アクティビストの標的になる企業の5つの特徴とその対策

アクティビストは投資先企業に対してさまざまな提案や要求を行い、企業価値を向上させて利益を得ることを目的としています。

そのため、彼らの標的となるのは、企業価値の向上余地がある企業、つまり経営に課題を抱え、改善余地のある企業です。

ではアクティビストの標的となる企業には、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。

1、アクティビストの標的になる企業の特徴

(1)投資家(株主)との対話をないがしろにしている

アクティビストによって格好のターゲットとなるのが、投資家(株主)との対話をないがしろにし、提案や要望も門前払い、誠実に向き合おうとしないような企業です。

アクティビストの中でも空売りファンドといわれる投資家は、標的とする企業の株を空売りすると同時にガバナンスの欠陥を指摘し、株価を引き下げることによって利益を上げようとします。

投資家との対話をないがしろにするような企業は、投資家との信頼関係が往々にして希薄で、投資家への情報提供も不十分であることが多く、ネガティブなニュースが出れば投資家はすぐに離れていってしまいます。

空売りファンドはこれを利用するのです。

グラウカス・リサーチ・グループVS伊藤忠商事

2016年には、米国の空売りファンド、グラウカス・リサーチ・グループ(以下、グラウカス)が伊藤忠商事を標的としました。

グラウカスは、「伊藤忠商事の過去の決算で利益の過大計上の恐れがあり、株価は現状の半値以下が妥当」だと指摘します。

これに対し伊藤忠商事も、「監査法人による監査を受け、適切な会計処理を実施している」とすぐさま反論しますが、その日同社株は一時10%超下落して年初来安値を更新、終値でも6.3%の大幅安とグラウカスの狙い通りの展開となりました。

グラウカス・リサーチ・グループ公式サイト(英語)

(2)社外取締役の機能不全

社外取締役には、株主の代表として、独立した立場から経営を監視する役割が求められます。

しかし実際には名ばかりで機能不全の社外取締役も多く存在しており、このような状況では、不適切な経営に歯止めがかからず企業価値を大きく損なう要因ともなります。

こういった不健全なガバナンス体制の企業は、アクティビストにも狙われやすくなります。

■東芝

2015年に12億ドルの粉飾決算、2017年には原発子会社ウェスチングハウス・エレクトリックの破綻によって債務超過となり、一時は上場廃止寸前まで陥った東芝。

実は経営陣の違法な行為に対する監視機能強化を目的とする委員会設置会社に日本でいち早く移行しており、ガバナンスの優等生といわれていた会社でした。

しかし巨額の粉飾事件の発覚によって、社外取締役が機能していないことが明らかとなったのです。

委員会設置会社では、独立性の高い社外取締役を中心に企業統治が行われることから、通常は会社の透明性が高まるとされます。

しかし東芝の場合には、社外取締役の財務に関する知見が不十分であったり、適切に情報が上がってこないなど、委員会設置会社、社外取締役がその機能を果たしていなかったのです。

(3)株価の低迷するキャッシュリッチ企業

多額のキャッシュを保有しながらそのキャッシュを有効に活用しきれず、株価が低迷している企業。

そのような企業も、アクティビストにとっては短期的に利益を狙える“おいしい”投資先です。

必要以上の内部留保を抱えて非効率な経営を行っているのであれば、株主に還元しろというのは株主としてもっともな主張です。

将来に備えて資金を保有しておきたいという企業側の反論もあるでしょうが、低金利によって低コストで資金調達が可能な現状では、やや説得力に欠けてしまいます。

このような企業に対して株主還元を求める提案や要求は頻繁に行われており、欧米に比べROE(自己資本利益率)が半分程度に止まるなど経営効率の悪さが指摘される日本企業は、アクティビストにとっても格好の標的となっています。

Japan ActVSサンエー化研

一例として2019年の株主総会では、独立系投資会社Japan Actがサンエー化研に対して、1株あたり41円の配当を求める株主提案を行っています(会社提案は9円)。アクティビストの提案にはやや極端な内容のものも多く、そのままの形で受け入れられるケースはまだ少ないものの、提案を受けて企業側が配当を引き上げるなど、一定の成果も現れています。

