「退職金を運用したいけど、下手に運用して失敗したら怖い」そう思っている方もいるのではないでしょうか?確かに、「退職金の運用で失敗」したという“怖い話”はよく見聞きします。しかし、実際に調べてみると、退職金を運用して失敗・損失を出した人に関する統計データは見当たりません。
結局、退職金の運用は危ないのか、失敗する人はそんなに多いのか。本当のところはわからないのです。大切なのは、メディアの情報に踊らされすぎずに、各家庭に適した運用をすることではないでしょうか。
今回は、FP(ファイナンシャルプランナー)として資産運用の相談を受けることの多い筆者が、退職金の運用で失敗を防ぎ、老後資金をうまく運用する方法を解説します。特に「初めて資産運用する」という方には、参考になるはずです。この機会に、退職金と老後のプランを考えてみてくださいね。
退職金の運用で失敗してしまう理由は3つ
まずは、筆者の経験上、まとまった資金を運用して損失を出してしまう方の特徴をお話していきます。退職金に限らず、まとまった資金を運用して失敗する理由の多くは、次3つに集約されます。
- 未経験で「いきなりハイリスク投資」に手を出す
- 「資金の取り崩し」方法を考えない
- 「運用の相談先」が偏っている
重要なポイントですので、それぞれ詳しく解説していきましょう。
未経験で「いきなりハイリスク投資」をしている
もっともよくあるのが、投資経験がないのにいきなりハイリスクな投資に手を出しているケースです。例えば、株式のデイトレードや信用取引、FXや仮想通貨など。話題性がありリターンも大きく見込める方法で「もっと増やそう」と考えて投資する方がいます。
こういった投資は、売買のタイミング(機会)に資金を投じて短期的な利益を得る「投機的取引」にあたります。投機的取引は短期間で資金を2倍・3倍にできる可能性がありますが、そのぶん短期間で資金が半分になってしまうリスクもあります。つまり、ハイリスク・ハイリターンな取引なのです。
老後生活を支える退職金の運用には、投機的取引は不向きです。投資未経験者が行う取引としても、ハードルが高すぎのでおすすめできません。
「せっかく受け取った退職金だからこそ、少しでも増やしたい」という気持ちはわかります。しかし、何十年も働いてきてようやく受け取った退職金を、一瞬の判断によって半分失っても良いのでしょうか?投機的取引では、「一瞬の判断」が命取りになることもあるのです。
退職金の運用で、色目をつけてはいけません。できる限りリスクを抑えるように気をつけ、安定的な収益を目指して運用するほうが失敗は防げるでしょう。
「資金の取り崩し」方法を考えていない
退職金に限らず資産運用でよくある失敗が、運用した資金の取り崩しをどうするか考えていないケースです。
例えば、退職金の半分を、複数の株式に投資したとします。株式は日々株価が動いているので、上がったり下がったりしますよね。運用を始めたときは「株価が上がった良いころ合いに、売却すれば良いや」と考えるものですが、実際「良いころ合い」を判断するのは難しいのです。
最初に「いつ、どのように株を現金に戻していくのか」を決めておかなければ、どのタイミングでいくらから売却すればいいのか、わからなくなってしまうのです。つまり、運用資金の出口戦略を決めておかないと、判断に迷って適切な時期に資金を使えなくなります。
資産運用を始めるときはしっかり勉強してあれこれ考える人が多いのですが、出口戦略のところまで考えられている人は意外と少ないです。
そこで、退職金を運用するときは、運用している資金をいつごろから現金に戻すのか、公的年金との兼ね合いも考え、老後のプランを決めておくことをおすすめします。以下のようなプランを決めておくと、プランにあわせた運用と取り崩しがしやすくなるでしょう。
資金の取り崩しプラン例
- 60歳:退職金を受け取る
- 60歳~70歳:退職後も仕事を継続。公的年金は繰り下げ受給にして、退職金も使わずに運用。日々の生活費は働いた収入から賄う
- 70歳:公的年金の受給を開始。運用した退職金は毎年100万円ずつ取り崩していく
上記はあくまで一つの例です。家族の希望や価値観など各家庭の状況にあわせて老後のプランを考え、安心できる出口戦略を考えるようにしてください。
「運用の相談先」が偏っている
退職金を手にして、初めて資産運用の相談をする方もいるでしょう。プロに相談して知見を得るのは大切なことですので、相談する行為は積極的に行うべきだと言えるでしょう。
しかし、相談先が偏っている場合は、そのまま偏った金融商品で偏った運用をしてしまう可能性があるため要注意です。
例えば、独立系のファイナンシャル・プランナー(FP)やIFAは、資産運用全般の相談を得意とします。特にFPは、顧客の将来設計をまず聞き出し、そのプランに合わせてプランニングをするのが仕事です。老後のプランをどうするか相談する際には、FPへの相談が適切でしょう。
