撤退のタイミングを計る投資家

【検証】アクティビストが企業から撤退するとき!株価はどう動くのか?

日本でもその勢いを強めつつある「アクティビスト(物言う株主)」。

2018年5月には米国のアクティビストであるバリューアクト・キャピタル がオリンパス <7733> の大量保有を報告、旧村上ファンドのメンバーが創設者であるエフィッシモ・キャピタル・マネージメントは東芝 <6502>、リコー <7752>などへの積極的な投資姿勢を見せるなど、国内外問わず日本株へアクティビストとして投資を行うファンドが目立つようになってきています。

2008年のリーマンショック以後、影を潜めていたアクティビストでしたが、日本国内で2015年からコーポレートガバナンスコード(企業統治指針)やスチュワードシップコードの導入が始まったことにより、再び日本の株式市場でも名を聞くようになりました。

アクティビストの株式取得件数は右肩上がりとなっており、個人投資家としても無視出来ない存在になってきていることは間違いありません。

そこで今回はアクティビストの株式保有が株価に与える影響を見ていくとともに、そういった動きを踏まえたうえでのアクティビストのメリット・デメリットなどについても考えていくことにしましょう。

1、アクティビストの株式大量保有が株価に与える影響

アクティビストに関わらず「株式の大量保有」は、その企業の株価に大きな影響を与えます。

大量保有すなわちその株に大きな買いを入れたトレーダーがいる、ということですから、株価の上昇に少なからず影響を与えることは想像に難くありません。

また、有名ファンドの大量保有はそれ自体が株価押上げ要因になることがあります。

「高い成績を出しているファンドが大量保有を行った銘柄なのだから、今後株価が上がる可能性は高いのではないか」と考える投資家が、ファンドの大量保有報告の後を追って買いを入れていく、という構図になるわけです。

やや極端な事例ではありますが、特定ファンドの大量保有が報告された翌日に、それが原因でストップ高となるようなケースも少なくはありません。

Googleで「大量保有 ストップ高」と検索してみるとレオス(ひふみ投信)やブラックロック、JPモルガンといったファンドの大量保有が株価に大きな影響を与えていることが分かります。

■Google検索「大量保有 ストップ高」

これはアクティビスト(物言う株主)の大量保有でも例外ではなく、彼らの買いに触発され株価が大きく上昇してきた、というのは度々見受けられました。

日本で名が通っていたアクティビストである村上ファンド(現在は解散済み)が大量保有してきた銘柄の中には、取得時から2倍以上になったTBS <9401> や住友倉庫 <9303> のようなものもあります。

過去の事例を振り返ってみてもアクティビストは株式市場において非常に重要な存在であったことは間違いないと言えます。

さて、ここで気になるのは「アクティビストが大量保有後、売却した銘柄の株価はどうなるのか」ということです。

次の項目では、実際にアクティビストが撤退・もしくは大きく売却した事例をチェックしていきましょう。

2、アクティビスト撤退・株式売却後の株価推移は?

大量保有が株価の押し上げ要因になるのであれば、その逆もまた然りです。

大株主が売却に動けば株価の下落に影響する、というのも容易に連想できます。

実際に過去のケースをいくつか見てみましょう。

(1)米アクティビストのスティール・パートナーズVSサッポロホールディングス <2501>

株式保有~売却の流れはまさにアクティビストの動向が株価を左右している最たる例だということができます。

2004年10月に同社の株式を大量保有したのち、2008年ころから徐々に売却を進め2010年末には同社の投資を完全撤退です。

スティール・パートナーズの売り抜け後も株価は二年ほど低迷、そのあと2年ほどして底打ち、という推移となっています。

株価下落に関してはリーマンショックという全体市場環境悪化の影響もありますが、大量保有報告後の株価上昇は著しいことがチャートから見て取れます。

サッポロホールディングス  <2501> 月足20年チャート

(2)エリオット・マネジメントVSケネディクス <4321>

次に見ていくのがスティールと同じく米国のアクティビストファンドであるエリオット・マネジメント。

エリオットの売買動向として2017年4月にケネディクス <4321> の大量保有が判明したのち、同年8月に同株式の売却を報告しています。

アクティビストは基本的に中長期的に会社のコーポレートガバナンスや株主還元策に携わっていく、というケースが多いためここまでの短期売買は非常に珍しいケースです。

エリオット・マネジメントの撤退後、株価は一か月近く下げたもののその後は大きく上昇します。

この上昇はアクティビストが撤退したから、というわけではなく日本株全体に買いが入ったためというのが大きな要因ですが、先に挙げたスティール・パートナーズの例に比べるとイグジットのタイミングは微妙だったことが分かります。

