世界の株式マーケットが大暴落を見せた2008年のリーマンショック。それから早くも約10年が経とうとしており、株式市場は当時を忘れさせるほどの復調を遂げています。
2016年のBrexit騒動、トランプ大統領就任のような多くの人の予想に反するようなイベントや、金融引き締め開始によるゴルディロックス相場の終焉をトリガーに、再びマーケットに暗雲が立ち込めてもおかしくない、という一抹の不安は常に付きまとっています。
はじめから、必要以上に不安な表現をしてしまいましたが、今回は日々変わりつつあるグローバルな政治経済・金融市況の中、高い投資リターンを出し続けているアクティブファンド「ひふみ投信」を中心に、その現状とこれからについてチェックしていきましょう。
高い人気を誇り、純資産額が増え続けるひふみ投信ですが、果たしてこれからもその高いパフォーマンスは維持され続けるのでしょうか?
1、投信販売ランキング1位の座に君臨し続ける「ひふみ投信」の現状
投資をしている方であれば、「ひふみ投信」の名前を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
2012年のファンド設定来実績は2018年8月31日時点で+411.5%と、同期間のTOPIXのパフォーマンスの+94.9%を大きく上回っています。
(ひふみ投信はTOPIXをベンチマークとして置いています)
純資産総額も増加の一途をたどり続けており、SBI証券の投資信託販売ランキングでも長い間1位をキープしているなど、非常に注目度が高いファンドです。
出典:ひふみのあゆみ
(1)3つの特色
目論見書(投資信託の詳しい説明書のようなもの)によると、ひふみ投信の主な特色は3つ。
1.国内外の上場株式の中から、市場価値が割安である銘柄を調査し、長期的な投資を行う
2.利益確定、リスク回避のために株式・現金の組み入れ比率を状況に応じて変化させる
3.運用はファミリーファンド方式を用い、マザーファンドを通じて行う
国内要因・外部要因に気を払いながら、ポートフォリオの構成比率を組みなおすことがひふみ投信の大きな強みの一つと言えるでしょう。
出典・引用:ひふみプラス
また1.の企業調査に関しては、非常にユニークかつ時間をかけた精密なリサーチが行われており、ひふみ投信の代表である藤野英人さんが書かれた書籍の中にもその調査方法に関して述べられています。
「ホームページに役員の顔写真がない会社」「会議室にホワイトボードがない」会社はダメ、といったような視点が著書『投資レジェンドが教える ヤバい会社』で書かれていますが、様々な気づきをデータ化することに加え、徹底的な調査によってひふみ投信の投資先は決められている、ということができます。
(2)バンドワゴン効果
代表の藤野英人さんはカンブリア宮殿、ワールドビジネスサテライトなどメディアにも多数出演しており、その知名度の高さからひふみ投信には人気が集まっているとも言えるでしょう。
行動経済学の用語に「多数の人間がある選択肢を選んでいると、その選択肢を選ぶものが更に増える」という意味の「バンドワゴン効果」という言葉がありますが、ひふみ投信の人気もそれに近しいところがあり、人気だから更に人気になる、買われている事実が更なる買いを呼ぶ、というような構図になっていると考えられます。
この投資行動に関しては金融リテラシーが低い日本人らしい、と言えますが、中には「よく分からないが儲けられるものは買っておこう」という層が少なくない数いることも予測されます。それだけに基準価額が大きく下がるような場合が続いてしまうと、現在の動きの逆回転となり資金流出が続く、という負の側面が強く表面化してしまうことも考えられるだけに、ひふみ投信としてはよりセンシティブにこれからの資産運用を行っていく必要があると言えるでしょう。
2、ひふみ投信の投資方針の変化
先ほども少し触れたように、投資者が増え、ひふみ投信の純資産額が増えることは一概にはポジティブなものとは言えません。
松井証券のインタビューにて、藤野英人さんがテレビ番組出演後に純資産残高が増加したことを嬉しい悲鳴として語っていますが、それと同時にこれまでメインに選んできた投資先を少しずつ変えていき、米国・大型株への投資や、IPO株への投資、そして国内大型株への売買も行うことで日本の「再生」と「成長」を応援する基幹ファンドをめざしていく、との発言もしています。
(1)組み入れ比率の変化
その言葉通り、直近の銘柄の組み入れ比率を見てもポートフォリオの内容に変化が生じてきていることが分かります。
過去数年は中小型株・大型株をメインに組み入れていたものの、2018年8月の組入銘柄をチェックしてみると、上位3位にはAMAZON、VISA、MICROSOFTといった米国株が名を連ね、中小型株の割合が少なくなっていることが見て取れます。
純資産額が増えた場合、その増額分を新たな中小型株へ投資する、もしくは既に保有している中小型株を買い増しする、という方法ももちろんありますが、前者の場合はリサーチに時間やコストがかかってしまうこと、後者は大量保有が更に進んでしまうことで流動性の面で不安が出てくる懸念点があります。
(2)TATERUの不正融資問題
2018年8月の月次報告書「ひふみのあゆみ」を見ると、TATERU <1435>が中小型株のひとつとして組み込まれていますが、TETERUの不正融資問題が報じられたことにより1/3ほどに株価が下落するような場面も見られました。
こういったリスクがあった際に過度な大量保有を行っていると下落する際にその株を撒ききれず売り圧力・下落要因として作用してしまうようなケースもあるのです。
(3)TOPIX連動型の問題点
ひふみの投資方針や藤野英人さんの発言からは「TOPIXの動きをアウトパフォームする」意志を強く感じますが、純資産額の増加とともに、その投資スタイルにも徐々に変化が出てきていると言ってよさそうです。
増えた資産額を大型株に投資することでバランスをとりつつリターンを狙いに行く、という手法を取りつつあるわけです。