しかし、独立系のFPの場合、各金融機関の扱う商品の中身をすべて知り尽くしているとは限りません。老後のプランについて相談できても、そのプランにあわせた金融商品の提案に偏りが出ることもあるのです。
独立系FPのデメリットは、FPの知識や経験、取扱商品によって提案が大きく変わってくるということ、つまり、同じFPでも人によってすすめられる商品が違う点にあります。
実際になんらかの金融商品を使って運用を考えるときは、保険会社や証券会社、銀行など特定の金融機関に所属する金融のプロに相談するのがおすすめです。金融機関に所属するプロは、自社で取り扱う金融商品のプロフェッショナルとして、商品知識を活用した、最善の方法を提案してくれるでしょう。
どちらが良い・悪いということはありませんし、個人によって力量も相性も大きく異なります。大切なのは、同じプロでもそれぞれ得意分野が違うということです。違いを知ったうえで幅広く相談し、さまざまな角度で退職金運用について考えられるようにしましょう。
退職金の運用を成功させるポイント
退職金の運用で失敗を防ぎ、成功に導くポイントは次の4点です。
- 資産全体でリスクを抑えた運用を心がける
- 運用資金と運用期間、資金の取り崩しイメージを明確にしておく
- 相談先は複数持って多角的な視点を身につける
- まずは自分で勉強し、プロに任せるか自分で運用するのか決めておく
失敗する理由でお話したように、退職金の運用でもっとも重要なのはリスクを抑えることです。
「リスクを抑える」と言うと、とにかく定期預金などの低リスク商品で運用しようと考えるかもしれませんが、そうではありません。家庭の資産全体でリスクを抑えるということです。
例えば、退職金と預貯金があわせて3,000万円あるとします。3,000万円のすべてを仮想通貨に費やすのはハイリスクですよね。ですが、3,000万円のうち100万円を仮想通貨、残りは定期預金や投資信託に分散すれば、ハイリスク運用とは言えませんよね。つまり、運用で大切なのは、バランスです。
一つの金融商品に集中的に投資するのではなく、複数の金融商品を組み合わせ、バランスの取れた運用を心がけましょう。バランス良く分散投資できれば、退職金を含む資産の値動きをできる限り抑えられます。
老後の生活費を退職金だけで過ごせるという人は、少ないと思います。だからこそ、退職金だけ見るのではなく、家庭の預貯金・金融商品すべてあわせてリスクコントロールしなければなりません。
したがって「退職金で何に投資するのか」よりも、「退職金を含む老後資金全体をどのような配分で、どのように投資するのか」を考えることが重要です。
運用初心者はプロに任せる方法がおすすめ
退職金の運用はまずご自身が勉強し、基礎的な知識を得ることが大切です。しかし、定年退職後も仕事を継続される方や、「投資は初めてなのでよくわからない」と不安な方もいるでしょう。
忙しい方や運用初心者には、プロに任せる方法をおすすめします。プロに資産運用を任せる方法であれば、初心者でも手軽にプロの運用成果を享受できます。勉強する時間がない方や餅は餅屋という考えの方には、プロに任せるという選択肢もあるのです。
もちろん、プロに任せる方法は無料ではありません。商品や方法によっても異なりますが、運用成果からは一定の手数料が差し引かれることがほとんどです。手数料体系やリスクの度合いにも留意したうえで、自分に合った方法を選びましょう。
次からは、退職金の運用をプロに任せる方法について、具体的な方法を解説していきます。
プロに任せる退職金運用方法
「退職金の運用を自分でするのが怖い」「忙しくて勉強や運用の時間がない」という方には、運用をプロに任せる次の3つの方法を紹介します。
- 安定的に増やす貯蓄型保険
- 積極的に増やす投資信託
- リスクを取りつつ大きく増やすヘッジファンド
1. から順にリスク・リターンともに高くなります。それぞれ、詳しく紹介していきましょう。
1. 安定的に増やす貯蓄型保険
退職金をもとに一時払いの貯蓄型保険に加入し、安定的に資産を増やす方法です。保険料として払い込んだ退職金を保険会社が運用し、満期時になれば払い込んだ以上の資金を受け取れる仕組みになっています。
特に退職金の運用先として人気があるのは、日本円より金利が高い米ドルなどの外貨で保険金を運用する、外貨建ての保険商品です。外貨で運用するため為替リスクはありますが、日本円で定期預金に預けるよりも高い運用益を期待できるのが特徴です。
基本は保険商品ということもあり、契約者の死亡時には基本保険金額が最低保証されています。死亡時の家族への保障を確保できる点は、夫婦で暮らす方も安心でしょう。
ただし、貯蓄型保険には次の注意点があります。
