資産運用の選択肢として、ヘッジファンドへの投資を検討している方は少なくありません。ヘッジファンドは、運用会社が私募形式で資金を調達し運用を行うファンドのことです。通常の証券会社で購入することができず、それぞれのファンドを販売する会社で直接契約することとなります。
しかし、ヘッジファンドに関しては情報が少ないことから、どのようなメリットがあるのかわからない方も多いでしょう。そこで今回は、ヘッジファンドの投資戦略やメリット、投資信託との違いをわかりやすく解説していきます。
ヘッジファンドとは?
ヘッジファンドとは、投資のプロがさまざまな投資手法を駆使して、市場の動きに関係なく利益を得ることを目標としているファンドです。自由度が高く、信用取引や先物取引も利用しながら運用しています。
ヘッジファンドの「ヘッジ」というのはリスクヘッジなどで使われている「避ける」という意味の英語です。複数の金融商品に分散投資を行い、下げ相場に対するリスクヘッジを目標にしているため、ヘッジファンドと呼ばれています。
ヘッジファンドと投資信託の違い
ヘッジファンドと投資信託の違いを簡単に説明すると、次の表のようになります。それぞれの項目について、詳しく解説していきます。
比較項目 | 投資信託 | ヘッジファンド |
---|---|---|
投資対象者 | 個人投資家 | 大口投資家、機関投資家 |
運用資金 | 最低100円から | 1,000万円〜 |
投資先 | 株、債権、不動産 | 株式、債券、先物、オプション取引 |
運用方法 | ベンチマークに合わせた運用方法(相対収益) | 絶対的にリターンを得ることを目的とした運用方法(絶対収益) |
投資対象者
ヘッジファンドでは、まとまった資金を運用でき、長期で保有してくれる方を対象にしています。そのため、大口の個人投資家や機関投資家などが対象となることが一般的です。
ヘッジファンドは長期的な運用を前提にしているため、途中でまとまった資金を解約されてしまうと、運用先などを見直さなくてはならなくなります。したがって、長期で資金を預けてくれる方が対象になるのです。
一方で、投資信託は少額で運用したい個人投資家などを対象にしています。投資信託は誰でも購入できるため「公募ファンド」と呼ばれますが、ヘッジファンドでは一部の人しか投資できず、「私募ファンド」と呼ばれています。
運用資金
ヘッジファンドでは、最低運用資金は1,000万円からの場合がほとんどです。少数の限られた大口投資家などから資金を集めることで資金の管理コストが少なく、運用する側にとってメリットがあります。
一方の投資信託は、証券会社によっては100円から運用できる積立投資型などもあり、少額から投資ができることが特徴です。流動性も高く、いつでも購入や解約ができます。
投資先
ヘッジファンドの場合、株や債券だけでなく、先物・オプション取引なども積極的に運用します。また、構成銘柄も指数に依存せず、銘柄分析などを通じて選定します。したがって、ヘッジファンドの方が組み入れ銘柄の選定に労力をかけます。
一方、投資信託の投資先は、株や債券、不動産などが中心として構成されます。銘柄ごとに、運用割合が定められています。
また、インデックスファンドやアクティブファンドといった指数連動型の投資信託の場合、対象となるベンチマークなどを基準に選定します。
インデックスファンド | ・対象ベンチマークの構成銘柄に投資 |
---|---|
アクティブファンド | ・対象ベンチマークの構成銘柄が大半 ・一部、値上がりの期待できる銘柄を構成 |
運用方法
ヘッジファンドでは、相場の状況などに関わらず、リターンを上げることを目標としている「絶対収益」の方針を取っています。そのため、銘柄の選定や投資タイミングなどを考えて運用しています。例えば、相場が下落していようともプラスの利益が出るように運用をするという手法が取られます。
一方、投資信託では運用の基準となるベンチマーク(指数)があります。アクティブファンドでもインデックスファンドでも、指数に連動するように運用するため、景気などの影響を受けやすく、下げ相場の場合にはリターンを期待できません。
ヘッジファンドの投資手法
先ほどお伝えしたように、ヘッジファンドではさまざまな投資手法を駆使しながら運用が行われます。例えば、代表的な投資手法としては、次のものが挙げられます。
- ロング(買い)とショート(売り)
- 先物取引
- ファンドオブファンズ
それぞれの投資手法の特徴やメリットについて確認していきましょう。
ロング(買い)とショート(売り)
投資信託とは異なり、ヘッジファンドでは信用取引でのショート(売り)注文を行います。
売りから入るということは、買い戻しをしたときに価格が下がっていると利益になるという仕組みです。そのため、値上がりしすぎた株式に対して株価が反発することを狙う目的でショート(売り)注文が利用されます。
反対の「ロング(買い)」は単純に値上がりを狙う注文で、現物取引や投資信託でも行われている手法です。
ヘッジファンドでは、ロング(買い)とショート(売り)を組み合わせて柔軟に投資が行われます。例えば、買い注文を行う銘柄と、売り注文を行う銘柄を適度に分散させ、相場の動きなど確認しながらバランス良く投資が行われます。
先物取引
先物取引とは、将来の取引について、現時点で価格をあらかじめ決めて売買を行う取引方法です。