JapanAct公式サイト

(4)親子上場

親会社とその子会社がともに上場する親子上場は、ガバナンス欠如の典型例とされています。

それは親子会社間では利益相反が常態化してしまうところに原因があり、子会社を完全子会社化する際にはそれが如実に現れます。

親会社の株主にとってはなるべく安く子会社株を取得することが利益となる一方、子会社の株主にとっては親会社になるべく高く株を買ってもらうことが利益となり、完全な利益相反となるのです。

オアシス・マネジメント・カンパニーVSパナソニック

2016年、パナソニックが子会社のパナホームを完全子会社化すると発表した際には、パナホームの株主であったアクティビストファンド、オアシス・マネジメント・カンパニーが交換比率の問題点を指摘します。

それによって株式交換からTOB(株式公開買い付け)へ完全子会社化の手段が変更されました。

買付総額は923億円と当初より約150億円増加し、問題点を指摘したオアシス(パナホーム)側に有利な条件で決着しています。

オアシス・マネジメント・カンパニー公式サイト

(5)買収防衛策を導入している

米国の議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)のガイドラインには、買収防衛策を必要とすること自体、取締役会が自社の株価バリュエーションが低く、買収のターゲットになりやすいことを認めていると解釈できると示されています。

また、株主が望む株主価値向上への施策もなく買収防衛策を求めるならば、経営者の保身と判断されるともいっています。

アクティビストが買収提案を行うのは、多くは、業績が悪く株価が低迷している銘柄です。

つまり積極的に買収防衛策を導入しようとする企業は、業績が悪いからどうぞ買収してください言っているようなものなのです。

また買収防衛策を導入したとしても、実際に発動するためには、買収者が「濫用的買収者」であると裁判所によって認められなくてはなりません。

しかし、アクティビストが買収提案を行う際には企業の中長期的な成長プランを提示しているはずであり、濫用的買収者と認められる可能性はかなり低いと言えます。

*濫用的買収者:自身の短中期的利益の獲得を目的に企業の株式を取得し、株主の権利を濫用する事によって企業価値を損ねる活動を行う株主のこと。

そういったことから、パナソニックやカプコン、テルモ、日清食品ホールディングスなど、買収防衛策を導入していた企業も相次いで制度の廃止に動いています。

 

2、アクティビストに対する企業の対抗策

アクティビストの提案や要求は企業側にとって耳が痛いものが多く、ときに買収といった強硬手段にでることさえあります。

企業としてはアクティビストの標的とならないに越したことはありません。

しかしそれはアクティビストの意見を無視しろということではなく、アクティビストの付け入る隙を与えないよう、日頃からしっかりとした経営を心がけよと言うことです。

では企業はアクティビストにどのように備えればいいのでしょうか。

それにはまず株主価値を意識した経営を行い、市場から常に適正な評価を得られるような経営を心がけることです。

なぜならアクティビストは、企業本来の価値と市場での評価が乖離している企業を標的とし、その乖離を自らの働きかけによって取り除くことで利益をあげようとするからです。

また株主目線で経営を行うことも重要であり、株主の代表として経営を監視する役割を持つ委員会設置会社や社外取締役といった仕組みを、形式的に導入するだけでなく、しっかりと機能するように企業統治体制を構築していくこと、それこそがアクティビストに対する対抗策となります。

3、今後の企業の危機管理の重要性

コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの整備によって、従来は“安定”株主として会社側を支持していた機関投資家でさえ、合理的な判断に基づいて会社提案に反対し、あるいは株主提案に賛成するようになり、もはや“安定”株主ではなくなってきています。

経営陣は効率の悪い経営をダラダラと続けていれば、いつ株主からクビを宣告されてもおかしくない状況になってきました。

企業はそのような危機感を持って経営効率の改善や、株主価値を意識した株主目線での経営に務めなければならなくなっているのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

アクティビストの標的になる企業は、狙われるような問題点、改善点を抱えている企業にほかなりません。

アクティビストの提案や要求は、ときに過激で極端なものも含まれますが、その内容は往々にして合理的で、意を得た内容と言えます。

企業にはそういった意見に耳を傾け、危機感を持って効率的な経営や株主価値を意識した経営に努めることが求められているのです。

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