長く投資をやっている方にとっては当たり前のクエスチョンかもしれませんが、日本市場で取引される株式の売買代金のうち、最も大きな割合を占めているのはどんな投資主体でしょうか?
個人投資家?それとも証券会社?銀行?と多くの投資主体が思い浮かびますが、答えは「海外投資家」です。
日本の株式市場なのに海外投資家(資金の大きなヘッジファンドなどがメイン)がなぜ一番なのか?と思われる方も多いかもしれません。
なぜその占めるウェイトが大きいのか、という理由は後々詳しく触れますが、単純に言ってしまえば国内の資金を持っている金融機関などより海外マネーの投資資本の方が大きいからということになります。
つまり海外マネーをいかに日本市場に呼び込み、株・先物をはじめとした金融商品を買いでの投資対象としてもらえるかが、日本市場および我々個人投資家にとっても重要になってくるわけです。
今回はそんな海外投資家が日本市場でどういった存在であるのかを詳しく見ていくとともに、日本の株式市場の在り方の変化、そしてこれからの日本マーケットについて見ていくことにしましょう。
1、日本市場で大きな存在感を占めす海外投資家
さて、先ほども記載したように「海外投資家」というのは日本市場にとって非常に大きな、そして影響力を持つ存在です。
普段株式取引をしている方は「株式が買われれば株価が上がり、売られれば下がる」というのは言うまでもなく当たり前の認識だと思いますが、それは日経平均やTOPIXといった株式指数にとっても同じことで、これらは「指数を構成する銘柄の株価が上がれば指数も上昇する(逆も然り)」という相関を持っていると考えることができます。
つまり日本株が広く買われる=多くの買い資金が日本市場に流れてくれば指数は上がり、逆に資金が逃げていけば指数は下がる、ということになるわけです。
マーケットを動かすのは巨大な資金であり、それが株価上昇・株価下落の流れを作っていくのです。
毎週公表されている「投資主体別売買状況」と日経平均の関係性を見てみましょう。
少し説明が遅くなってしまいましたが、「投資主体」というのは以下の画像にも書かれている「海外」「個人」「投資信託」「信用金庫」などといった「株式取引を行っているプレーヤー」のことを意味しています。
今回は見やすくするために「海外」と「個人」のみを表示しています。
ローソク足で書かれているのが日経平均株価、水色の線が海外投資家の売買額、紫色の線が個人投資家の売買額を指しています。
これを見ると日経平均は水色の海外投資家の売買動向とほぼ同じような動きをしていることがわかると思います。
逆に、紫の個人投資家の売買動向は海外とは逆の動きをしていることが多いです。
個人投資家の多くが「負ける」とよく言われますが、この投資主体別売買状況を見ると逆張りをしている場面が多く、個人が負けやすいと言われる理由が良くわかります。
やはり日本市場にとって大きなマネーである「海外からの資金」というのは切り離せないものということができるでしょう。
海外の投資家は「日本の政権の安定度」や「日本の金融政策の動向」というマクロな視点で投資判断を行うことが多く、それだけに日本市場、および日本企業は「海外の投資家が投資をしたい」と思うようなマーケット環境・そして企業運営を行っていかなければならないわけです。
2、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップコードの改訂で日本市場に見直しの目
2015年5月、東芝の不正会計問題が世間を騒がせたのは記憶に新しいところです。
ひとつ前の項目で「海外投資家が投資したいと思えるようなマーケット環境・企業経営が重要」と書きましたが、日本を代表する大企業である東芝がこういった失態をしてしまうと日本市場全体のイメージが非常に悪くなることは誰にでもわかります。
(1)コーポレートガバナンス・コード
マーケット環境を整えること、そして健全な企業経営を行うために金融庁と東証(東京証券取引所)によって定められたのが「コーポレートガバナンス・コード」です。
直訳すると「企業統治指針」という意味になり、公平性や透明性を持った企業経営を行って業績向上および社会還元を行っていくための一つの決まりごとのようなものだと言うことができるでしょう。
(2)2018年6月コーポレートガバナンス・コード改訂
2018年6月にはコーポレートガバナンス・コードが改訂されています。
JPX(日本取引所グループ)のニュースリリースには『企業と投資家との対話を通じ、コーポレートガバナンス改革をより実質的なものへと深化させていくための改訂』ということが書かれていますが、投資と企業経営という強い結びつきのあるものの関係性をよりよくしていく必要があるという、金融庁の思いが感じられます。
(3)スチュワードシップコード
加えてコーポレートガバナンス・コードと同様に重要な指針であるのが「スチュワードシップコード」です。
コーポレートガバナンス・コードはどちらかと言うと企業統治指針という名の通り「企業の在り方」について言及しているものですが、スチュワードシップコードは投資家、中でも「機関投資家の在り方」についての原則が述べられているものです。
こちらも2017年5月に改訂版が公表されていますが、企業および投資家はマーケットに対し持続的に健全な存在であり続ける必要があります。
そういった環境の中で企業は企業活動および業績向上を行っていく必要があり、日本市場もそれは例外ではないということです。
現在新聞や経済ニュースで「ESG投資(ESGはEnvironmental:環境、Social:社会、Governance:統治 の頭文字)」や「海外投資家は日本企業にROEに注目」と言ったような言葉を目や耳にしますが、まずは大きな政治の安定性・金融政策・健全な企業統治というものが前提にあり、そこから更に視点を絞ってようやく業績やROEなどの投資指標の話が出てくるわけです。