例えば、日経平均株価指数の先物について、3ヶ月後に25,000円で買うという約束を行うのが先物注文です。もし、3ヶ月後に価格が上がっても下がっても、あらかじめ約束された金額で購入できるため、価格が上昇していた場合には割安で購入することができるというわけです。
先物取引の基本的な運用方法は、売買期日までに反対の取引を行うことで、差金による利益を得るといった方法です。例えば、日経平均株価指数の先物取引を25,000円で購入して、期日前に値上がりした段階で転売することで利益を得るといった形です。26,000円で転売できた場合、差額の1,000円分の金額について決済されます。
また、日経平均株価などの株価指数は「現物」や「商品」ではないため、そもそも購入して保有することができません。指数の先物の場合には、期日に現時点での価格と取引時の価格の差額分を決済する形になります。
先物取引では、ロング(買い)でもショート(売り)でもどちらの取引を行うこともできます。例えば、将来の価格が上昇するか下落するか予想できる場合は先物取引を行い、将来の価格差でリターンを得ることが基本的な運用の仕組みです。
ファンドオブファンズ
ファンドオブファンズは、複数のファンドへ投資するファンドのことです。複数のファンドで運用することで、より分散性が高くなります。
一つのヘッジファンドだけでは、運用を行う人の手腕や投資対象国、対象銘柄によってリスクもリターンも大きくなります。複数のヘッジファンドに投資を行うことで、一つのヘッジファンドが持つリスクを最小限に抑えることができます。
「複数のヘッジファンドに分散投資するだけなら自分でもできるのでは?」と思うかもしれません。しかし、自分で複数のヘッジファンドに投資する場合、それぞれのヘッジファンドの最低投資額が1,000万円ほどであることから、数千万円以上の莫大な投資資金が必要になります。また、ヘッジファンドごとの運用方針を理解して最適なヘッジファンドを複数選ぼうとすると、知識や時間が必要になります。そのため、個人投資家がヘッジファンドを分散投資させるのは難しいという側面があります。
一方で、ファンドオブファンズに投資すれば、プロが厳選したヘッジファンドに投資することができます。また、ファンドオブファンズは1,000万円から投資できるため、資金を抑えながら複数のヘッジファンドに分散させることが可能です。
ヘッジファンドのメリット
ヘッジファンドには次のようなメリットがあります。それぞれのメリットについて、詳しく解説していきましょう。
- リターンが大きい
- プロが運用してくれる
- 下落相場でもリターンが狙える
リターンが大きい
ヘッジファンドでは、投資信託以上の高いリターンを狙うことが可能です。
投資信託では、運用方法としてリスクを抑えることを前提に運用されているため、高いリターンは狙いにくくなっています。インデックスファンドやアクティブファンドでも、対象となる指数に連動して価格が変動するため、急激な値上がりなどは期待しにくいという特徴があります。
一方で、ヘッジファンドでは指数に依存せず、独自で選定した銘柄を運用するため、常にリターンを期待することができることが大きなメリットです。
プロが運用してくれる
ヘッジファンドの多くは、ファンドを運用する「ファンドマネージャー」が在籍しています。ファンドマネージャーは個別で銘柄を分析し、銘柄購入などのタイミングを分析する専門家です。
ヘッジファンドによって運用スタイルはさまざまで、複数のファンドマネージャーが運用を行なっている場合もあれば、単独のマネージャーで運用されている場合もあります。
また、ファンドマネージャー以外にも、アナリストやエコノミスト、ポートフォリオ分析の専門家などが在籍し、それぞれの観点から銘柄を分析することが一般的です。このように、ファンドの運用に多数の専門家が介入しているため、より専門性の高い運用を期待できます。
下落相場でもリターンを狙える
インデックスファンドやアクティブファンドの投資信託は、対象となるベンチマークに連動しているため、下落相場や景気の影響を受けやすいです。
例えば、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって株式市場は大きく下落し、日経平均株価も2020年3月に23,000円台から16,552円にまで急落しました(参照元:日経平均株価)。日経平均株価に連動するインデックスファンドを購入していた場合、20%近く暴落したことになります。
しかし、下落相場であっても、すべての銘柄が下落しているわけではありません。上場している会社の中には、景気悪化時でも業績を伸ばすところもあります。
ヘッジファンドでは、指数やベンチマークではなく「個別銘柄」にスポットを当てて投資するため、指数が下落している局面でもリターンを狙うことができます。将来の値上がりに期待が持てる銘柄を選定しているため、業績や事業内容、現在の株価なども加味されます。そのため、例えば割安株に投資をした場合に、一度株価が暴落しても株価が戻る可能性は高くなります。
ヘッジファンドのデメリット
一方で、ヘッジファンドはメリットばかりではなく、次のようなデメリットもあります。デメリットを考慮せずに購入してしまうと、思わぬ損失につながってしまう可能性もあります。
それぞれのデメリットについて解説していきましょう。
- 投資信託と比べて手数料が高い
- まとまった資金が必要
- 面談など申し込みに時間がかかる
投資信託と比べて手数料が高い
ヘッジファンドは、投資信託と比べて手数料が高めです。
