コーポレートガバナンス・コードとアクティビスト。
それぞれどのようなイメージがあるでしょうか。
前者は株主の利益を守るもの、後者は自社の利益を優先する集団という相反する印象があるかもしれません。
しかし両者は相性がよく、共存することで株式市場に長期的な成長をもたらすという効果があります。
この記事を読めば、先ほどのようなアクティビストのイメージは変わるでしょう。
1、株式市場を見守る2人の「番人」
日本には株式市場において、投資家を保護するための2つの規則があります。
コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードです。
規則といっても緩やかなもので、守らなければ罰則があるというわけではありません。
企業が求められているのは「実行するか、さもなければ説明する」という姿勢です。
これらのコードを実現できない上場会社や機関投資家は、その理由を公に説明する必要があります
(1)コーポレートガバナンス・コード
コーポレートガバナンス・コードはよりよい企業統治を行うため、上場会社に課せられます。
株主や従業員などの利益を考慮しながら、透明性高く、かつ迅速な経営判断をできるようにするための必要なあり方です。
これを守ることで株主の利益を守ったり、長期的に会社を存続させることに役立ったりします。
基本原則は次の5つです。
- 株主の権利・平等性の確保
- 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 適切な情報開示と透明性の確保
- 取締役会等の責務
- 株主との対話
コーポレートガバナンス・コードは実質的に2015年6月から適用され、2018年6月に改訂されています。
(2)スチュワードシップ・コード
スチュワードシップ・コードが課せられるのは機関投資家、つまりファンドや年金基金などの「プロ投資家」です。
ファンドへ投資した人にとって長期的に最大限のリターンを得るための企業への接し方を定めています。
投資先の会社と関わり合うことによって企業価値を高め、継続的な成長を促します。
大口の機関投資家には、そのような社会的責任があるという考えのもと生まれました。
コーポレートガバナンス・コードに先駆けて2014年4月に公表されました。
参加は任意ですが、2018年7月時点で229社が受け入れを表明しています。
その中には「エフィッシモ・キャピタル・マネージメント」や「いちごアセットマネジメント」など著名なアクティビストも名を連ねています。
コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード。
この2つは、株式市場に長期的な成長をもたらし、各企業と投資家の利益を最大化するために目を光らせる番人の役割をしているのです。
2、「番人」の力を引き出すアクティビスト
(1)アクティビストとの相性
企業の持続的な成長を促す上記のような取り組みは、アクティビストと相性が良いと言えます。
アクティビストというと、「ハゲタカ・ファンド」のように会社を切り売りしたり、投資先の企業に株式の買取請求をしたり、といった短期的な利益のみを追求するようなイメージを持っている人もいるでしょう。
そのように考える人は、コーポレート・ガバナンスとともに企業に長期的な成長を促していることを意外に思うかもしれません。
しかし日本のアクティビストも、そのような荒々しい方法で稼ごうとするところばかりではありません。
むしろコーポレート・ガバナンスが重視される状況下で、物腰やわらかに長期的な利益の拡大を狙うことが増えてきました。
(2)アクティビストの提案
例えば、アクティビストは投資先の企業に次のようなことを提案します。
「社外取締役の選任」「政策目的保有株の売却」「監査役会設置」など、どれも企業統治を正確にし、経営を透明化するためのものです。
このように合理的な経営を促す「正論」のような要求は、企業側としてコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードを目の前にしては退けにくいものです。
実現すれば投資家などのステークホルダーには好意的に受け入れられそうなものばかりでしょう。
(3)要求のための議決権は?
これらの要求を行うのに経営権のすべてを掌握する必要はありません。
実質的に、会社を支配するには議決権の過半数が必要です。
委任状をめぐったアクティビストと企業の壮絶な争いは過去に何度もが行われています。
しかし議決権の1%があれば株主総会における議題を提出できますし、3%あれば臨時株主総会を招集することもできます。
そもそも要求するだけであれば総会の議題として提出するまでなく、株主という事実だけで十分です。
自社のホームページやSNSなどで、個人投資家に投げかけることもできます。
このような穏健な要求には、コーポレートガバナンス・コードが追い風になっています。
正論として受け入れられる土壌が形成されつつあるのです。
より透明性の高い企業統治が求められる風潮のもと生まれたコーポレートガバナンス・コード。
具体的に実行されることを後押ししているのは、企業の成長を後押ししてパフォーマンスを高めようとする穏健なアクティビスト・ファンドの存在です。
3、コーポレートガバナンス・コードで企業への「世直し」が行われる
アクティビストはコーポレートガバナンス・コードを具体化し、企業に働きかけます。
その対象となる企業は、「本来は強い事業基盤を持っているにもかかわらず、企業統治が悪いためにその力を発揮できていない」ところです。
このような企業は経営上の懸念事項があったり、不透明さがあったり業績がよくなかったりで、株価はあまりよくありません。
このような会社の本来の価値に目をつけ、革新させようとします。
具体的にアクティビストが狙う会社が持つ特徴としては、
- 赤字の事業があるにもかかわらずに経営幹部らの思い入れによって切り離すことができない
- 取締役会が古参ばかりで新鮮味に欠け、新商品や革新的なサービスを生み出す力が弱い
- 株主との意見交換がなされていないため、客観的な意見が取り入れられにくい
などがあります。
このような会社の経営は、株主のほうを向いているとはいえません。
アクティビストはそのような経営層に投資家と対話させ、合理化を促すことで、長期的に価値を向上させようとします。
伸びしろのある企業でも、統治の問題で力を発揮できないことがあります。
それを正しく導くのがアクティビストなのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
コーポレートガバンス・コード、アクティビストの役割についてご理解いただけましたでしょうか。
上場企業の中には、経営統治の問題でうまく力を発揮できていない会社があります。
その問題を解消するためにあるのがコーポレートガバナンス・コードです。
アクティビストは企業にコーポレート・ガバナンスに目を向けさせ、価値を向上させる役割を持っています。
これからさらにアクティビストの活動に注目が集まると思われます。
投資をする際には、企業統治についてもしっかり確認していただけましたら幸いです。