2019年6月に株主総会を開催して株主提案を受けた企業は過去最多の54社にのぼり、株主重視の経営が求められる流れの中で株主提案数は増え続けています。
ではこれらの提案は、提案を受けた企業そして株主にどのような影響があるのでしょうか。
ここでは株主提案にはどのような意義があるのか、実例を通してみていきましょう。
1、株主提案権とは
株主提案権とは、株主総会において決議事項とされる議案を提案する権利を言います。
経営に参加する権利として株主に与えられるもので、議題提案権、議案提案権、議案通知請求権の3つの権利が含まれます。
ただしすべての株主に与えられるものではなく、取締役会設置会社では一定数以上の議決権を保有する株主のみにその権利があります。
株主提案権を有する株主 | |
取締役会非設置会社 | すべての株主 |
取締役会設置会社(公開会社) | 総株主の議決権の100分の1以上の議決権または300個以上の議決権を6ヶ月前から継続して有する株主 (*)100分の1以上、300個以上、6ヶ月前という要件は定款で緩和可能 |
取締役会設置会社(非公開会社) | 総株主の議決権の100分の1以上の議決権または300個以上の議決権を有する株主(保有期間要件はなし) |
株主提案権を有する株主は株主総会の日の8週間前までに、法令等に則った方法により請求することで株主提案を行うことができます。
ただし実質的に同一の議案については、株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していなければ、会社はその議案を株主総会で会議にかけなくても良いとされています。
これには同様の内容の株主提案が多数乱発されて、株主総会の円滑な進行が阻害されないようにするといった目的があります。
2、アクティビストによる株主提案の意義
コーポレートガバナンス・コードやシュチュワードシップ・コードといった企業統治ルールの改訂などもあり、企業側には株主との対話や利益を重視した経営、投資家側には経営陣を監視し責任ある投資がより強く求められるようになりました。
もの言う株主とも言われるアクティビストは大きく、会社・経営陣に対し敵対的な姿勢で臨むアクティビストと、友好的な姿勢のアクティビストに分かれます。
敵対的なアクティビストは、敵対的TOB(株式公開買付)などを行い投資企業の株式を大量に保有して経営権を握ろうとしたり、委任状争奪戦(プロキシーファイト)などを行うなど、その手法は強硬的ともいえる部分もあります。
そのため会社の経営に株主は口出ししないといった考えのある日本では、経営陣に対して厳しい意見や要求を行うアクティビストは、その主張が合理的なものであっても悪者のようにみられる傾向がありました。
しかし、日本市場においても外国人投資家の割合が高まり、企業と株主との対話が重視されるようになり、アクティビストが活動しやすい環境となってきています。
また最近では企業と対立するのではなく、対話を通して企業の成長とともに自らの利益の実現を目指す友好的なアクティビストも増えています。
アクティビストの株主提案は、経営陣に対しNOを突きつけることでもあります。
しかし企業は株主のものであり、適切な経営ができないであれば、それは当然です。
それによって経営陣がより企業価値の向上や資産効率を意識した経営を行うようなれば、企業と株主双方にメリットを生みます。
これこそアクティビストによる株主提案の意義と言えるでしょう。
3、アクティビストによる株主提案の実例
(1)GMOインターネット株式会社に対するオアシスの株主提案
投資会社オアシス・インベストメンツⅡ・マスター・ファンド・リミテッド(以下、オアシス)は、2018年3月に開催されたGMOインターネット株式会社(9449、以下GMO)の株主総会において、以下のような6件の株主提案を行いました。
【オアシスからの株主提案内容の概要】
- 当社株式の大規模買付行為に関する対応方針(買収防衛策)の廃止の件
- 定款一部変更の件(買収防衛策の導入方法)
- 定款一部変更の件(指名委員会等設置会社制度への移行)
- 定款一部変更の件(取締役社長と取締役会議長の兼任禁止)
- 定款一部変更の件(累積投票による取締役選任について)
- 取締役(監査等委員であるものを除く)の報酬額設定(少数株主の利益と連動する報酬体系の採用)の件
この提案に対してGMOの取締役会側は反対を表明します。
GMOの熊谷正寿社長は、提案に対する意見(反論)のなかで、オアシスは企業価値を上げようとしてくれている味方であると述べていますが、実質的には対立する構図となりました。
結果的には株主提案はすべて否決されていますが、「大規模買付行為に関する対応方針(買収防衛策)の廃止」(賛成比率45%)、「定款一部変更の件(取締役社長と取締役会議長の兼任禁止)」(賛成比率22%)など、提案には一定の賛同が得られています。