日本市場は米国、欧州などに比べるとまだまだその地合いは整いきってはいないものの、日本のマーケットおよび個別企業に目を向ける海外投資家も多くなりつつあります。
3、アクティビストの日本進出に関する概要紹介
大きな資金を持つ機関投資家の中でも、特定の会社の株式を多く取得し企業経営に強い関わりを持つ姿勢をとっている主体を「アクティビスト」と呼びます。
積極的という意味を持つアクティブそのままのイメージで捉えると分かりやすいでしょう。
企業に提言を行うことで経営改善や更なる業績向上を狙い、そして株価の上昇を通して自らの投資パフォーマンスを上げようとするのが大きな目的です。
直近のニュースを見ていても海外アクティビストが日本株への投資を行っているケースは珍しくありません。
(1)アセット・バリュー・インベスターズ
2018年5月、英アクティビストのアセット・バリュー・インベスターズがTBS <9401> に対し更なる株主還元を行うことを提案。
(2)米アクティビスト株主のカール・アイカーン氏
2018年5月、米アクティビスト株主のカール・アイカーン氏が富士フィルムHD <4901>の買収計画に反対。
(3)バリューアクト・キャピタル
2018年6月の米大手アクティビストのバリューアクト・キャピタルのオリンパス <7733>の大量取得。
と、わずか数か月でもアクティビストに関するニュースが複数報じられています。
こういったアクティビストの最たる目的は「自らの投資パフォーマンスの向上」、そしてそれに繋がる「企業行動の改善」です。
直接的なところで言えば「内部保留を減らし、株主還元を増やせ」というような提言が目的に最も関係したものだと言えます。
アクティビストは他の投資家にとっては嬉しい存在であるかもしれませんが、企業側からすれば自分たちの経営方針とは違うことを言われないか戦々恐々でもあります。
コーポレートガバナンス・コードの内容の一つに「外部からの意見を尊重すること」といった旨の表記がありますが、自社の経営方針を一番にしたうえで柔軟な経営、そして株主との対応を行っていく必要があると言えるでしょう。
アクティビストは2008年~2009年のリーマンショック以降は一気にその数が減少したものの、ここ数年で活動が再び活発化しつつあり、我々個人投資家目線ではそういった大きな波の流れを捉えていくことが大事となりそうです。
4、アクティビストの扱う銘柄の株価推移は?
さて、ここで気になるのがアクティビストの扱う銘柄の株価推移です。
先ほども書いたように、企業経営を改善させ業績向上というケースもありますので、そういった場合は多くが株価上昇に繋がるはずです。
今回は前述した米バリューアクトが保有しているオリンパス <7733>、英アセットバリューが保有しているTBS <9401>を例に見てみましょう。
(1)米バリューアクトが保有しているオリンパス
(オリンパス <7733> 週足2年チャート)
米バリューアクトによるオリンパスの大量報告書が提出されたのは2018年5月31日、直近ではありますが、5月と現在8月の株価を比べると大きく値が上がっていることが分かります。
これがバリューアクトの影響とは一概には言えませんが、「巨額ファンドが個別日本株に投資」というのが日本投資家のオリンパス株買いを呼びこんでいるという側面は間違いなくあるでしょう。
(2)英アセットバリューが保有しているTBS
(TBS <9401> 週足2年チャート)
直近ではやや頭打ちとなっていますが、それでも2016年の安値と比べると+40%以上の値上がりとなっています。
2018年7月にアセット・バリュー・インベストメントのオフィシャルサイトでTBSの企業価値向上ならびに東京エレクトロン株の売却に関するリリースが掲載されています。
上に書いたコーポレートガバナンス等への言及も出てきていますので、一度目を通してみると良いでしょう。
5、日本の株式マーケットに変革期がきている
今日本でも「働き方改革」といった言葉を毎日のように耳にしますが、こういった抜本的な制度改革が個人のビジネスパーソンの働き方、そして企業経営に影響を及ぼすことは間違いありません。
アクティビストの中でESG投資を重視する投資家の中には、「従業員の働き方を改善できない企業には投資しない」といった姿勢を貫くファンドも存在しています。
2017年9月に放送されたNHKのクローズアップ現代+でもESG投資に関する特集が組まれていましたが、2020年の東京オリンピックを一つのターニングポイントに様々な企業でESGはじめコーポレートガバナンスに関する取組みが強化されつつあります。
ですがアジア圏の人々の低賃金労働のように根が深い問題も未だ多々残っています。
NHKのクローズアップ現代+
海外アクティビストの日本市場参入が増え、また2020年という世界が日本に注目する年に向けて企業が経営改善を行っていくなか、私たち投資家は上手くその潮流に乗っていくことが重要であると言えるでしょう。
働き方改革ひとつを例にとっても、実質的なブラック企業は未だ多く存在しており、各々の企業の取り組みが業績、そして株価パフォーマンスに影響を与えると言っても過言ではありません。
まとめ
今回は、アクティビストとそれを巡るマーケット環境・企業形態の変化について見てきましたがいかがでしたでしょうか。
企業にとって業績第一というのは、もはや昔の時代になりつつあり、「環境に配慮しているか」「従業員の生活を担保した企業経営が出来ているか」等といった別の視点が重要になってきています。
考え方が変わりつつあるというのは大きな投資機会であり、「これから良い方向に変わっていく企業」を見つけていくことが投資目線でも大事になってくるでしょう。
我々ひとりひとりもアクティビストになったつもりで「この企業がどうなったら更によくなるか?」といったことを考えていくのも面白いかもしれません。