ケネディクス <4321> 日足2年チャート

(3)エフィッシモ・キャピタル・マネージメントVS電気量販店大手のヤマダ電機 <9831>

最後に見ていくのが日本のアクティビストであるエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが電気量販店大手のヤマダ電機 <9831> の保有比率を下げた後の株価推移です。

2018年4月3日の株式変更報告書で、同社の株式を14.14%→13.26%と軽微ながら売却を行ったことを報告したエフィッシモ。

その後ヤマダ電機は4月13日に業績の下方修正を発表し値を大きく下げています。

大量の資金を動かすファンドにおいては株式購入・売却のタイミングが非常に重要ですが、このケースでは偶然にも下方修正で損失を被るリスクを軽減した売却をしていることが分かります。

先にも書いたように、どちらかというとアクティビストは中長期目線であるため短期の株価にはこだわっている場合が少ないですが、リターン確保のためのリスクマネジメントはファンドとしての利益を確保するために大事なことだと言えます。

ヤマダ電機 <9831> 日足2年チャート

これらの例からわかるように、アクティビストの売買動向はその銘柄の需給バランスの変動に強く関与してくることが分かります。

大量保有がわかれば買いが入り、保有銘柄の売却がわかれば売り圧力が強くなる、というのが少なくとも数か月の需給動向やその銘柄の売買センチメントに影響を与えていることは間違いありません。

ファンドの大量保有についていくのはいわゆる「イナゴ投資」で褒められたものではありません。

買ったあとは売って利益を得る必要があるというのは我々個人投資家にも当てはまるものですが、いつ売るかのタイミングは常に考えておきたいポイントであると言えます。

3、アクティビストのメリットと問題点を考える

何度か触れてきたように、アクティビストの最も大きな特徴はその投資行動が株価・需給動向に少なからず影響を与えるという点です。

また通常のファンドと異なるのは、「コーポレートガバナンス・企業価値の向上」「株主還元策の提案」を活動理念に掲げるアクティビストが多いということでしょう。

企業の株主に対する考え方が変わることにより配当金向上などのかたちで株主還元が改善されるようであれば、アクティビストの活動は我々個人投資家にとってもメリットとなりうると考えられます。

問題点としては「物言う株主」としての動きが企業活動を阻害してしまいかねない、ということが挙げられます。

前述した株主還元策の提案にはじめ、買収阻止や取締役の交代を求めるといった活動はアクティビストにとって珍しくないことですが、一方の企業側としては鼻につく行動であるパターンも否めません。

アクティビストと企業がどう折り合いをつけていくか、というのは永遠の課題であると言っても良いかもしれません。

日本におけるアクティビストとしては元村上ファンドに在籍していたメンバーが創立したエフィッシモ、ストラテジックキャピタル、レノなどが有名です。

またそういったファンドと同じくコーポレートガバナンスの向上を狙う投資会社としてJapan Actなども名が上がるでしょう。

Japan Act

 

Japan Act企業理念のページを見てもわかる通り、アクティビストの基本的な活動は企業価値の向上を目指しつつもリターンを狙っていくというものです。

通常の投資ファンドというのは投資手法や投資哲学はあるものの、あくまでもリターンありきで企業価値、ひいては社会における株式会社の存在をよりよいものにしていく、という考えは薄いと言えます。

一方でアクティビストはより大きな視野・視点を持ち、投資を通して企業・社会を変えていき、その先に自らのリターンを得る、というような考え方をしていることが多くなっています。

このあたりは書き方次第で何とも言えるのですが、Japan Actのニュースのページを見てもわかるように、アクティビストとしての活動をしっかりと行っているかどうかというのは自社のリリースやニュースサイトでも多く報じられています。

短期売り抜けを狙っている投機的な動きを狙っているのかどうか、というのも大量保有報告書を確認すれば一瞬で分かってしまうことなので、資金力のある大口がどういった投資行動を行っているのか、というのは簡単にわかってしまうことなのです。

まとめ

ここまでアクティビスト(の株式保有・撤退)が株価に与える影響、アクティビストのメリット・デメリットについて見てきました。

最初にも書いたようにアクティビストの存在は株式市場にとって再び大きなものになってきつつあり、その存在感は年々強まってきています。

こういったアクティビストの投資行動を知ること、また彼らの投資理念を知ることが重要になってくると言えるでしょう。

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