根幹にあるのは先ほど紹介した特徴の一つである「国内外の上場株式の中から、市場価値が割安である銘柄を調査し、長期的な投資を行う」点に変わりはありませんが、直近のひふみ投信とベンチマークであるTOPIXの値動きが連動しているような場面も見られ、大型株にやや偏重を置き始めた側面が出てきていると言えるでしょう。
投資方針が徐々に変わりつつあること自体には問題はないのですが、問題は下落相場が続いた際や、TOPIXをアウトパフォーム出来なくなってしまうような場合です。
とは言え外野からこういった言葉が出るくらいですから当の運用者は余程気を遣っていると思いますが、はじめに書いたように政治・金融政策に動きがある中で、ひふみがこれからも結果を出し続けていけるかどうかに注目が集まるところです。
3、投資方針・投資戦略から投資先を選定する重要性とおすすめファンド4選
(1)自分で考える投資先
「ひふみは設定時から大きく値上がりしているし、ひふみに投資をしておけば絶対儲かるんでしょ」…といったような思考停止の投資家たちは少なくない数いると思われます。
上昇相場で調子に乗っているときは良いものの、懸念すべきは下落相場、そしてひふみの狙い通りに市況が動かないような場合です。
ひふみのポートフォリオは何だかんだ言って業種・会社規模などバランスよく組まれていると言えますが、前述したように今後従来通りのパフォーマンスを出し続けていけるかどうかには疑念も募るところです。
我々投資家は様々な情報をインプットしながら、自分の頭で考えて「自己責任で」投資を行っていく必要があります。
仮に投資信託を購入する場合でも様々な種類のものがあることを知っておき、リスクを感知したら柔軟な対応でキャッシュ(現金)の比率を高めたり、ローリスク型のものに切り替えたり、といった方法をとることも一つの手なのではないでしょうか。
(2)リスク分散の重要性とおすすめファンド4選
ここからはいくつかの投資信託・投資会社を紹介していきますが、それぞれの特徴を知るとともに、「卵はひとつのカゴに盛るな」というリスク分散の重要性を説く言葉を思い出しながら、これからの投資行動を考えていきましょう。
①三菱UFJ国際-eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)
三菱UFJ国際-eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)
国内外の株式・債券・REITなど8つの金融商品をバランスよく組み込んだファンドです。
信託報酬が年率0.1728%(ひふみ投信は1.0584%)であり非常に低いこと、バランスよいポートフォリオとなっているため比較的ローリスクローリターンなファンドであると言えるでしょう。
②三井住友TAM-日本債券インデックス
こちらは国内債券・中長期債を主な投資対象としており、上記のeMAXISよりも更にリスクを押さえた商品となっています。
2010年の設定来の投資パフォーマンスは+13.31%とひふみのようなアクティブファンドに対しては見劣りするものの、安定した値動きで結果を出しているファンドだと言えるでしょう。
③ダイワ 日本株・バリュー発掘F・H(ダイワSMA)
投資一任口座専用ファンドである当投資信託は、ひふみ同様「割安な銘柄に着目して投資を行う」バリュー投資をメインの投資指針としています。組み入れ銘柄はひふみより時価総額の小さな会社が多くなっていますが、ここ5年のトータルリターンは+10.46%と悪くなく、また分配金もあることが特徴的なファンドです。
④One-AR国内バリュー株式ファンド (愛称:サムライバリュー)
One-AR国内バリュー株式ファンド (愛称:サムライバリュー)
こちらも「ダイワ 日本株・バリュー発掘F・H(ダイワSMA)」と同じく、中小型バリュー株をメインのターゲットとしてポートフォリオを組み込んでいます。
年間収益率を見てみると2015年は+5.1%、2016年は+10.0%、2017年は+13.6%…と、安定した結果を出しています。
ひふみともダイワの商品とも組み込んでいる銘柄が異なっているため、組み入れ銘柄をチェックしながら投資先を選ぶというのも一つの手でしょう。
4、一味違う「アクティビスト」Japan Actの投資に妙味
ここでご紹介するのは、ひふみのようなアクティブファンドとやや似ている形態ではありますが、「アクティビスト(物言う株主)」としての活動を通して企業価値向上、株主価値向上、ひいては投資リターンを高めることを一つの目的としている投資会社Japan Actです。
時価総額が比較的小さな会社の株式を一定数保有し「投資企業への戦略的関与」「積極的な議決権の行使」等を図って投資リターンを狙っている、というのがここまで紹介してきたファンドとは大きく異なる点でしょう。
こういったアクティビストがリターン同様、非常に重視するのが「コーポレートガバナンスの改革」で、投資家として利益を出すことはもちろん、自らのビジョンを企業・社会に浸透させていく、という非常に大きな理念を掲げています。
先ほど紹介したバリューファンドやひふみも似たような投資手法をとっているのですが、Japan Actの称賛に値するところは、高いビジョンを持ちながらリターンの最大化を図るという点です。
「人気だから」という理由のみで、ひふみ投信をはじめとしたファンドに目を向けるだけでなく、自らのリスク分散のためにも様々な投資商品・ファンドについての情報は手に入れておきたいところです。
まとめ
ここまでひふみ投信の特徴や、その投資方針の変化、そして投資先企業の重要性などについて見てきましたがいかがでしたでしょうか。
仮想通貨バブルのように、悲しいことに日本人はとにかく「簡単に儲けられる」という文句に釣られやすく高値掴みをしてしまう人が非常に多いです。
ひふみが同じ状態であるとは言えませんが、金融リテラシーの低い投資家たちの「質の悪い資金」が流入している、ということは決してポジティブな材料ではないと考えられます。
私たち個人投資家も、自分で考えることをやめず、様々な側面から投資先を選んでいく必要があると言えるでしょう。