経営の関係を学ぶにはよい学習材料となるでしょう。
企業にとって大事なのは「持続可能な成長」ですが、これをどういった視点から切り込んで考えていくかが書かれている一冊となっています。
(2)この1冊ですべてわかるコーポレートガバナンスの基本
「この1冊ですべてわかる」シリーズの日本実業出版社が出しているコーポレートガバナンスの本です。
このシリーズは初学者にも理解しやすい内容で書かれており、かつボリュームもそこそこで、タイトル通りこれ一冊でコーポレートガバナンスに関する基本は押さえられるでしょう。
企業経営に携わる方はもちろん、投資家の方にもおすすめしたい本です。
(3)勝てるROE投資術
ROEとは「自己資本利益率」と呼ばれるもので、コーポレートガバナンスなどと同じく海外投資家から非常に注目される要素の一つです。
ROEは大事な株式指標であることは間違いありませんが、業種やビジネスモデルによってROEにそれぞれ特徴があるという点、ROEはただ高ければいいわけではないといったことなどを知っておくことが重要です。ROEを基礎から、かつ深く学べる一冊です。
6、企業価値向上のためにエクイティ投資を行う投資会社Japan Act
「4、株価上昇のためのアクティビストの役割とコーポレートガバナンスの対応」でも少し触れたように、企業価値向上を狙って投資を行う投資会社は多く存在します。
投資会社Japan Actもその一例と言え、日本の個別企業に投資を行いながら、その経営方針に携わっていくというスタンスを大事にしている会社です。
日本では機関投資家の中であってもまだ「企業価値向上」という視点で投資を行う会社は少ないのですが、Japan Actはそれに加え「改革者として、日本市場にイノベーションを起こす」というビジョンのもと、日本国内の上場企業を対象にアクティビスト投資を行っています。
日本国内では、コーポレートガバナンスコードが導入されてまだ日が浅いのですが、各企業は今より更に、ステークホルダーとの関係性を良くし、資金調達・事業拡大の効率性を上げていく必要があるでしょう。
まとめ
ここまでステークホルダーならびにコーポレートガバナンス、CSRといった考え方について見てきました。
やや横文字が多く混乱された方もいらっしゃるかもしれませんが、共通するポイントは「日本の企業経営、そしてそれに携わる人がよりハッピーになっていく必要がある」という点です。
もちろん言葉で言うほどたやすいことではありませんが、働き方改革などが叫ばれている昨今、企業は今一度ガバナンスの重要性について一考していく必要があるでしょう。