ヘッジファンドでは、ファンドマネージャーやその他の専門家が銘柄や投資対象先、チャートの分析を行い運用しています。投資信託よりも運用に対する人件費が高くなっているため、コストが高くなります。
また、ヘッジファンドにはファンドマネージャーに支払う「成功報酬」があります。成功報酬は、ファンドの利益に応じて、ファンドマネージャーが手数料を受け取る仕組みです。
高い運用成績を残しやすいという性質を持つ分、コストがかかってしまうという点には注意が必要です。
まとまった資金が必要
ヘッジファンドでは、最低投資金額は1,000万円以上となっている場合がほとんどです。そのため、少額から始めることは難しいです。
不特定多数から資金を集めるよりも少数からまとまった資金を集める方がヘッジファンドの運用管理がしやすいためです。
投資信託では最低100円から投資を始めることができるため、ヘッジファンドで投資を始めるハードルは高いといえるでしょう。
面談など申し込みに手間がかかる
ヘッジファンドは私的に募集されているファンドであり、誰でも申し込みが簡単にできるというものではありません。
例えば、購入希望の場合はファンドの販売会社と直接面談を行い、ファンドの特徴やリスクについて理解した上で初めて契約することができます。
ヘッジファンドは高度で専門的な運用をしてくれるとはいえ、投資であるため絶対にリターンを得られるという保証はなく、リスクはつきものです。そのため、実際に面談を行なって、本当にリスクを許容できるかを自分で判断しなければなりません。
投資信託のようにネット証券などですぐに購入できるというものではありませんので、投資を始めるためにも時間がかかることには注意が必要です。
ヘッジファンドを見分けるポイント
これまでお伝えしてきたように、ヘッジファンドにはメリットもデメリットもあります。もちろん、世の中にあるヘッジファンドがすべて安心できる商品というわけではなく、詐欺的に運用されているものの可能性もあります。
そこで、ここではヘッジファンドを見分けるためのポイントについて解説していきましょう。
過去の運用成績を確認する
ヘッジファンドを見極める上で重要になるのが、過去の運用成績です。運用成績を見れば、どれだけ適切に運用されていたかがわかるからです。
例えば、次のような点に注意しましょう。
- 年間の利回り
- 毎年の平均利回り
- 大きく損失が出ている時期がないか
- 損失が出ていた際の理由や外部要因などがはっきりしているか
これらの運用成績を確認することで、投資しても良いヘッジファンドかどうかを見極めることができます。例えば、10年間運用されていて、年間の平均利回りが10パーセントであれば、高い運用成績を残せているといえるでしょう。
また、投資をする上で損失が出ることはあります。過去に、もリーマンショックやコロナショックなどで株価の暴落が発生しており、経済危機の際に損失を完全に防ぐというのは難しいことです。
損失を出している年があれば、なぜがマイナスになったのかという要因がはっきりしていれば問題は小さいでしょう。一方で、何の要因もなく大きな損失を出してしまっているファンドは上手く運用できていない可能性があります。
このように、まずは、運用実績について確認することをおすすめします。
リスクに関して説明してもらう
ヘッジファンドを見分ける上で重要になるのは「リスク」です。
基本的に、ヘッジファンドは少数の投資家から大口の資金を集めて運用します。ファンドの運用方針に納得して出資してくれる投資家以外から資金を集めるというわけではありません。
したがって、ファンドを運用する上で考えられるリスクについて、投資家に対して適切に説明する必要があります。逆に、リスクについての説明が不十分なファンドは「資金を集める」ということが目的となってしまっている可能性が高いといえるでしょう。
また、リスクについて説明してもらうことで、投資家はあらかじめ損失の可能性について知ることができるため、ファンド選びの参考になります。
おすすめのヘッジファンド
ここまで読んできて、ヘッジファンドで投資してみたいと思っている方も少なくないでしょう。しかし、ヘッジファンドに興味は持ったけれど、どのヘッジファンドを選べば良いのかわからないという方も多いと思います。
そこで、ここではおすすめのヘッジファンドを3つ紹介します。初めてヘッジファンドで投資を考えているという方は、まずは次の3つのファンドにあったってみることをおすすめします。
おすすめヘッジファンド | 特徴 |
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Japan Act | ・割安株への投資を積極的に行う ・株主として企業に対して提言を行う |
BMキャピタル | ・手数料は高いが、コロナショックでもプラスの利回りを維持した実績を持つ |
トータスパートナーズ | ・ESG投資を積極的に行う |
それぞれの特徴やメリット、デメリットについては、こちらに詳しくまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
ヘッジファンドの概要やメリット・デメリット、投資信託との違いについて解説しました。
ヘッジファンドは、投資信託よりも大きなリターンを狙いたい方で、投資する資金に余裕がある方向けのファンドです。リスクや投資手法についても確認しつつ、納得のいくファンドに投資するようにしましょう。
今回お伝えしたことを参考にして、ヘッジファンドでの運用を検討してみてはいかがでしょうか?