対話を重視したアクティビストの登場で企業価値が向上するワケ

株主としての地位を裏付けとして、企業にさまざまな要求や提案を行うアクティビスト。

かつてはアクティビスト自身の利益のため、大量の株式を取得して敵対的買収を行うなど、対決姿勢の強いアクティビストが台頭していました。

こういった強引な手法に対しては批判もあり、アクティビストに対して悪いイメージも持たれる要因ともなっています。

しかし近年では、そうした“従来型”アクティビストのような手法ではなく、企業との対話を重視した友好的なアクティビストが増加しており、彼らの活動による企業価値の向上が期待されています。

彼らは従来型のアクティビストとは、どう違い、どのように企業価値を向上させていくのでしょうか。

1、従来型のアクティビストとの違い

従来型のアクティビストは、まず資金力を武器に投資先企業の株式を大量に取得し、自ら実質的な経営権を握ります。

その上で、経営改革や増配や自社株買いといった株主還元策などを実行し、株価を引き上げ、高値で売り抜けることで短期間に利益を得るのが彼らの目的です。

そのため、自分たちが売り抜けた後に企業がどうなるか、企業の中長期的な成長などはあまり考慮されていません。

対話を重視する友好的アクティビストも、投資先企業の企業価値(株価)を引き上げて利益を得るという目的は同じです。

ただし、そのアプローチには違いがあります。

彼らは経営陣との対話を通して経営の問題点などを指摘し、経営効率やROEの改善、コーポレート・ガバナンスの改革、株主還元の実施などの要求・提案を行います。

従来型アクティビストのように強引に経営権を握って、企業を支配し牛耳るという手法ではないため、それほど多くの株式を取得する必要はありません。

かつては保有する株数の少ない株主の意見が軽視されることも少なくありませんでした。

しかし、コーポレート・ガバナンス・コードが制定されたことで、企業には投資家との対話や、株主利益を重視した経営が求められるようになっています。

この考え方が浸透することにより、今後企業は株主との面会を拒否しづらくなり、株主の意見や提案などにより真摯に向き合うようになると期待されます。

また、スチュワードシップ・コードの制定によって、機関投資家には、中長期的な企業価値向上、持続的な成長につながる適切な経営が行われているかを監視し、責任ある投資を行うことが求められるようになりました。

これにより、従来は会社側の提案にそのまま従っていた機関投資家も、企業価値の向上につながるアクティビストの提案に対しては、賛成にまわるケースも増えています。

コーポレート・ガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの考え方は、対話を重視する友好的アクティビストのスタイルと一致するものです。

また対話を重視する友好的なアクティビストは、企業の成長につながる提案を通して本質的に企業価値を向上させようと試みます。

そのため、一度高まった企業価値はその後も失われにくいという特徴があります。

これは利益の搾取が目的で、株価が上がっても一時的なもので終わってしまいがちな従来型のアクティビストとの大きな違いと言えます。

2、企業価値を向上させるアクティビストの対話手法

対話を重視するアクティビストは、企業価値を向上させるため、対話を通してどのような要求や提案を行っているのでしょうか。

ここでは実際のアクティビストの事例とともに、その手法をご紹介します。

(1)投資会社Japan Actの対話手法

アクティビストとして活動し、対話を重視する日本の独立系投資会社Japan Actでは、投資先企業の株式を一定数取得したのち、まずはその企業のIR部門、さらに経営陣との面談が行われています。

面談では決算報告書などの開示資料をもとに、今後の成長ストーリーや保有資産の使途などについてヒアリングが行われ、企業価値向上に向けた戦略について、企業とアクティビスト双方の立場から議論が交わされます。

また面談によって、決算報告書からは読み取れない定性的な情報が得られ、企業価値を向上させるための提案の選択肢が広がるといった効果もあります。

企業・経営陣に対しては、開示資料や面談から得られた情報などをもとに、主に以下のような内容の提案がなされています。

公式サイト:https://www.japanact.com/

(2)対話における主な提案

経営指標及びバランスシートの改善

  • 持合い株式の売却、保有意義のない投資有価証券、不動産の売却
  • ROEをはじめとした数値目標達成のための提案
  • 親子上場の廃止

ガバナンスの改善・強化

  • 社外取締役・社外監査役の解選任

株主価値の向上

  • 増配
  • 株主優待の導入
  • 自社株買い

(3)ヘッジファンド オアシス・マネジメントの対話手法

香港に拠点を置くヘッジファンドであるオアシス・マネジメントは、自らをアクティビストではなく、対話する株主(engaged shareholder)と標榜し、中長期的な企業価値向上を目的として、徐々にエンゲージメントのステップをエスカレートさせていく手法を採用しています。

彼らは任天堂(7974)に対し書簡を送付し、「存在価値を維持するために、消費者の需要や行動、期待の変化に対応していく必要がある」として、スマホ向けゲーム市場への参入を求めていました。

当初難色を示していた任天堂の岩田前社長も、業績の低迷などを受けスマホゲームへの参入に方針を転換します。

その後スマホ向けゲームアプリ『ポケモンGO』が大ヒットし、任天堂株が急騰したことは記憶に新しいところです(『ポケモンGO』は任天堂の協力のもと、米・ナイアンテック社と株式会社ポケモンが共同開発)。

オアシスからの提案だけがその要因とは言い切れないものの、一定の貢献があったと考えることができます。

このように対話を通して、企業の方向性に関わるような提案も行われており、実際に業績が向上し、企業価値(株価)の向上につながった例も多くあります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

コーポレート・ガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードが制定され、企業と株主の対話がより重視されるようになったことで、対話を重視する友好的アクティビストにとって、活動しやすい環境が整いつつあります。

彼らの目的は、本質的な企業価値の向上によって利益を得ることであり、その活動は長期にわたる継続的な企業価値の向上につながるものです。

特にコーポレート・ガバナンスや経営効率などに依然多くの課題を抱える日本企業は、改善の余地が大きく、アクティビストにとっては投資機会の宝庫と言えます。

対話により企業に変化、改善を促す友好的アクティビストは、日本企業がその真価を発揮するうえで重要な役割を担う存在であり、彼らの活躍が今後ますます期待されます。

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