GMOの熊谷社長が同社株の保有比率が4割超える一方、オアシスの保有比率は約5%(2017年末時点)にとどまります。
そのような状況の中でもこれだけの賛成票が得られたということは、オアシスを除く少数株主の多くが賛成したということです。
国内の大手運用会社の多くは買収防衛策に原則反対の方針を掲げており、そういった要因もあるのでしょう。
まだまだアクティビストの株主提案が可決される事例は少ないものの、この事例からも提案に対して他の株主からの賛同が得られやすくなっていると言えます。
(2)黒田電気に対するレノの株主提案(可決事例)
旧村上ファンド系の投資会社であるレノは、シャープ向け取引の減少で苦戦する黒田電気(現在は非上場)に対して、他社との経営統合や自社株買いによる株主還元の拡充を要求しました。
2017年6月には、その推進役として安延申氏を社外取締役に選任するよう求める株主提案を行い、6割近い賛成を得て可決されます。
黒田電気の経営陣はこの株主提案に反対していたため、実質的に経営側の敗北という形で決着しました。
これを受けて黒田電気は2017年10月、アジア系投資ファンド・MBKパートナーズ傘下のKMホールディングスによるTOBを受け入れ、傘下に入る選択を行いました。
これにより黒田電気の株価は1週間で33.6%急騰しています。
これはアクティビストによる株主提案が可決された数少ない事例であり、株主提案によって株主価値が向上することを示めした事例ともなりました。
(96ut.com 株価時系列データより作成)
(3)出光興産株式会社に対する旧村上ファンド系投資会社の動向
長年交渉が停滞していた出光興産(5019)と昭和シェル石油(5002)の経営統合は、今年に入ってから大きな進展をみせました。
これにはアクティビストとして一世を風靡した旧村上ファンド代表・村上世彰氏の助言が大きな役割を果たしたとされます。
村上氏は出光創業家の相談役として助言を行っており、株主目線で誠実に関わろうということから、今年初め自身でも出光株を1%弱取得しています。
また旧村上ファンド関係者が運営する投資会社も出光株を保有しており、週刊ダイヤモンド誌の取材ではその保有比率は2%前後とみられており、その動向には注目が集まっています。
なぜアクティビストである旧村上ファンド系投資会社が出光株を保有するのでしょうか。
それは出光の株主還元が不十分であることが要因とみられています。
2017年度の出光の配当性向は10.2%と、業界トップのJXTGホールディングスの同年度の配当性向(17.9%)と比べてかなり低く、業界内でも最低水準でした。
それに対してアクティビストだけでなく機関投資家からも株主還元を求める声が上がるような状況となっています。
また昭和シェル石油との統合効果について、両社が示した目標が保守的であったため、経営合理化の余地を残す形ともなっており、いつ株主からの改善要求があってもおかしくはないといえる状況です。
現在はまだ具体的な要求や株主提案などは行われていませんが、今後の動向には注目しておきたい事例といえます。
4、アクティビストJapan Actの活動事例
公式サイト:Japan Act
(1)株式会社サンエー化研に対する株主提案(2019年6月)
株式125,000株(発行済株式総数の約1.1% *2019年3月31日時点)を保有する株式会社サンエー化研(4234)に対して、Japan Actは大幅な増配を要求しました(株式会社サンエー化研株主提案書)。
Japan Actは、サンエー化研が潤沢な資産を有効活用することなく、低PBR、低ROEの経営を継続しつつ、政策保有株式を過大に保有し、株主還元策を講じてこなかったことに対して、増配を通した株主還元を図り、企業の経営改善を要求しました。
サンエー化研の営業キャッシュフローは、上場以来19期間にわたり安定して黒字で推移し、同期間における総資産は49.0%、純資産は88.7%増加したものの、売上高は16.4%、経常利益は1.2%しか増加していなかったのです。
潤沢な資産の使途は、大幅な増配が実施されることもなく、保有目的が明確でない政策保有株式を過大に保有しているのが現状でした。
6月に開催された株主総会では、会社提案は可決、株主提案は否決という結果となりましたが、過大に保有する投資有価証券の縮減の方針・考え方について、会社側から方針を示す旨の回答が得られるなどの一定の成果にもつながっています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
企業統治ルールの改訂や好景気などの影響もあり、株主提案の数は増加傾向にあります。また、株主提案が可決されることはまだ稀とはいえ、提案が受け入れられる土壌は着実にできてきています。