- 「保険商品」にはさまざまな運用コストがかかっている
- 元本保全性は高いものの、状況次第では元本割れする
貯蓄型保険に払い込んだ保険料のすべてが、保険会社で運用されているわけではありません。保険会社の運営に必要な手数料がもろもろと引かれた残りが、資産運用の対象になるのです。
また、満期前の解約や為替レートの状況によっては、元本割れしてしまう可能性も否定できません。他の投資商品に比べて元本保全性は高いものの、定期預金のような元本保証はないので留意しておきましょう。
2. 積極的に増やす投資信託
退職金をもとに特定のファンドを購入し、より積極的に資産を増やすことを目指すのが投資信託です。投資信託のファンドには、株式や債券・不動産といったさまざまな金融資産が内包されています。
どの資産をどれくらいファンドに内包するのか、ファンド内資産の売買はファンドマネージャーが行うため、投資家は運用に際して何もすることがありません。ファンドを購入して資産価値が上がるのを待つだけで良いので、より手軽に資産運用できる方法として人気があります。
貯蓄型保険は「保険契約」なので、保険によって運用期間が決まっています。投資信託には、こうした契約はありません。投資金額も運用する期間も、投資家が好きなように選べるため、より自由度の高い資産運用をできることが特徴です。
ただし、投資信託には前述した貯蓄型保険のような「死亡時の保障」はありません。純粋に資産を増やすことに特化した金融商品なので、家族への保障を用意したい方は、別で生命保険や預貯金を検討しましょう。
また、投資信託はプロが運用するといっても、運用状況によってはマイナスになることもあります。保険のような最低限の死亡保障・運用の予定利率といったものがないため、運用先のファンド選びは慎重に行いましょう。
3. リスクを取って大きく増やすヘッジファンド
ある程度リスクを取って、リターンを大きくしたいという方に適しているのが、ヘッジファンドへの投資です。ヘッジファンドとは、投資のプロであるファンドマネージャーが運用するファンドへ資金を投じて、その運用成果を得られる仕組みです。
仕組み自体は投資信託と同じですが、投資信託は不特定多数を対象にし、ヘッジファンドは特定少数の投資家を対象にしています。投資金額は最低でも1,000万円からであることが多く、高額資産を持つ方だけができるのがヘッジファンドです。
「ヘッジファンドはハイリスク・ハイリターンで危険」というイメージがある方もいらっしゃるでしょう。しかし、一口にヘッジファンドと言っても、資産運用の方法はファンドによって異なります。
元々「ヘッジ」には、リスクヘッジという意味があります。ファンド内であらゆる資産に分散投資し、さまざまな取引方法を駆使してリスクヘッジすること、つまり、どんな相場でも損失を回避して、できる限り利益を目指すのがヘッジファンドの本質です。
ファンドごとの運用方法や投資理念をよく見て選べば、個人で仮想通貨に集中投資するよりリスクを抑えることは可能です。
ただ、ヘッジファンドは特定少数に限定された投資のため、頼りになる情報が少ないというデメリットがあります。保険や投資信託のようにネットで口コミを探しても、なかなか見つからないでしょう。
詐欺的な取引にヘッジファンドが使われるケースもあり、投資する際は以下のポイントに気をつけ、ファンドの見極めに注意してください。
- 分散投資などリスク対策はどうなっているのか詳細を確認する
- 過去の運用成績、運用方針など、投資家への情報開示量は多いか
- 投資にかかる手数料体系が明確に説明されているか
ヘッジファンド選びに不安のある方は、こちらの記事も参考にしてみてください。記事で紹介しているJapan Actは、中長期で手堅く資産を育てる運用手法を採用しています。大切な退職金を、リスクを抑えつつある程度リターンも期待したいという方には適しているのではないでしょうか?
まとめ
退職金に限らず、まとまった資金の運用で失敗する原因は以下の3点です。
- 経験がないのに「いきなりハイリスク投資」に手を出す
- 運用した後の出口戦略を考えていない
- 「運用の相談先」や「運用商品」が偏っている
目の前にある退職金の運用方法だけを考えてはいけません。退職金を含めた老後資金と老後の仕事・年金受給をどうするかといったプランを明確にして、そのプランにあわせた運用方法を考えることが大切なのです。
「退職金の運用はどの方法がいいかな?」ではなく、「我が家の老後プランにあった方法は何かな?」と逆算して考えることが、失敗を防ぎ運用を成功させるポイントです。プランを考えたうえで運用する時間がない・運用に不安がある方には、貯蓄型保険・投資信託・ヘッジファンドという方法があります。
各家庭の老後プランや価値観にあわせて、適切な方法を選択してくださいね。